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「何かあったときのために」では、予備費は機能しない|管理組合版「予備費」の設計、いくら積むべきか

「なんとなく」から「根拠のある備え」へ:マンション管理費・修繕積立金滞納の現場から 第58回


予算案の説明をしていたフロントが、
一行を指さした。 

「予備費として、50万円を計上しています」 

理事の一人が聞く。

「この50万円って、
どういう根拠で決めたんですか?」 

フロントが少し間を置く。
「例年と同じ金額で……」 

「去年も50万円でしたっけ?」

 「はい。ここ数年、同じです」 

「実際に使ったことはあるんですか?」 

「…いえ、ここ数年は使っていません」 

「じゃあ多すぎる?少なすぎる?
そもそもいくらが適切なんでしょうか」

 フロントの答えが続かなかった。 

「例年通り」は根拠ではない。

予備費はなんとなく積むものではなく、
設計するものだ

今日はその考え方を整理したい。





▼1:「例年通り」の予備費が、リスクへの備えを形骸化させる 


多くの管理組合の予算に
予備費」という項目がある。

しかしその金額の根拠を問われると、
明確に答えられないケースが少なくない。 

「例年通り」
「きりのいい金額にした」
「管理会社に言われた金額のまま」

これらはすべて、
根拠のない予備費だ。 

根拠のない予備費には
二つのリスクがある。


一つは「少なすぎるリスク

いざ何かが起きたとき、
予備費では足りず、資金繰りが詰まる。


もう一つは「多すぎるリスク

必要以上の資金を予備費として積み続けることで、
本来使えるはずの資金が眠り続ける。 

第35回で整理したように、
滞納を「なかったこと」にした予算が
財務を歪めるのと同じ構造で、
根拠のない予備費も財務の実態を見えにくくする。 

予備費は「何かあったとき用」
という漠然とした備えではなく、
何が起きる可能性があるか」を
想定した上で設計するものだ。



▼2:管理組合の予備費が必要な「3つの場面」 


予備費がどんな場面で必要になるかを整理すると、
管理組合特有の3つの場面が見えてくる。 

場面① 滞納による収入不足の穴埋め 

滞納が発生した月は、
その分だけ収入が計画より少なくなる。

管理費会計では、
この不足分を一時的に予備費で補う
必要が生じることがある。

第54回で整理した「回収困難見込み額」と連動して、
滞納リスクに見合った予備費の水準を考えることが重要だ。 


場面② 突発的な修繕・緊急対応費用 

・給排水管の急な破損
・エレベーターの緊急修理
・共用部の事故対応

計画外の修繕が必要になる場面は必ず起きる。

修繕積立金で対応できればよいが、
不足する場合に管理費会計の予備費が
機能する場面もある。 


場面③ 滞納回収にかかるコストの吸収 

・弁護士費用
・裁判費用
・強制執行費用

第29回で整理した専門家への依頼には
コストがかかる。

このコストを事前に予算化できていないと、
いざ法的手続きに踏み切る判断が
費用が心配だから」という理由で先延ばしされる。



▼3:予備費の設計を誤る「4つのパターン」 


パターン① 「例年通り」を繰り返す|根拠のない金額が固定化する 

毎年同じ金額を計上し続けると、
その金額が「正しい金額」として
扱われるようになる。

しかし滞納状況・建物の状態・法的手続きの
発生可能性は毎年変わる。

予備費も毎年見直すものだ。 


パターン② 予備費と修繕積立金を混同する|財務の区分が曖昧になる 

管理費会計の予備費と修繕積立金は、
目的が異なる。

修繕積立金は
将来の修繕工事のための積み立てであり、
日常の運転資金の不足を補う予備費とは別物だ。

第51回で整理した大規模修繕の資金計画と、
日常の予備費設計は分けて考える必要がある。 


パターン③ 使わなかったことを「良いこと」と評価する|本来の目的がズレる

 予備費を使わずに済んだことは、
一見すると良いことに見える。

しかし本来必要だった対応を
先送りにした結果として「使わなかった」なら、
それはリスクが潜在化しているだけだ。

第42回で整理した
判断しないリスク」と同じ構造だ。 


パターン④ 予備費の使途を事後に説明できない|透明性の欠如が信頼を損なう

 予備費を使った場合、
何に・なぜ使ったかを理事会・総会で説明できなければ、
住民の信頼を損なう。

予備費は「自由に使えるお金」ではなく
説明責任を伴うお金」だ。



▼4:根拠のある予備費を設計する「4つのステップ」 


① 過去3年間の「予定外支出」を棚卸しする 

実際に発生した
・突発修繕
・法的手続き費用
・その他想定外の支出

を確認する。

この実績が、
必要な予備費水準を考える
一番確かな根拠になる。

 ② 滞納リスクを予備費の計算に織り込む 

第56回で整理した滞納率の実態と、
第54回で整理した回収困難見込み額を参考に、
「今期発生しうる収入不足の最大値」を試算する。

その金額を予備費の下限として設定する。 

③ 法的手続きの発生可能性をコストとして見積もる 

現在の長期滞納件数・督促の進捗状況から、
今期中に法的手続きが必要になる可能性を検討する。

弁護士費用・裁判費用の概算を、
予備費の一部として組み込む。

第29回で整理した「頼み時」の判断と合わせ、
コスト感覚を持った上で手続きに臨む準備をする。 

④ 使途と残高を毎年