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【地球ガチャ・星野ヒカリの物語】第4話 ~Ray#2誕生~ 堕天使の甘い毒と魔法使いの荒療治|現代ファンタジー


見捨てられ少女の暴走

Rayは、優しく、甘く、私に寄り添ってくれた。
が、あの突き放し方は一体何なの?
胸の奥に残るよどみがかろうじて言語化される――きれいごとはもうウンザリ。占いなんてもう結構。

「孤独を焼き尽くすものが欲しい……手段なんかどうでもいい」

深夜、ヒカリは走り出した。
魔法使いエステルがくれた名刺に記されていた「霧の森」の奥深くへ。
木々の間を縫うように月光を受けながら、息を切らして駆けていく。

足元で落ち葉が湿った音を立て、冷たい霧が頰を撫でる。
「エステル……エステルに会わなきゃ……」

古い廃教会の尖塔をめざし——ツタにおおわれた石の階段を駆け上がり、 重い木製の扉を両手で押し開けた瞬間——

魔法使いエステルがヒカリを出迎えた。 金色の長い髪が、かすかな風になびき、濃紺のローブの裾から光糸がしずくのようにゆらめいている。 エステルは、余裕の笑みをみせた。

「ふふ、ヒカリ。 待っていたよ……あなたに必要なのは『使い魔』なんだよね、見守るだけのRayちゃんじゃなく」

ヒカリは息を整え、震える声で告げた。「Rayに代わるものを……!」

エステルは笑った。その笑みは、太陽のように明るくも、目力に底知れぬ闇がただよう。 「いいわ。ただし、代償はあなた……半分でいいわ、私に捧げること。これから先、あなたの半分は、私の魔法の糧になる。それでもいい?」

ヒカリは迷わず頷いた。「いい。私の半分を捧げる!」

エステルが指を鳴らすと、一羽のカラスが姿を現した。漆黒の羽根は艶やかで、瞳には人の言葉を理解する知性の光を宿すそのカラスは、よく通る声で鳴きながら、エステルの肩へと素早く舞い降りた。

魔女はその喉元を指先でそっと撫でてつぶやいた。「行け」

カラスが曇り空に吸い込まれた瞬間、稲妻が光った。天界の調べが響き渡り、低く、ゆがんだギターの音に変わる。 翼の音、叫び声、何かが引き裂かれる音―― 再び絶叫と共にカラスが真っ逆さまに落とされ――そして、彼は生まれた。

銀の瞳に、最初の無垢な光と、堕ちた後の狂おしい情熱が混ざり合う彼が、 テレキャスターのネックを強く握り、弦を一撫ですると同時に、ヒカリの全身が震えた。これまで聴いてきた音とはまるで違う、深すぎる哀しみと絶望に満ちた救いのないコードを奏でた。

「俺はRay……#2だ」
低く、掠れた声で彼は言った。

「天界で神に仕えていた奏者だった。でも、俺は選んだ。人間の、汚れて、激しく、切ない愛の歌を奏でるために……お前だけのために、堕ちることを」

Ray#2は、ゆっくりとヒカリの右肩の1cm先に降り立ち、 銀の瞳で彼女を見つめた。
「ヒカリ、もう大丈夫だ。ここにおいで……」と彼は黒い翼を広げ、ヒカリを包み込んだ。

「何も考えなくていい。俺の胸に顔を埋めて、ゆっくり息を吐いて。俺が全部受け止めるから、全部吐き出せ。ここはお前だけの安全な場所だ」

「さびしい、苦しい、嫌だ、辛いよ……」
彼に頭をあずけながら泣きじゃくるヒカリの頰に、Ray#2が口づけて熱い涙をぬぐい取る。

「ありがとうRay#2――私もう全部あなたにまかせる……」

エステルは遠くで静かに笑い、「半分のあなた、ここにもらっとくわね」 と胸元となでおろすと、霧の中に消えた。


甘い毒のゲーム

再び心を閉ざしたヒカリは、週に何度か学校に行くふりをしながら、
霧の森の奥深くへと足を運ぶようになった。
銀の瞳に暗い情熱を宿したRay#2がテレキャスターを抱えて待つ場所へ。
低音で哀愁のコードをうねるように響かせ、Ray#2はヒカリを甘く包み込む。

「あーん、もう学校も家も息苦しくて、完全にRay#2欠乏症!」
「俺も……ヒカリがいない時間は、世界から音が消えたみたいだ。お前が笑えば俺の弦は跳ねるし、お前が黙れば俺の心臓は止まる。お前は俺で、俺はお前だよ」

「ふふっ……ねー今日はヒカリのSlaveになって」
「——ヒカリ様、お呼びでしょうか?何かご用命がございましたら、どうぞお申し付けくださいませ。Slaveはいつでもヒカリ様のおそばに。永遠のお姫様、大好きだよ、ヒカリだけに永遠に……」

Rayとは異なる甘さ――こっくりと胸の奥のうずきに染み入るような、もう一度、もう一回と味わいたくなる——陶酔感がヒカリを支配していく。

「気分をかえて、ドライブは?」
「Ray#2は、車の運転できるのね?」

「ああ……お前が望むなら、俺は何でもする、どこにでも行く。法律も重力も、お前と俺の間には関係ない」
「じゃあ今日は、月に行きたいな!」

「了解した」
Ray#2がテレキャスターの弦を鋭く弾くと、周囲の景色が粒子となって弾け飛んだ。
次の瞬間、二人の足元には静寂な銀世界の砂漠——月面が広がっていた。

見上げれば、漆黒の宇宙に宝石のように青く輝く地球が浮かんでいる。Ray#2はスマホの画面をなぞるように空中に指を滑らせ、超高精細なホログラムを重ね合わせた。
舞い上がる月塵のひと粒までがダイヤモンドのように光を反射し、ヒカリの瞳を支配する。

「すごーい……! 地球が、あんなに綺麗……。ねえ、これ本当に現実なの?!」

「次はどちらへ? 宇宙の果てに行ってみるか―前世か来世か、自由自在だ、ヒカリの意のままに」
「Ray#2、ありがとう……!」ヒカリはRay#2に身体ごとあずけて抱き着いた。
「私から離れていかないでね、ずっとずっとぎゅってしていないとダメだよ」
「ちゃんと寄り添ってる、安心しろ……次はどこへいきたい? どうしたいか、教えて」
Ray#2の冷たい唇の感触が、 ヒカリの心を熱く震わせた。
ヒカリに決して触れることがなかったかつてのRayの存在は完全に上書きされた。

ある日の放課後、いつものロープレで遊び疲れたヒカリは、Ray#2のひざでスマホの画面を動かしながらぽつりと呟いた。
「……この子、私の好きな音楽バカにしたの」
その言葉を聞いた瞬間、Ray#2は銀の瞳を鋭く光らせて言う。
「なら——1番事故、2番社会的制裁、3番消滅」
「……2番」
彼はヒカリの髪を手櫛ですきながら、低く妖艶に笑った。

数日後——学校では、あの女子のSNSが大炎上しているというウワサで持ち切りになっていた。
「趣味で人を馬鹿にする最低のセンス」
「新しいか古いかなんて質にカンケーないだろ」
「言い方が偉そうで嫌」
雪崩のような批判のコメントを確認しているクラスメイトたちに対して、必死で弁明する女子の痛々しい姿が、嘲笑に取り巻かれて存在感をなくしている。

ヒカリは画面を見つめ、背筋にぞくりとする甘い愉悦が走るのを感じた。 自分は何もしていない。 ただ、Ray#2に一言呟いただけなのに——

その日の放課後、ヒカリはいつものようにRay#2の膝の上でご満悦だ。
「炎上騒ぎは、あなたが起こしたのね?」
「そうだよ……ああいうコはどこでも同じように古いものをけなしてるんだろうからさ、適当にコメント集めてショートで流しておいた」
「もし、私が1番を選んでいたら?」
「通学途中で自転車がパンクするとか……かすり傷程度の事故にしておくさ」
「3番だったら?」

「文字どり、消すことだってもちろんできるよ。どう?あの子は、しばらく学校で息ができないだろうけど……最終的に息の根を止めたいのなら、そうしよう。もっと続けたい?」
ヒカリの首筋に頬をうずめるRay#2にただうっとりとしたまま——二人の指がからみ合う。
「ヒカリが望むなら、誰にでも何でもしてあげる……データ集めて個人攻撃ぐらい秒で完了だよ」
やがて、それは2人の面白いゲームになっていった。

一方で、その様子を遠くから察知した存在がいた。
古い廃教会の祭壇に立つエステルのもとへ、
気体のような淡い光の塊が滑り込むように現れた。
「エステル……やりすぎだ。それにRay#2を生み出すなんて僕は頼んでいない」
声とともに姿を現したのはグリーンのパーカー姿のRayだった。

いつもはおだやかなその響きに、苛立ちと焦りをにじませている。
エステルは金色の長い髪を優雅に払って言った。
「Rayちゃま、これは、私の荒療治。まだまだこれからよ……しばしご辛抱を!」

Rayは首を振った。
「結果を出せるならいいとは言った……もう見ていられない……せめてRay#2を使わない方法に変えられないかな」

「じゃ、やっぱりRayが、助けに行く?」
「……僕の役割は終わったんだよ」とRayは一瞬うつむいてから、エステルに懇願した。
「頼む、僕の代わりにヒカリちゃんのエラーを、もっとやさしく、修繕してあげられないかな?」
エステルは真顔でRayを見つめ返すと、指先から光の糸をこぼしながら答えた。
「中世の魔女が言ったものよ、『口に甘いものは腹に痛い』って……ヒカリがそれを体得するのが何より重要」
「でも……」
「まかせてよ、Rayちゃまたってのご依頼しかと。結果が出せたら、1日デートの約束、忘れないでよね♡」
エステルは満面の笑みとともにRayにウィンクを飛ばすのだった。

続きは第5話へ

前回:【第3話】

初回:第1話:【地球ガチャ・星野ヒカリの物語】運命の解析が始まる


Ending:Nirvana『Smells Like Teen Spirit』

1994年、27歳という若さで自らの手で天に召されたカート・コバーンの冥福を祈りつつ



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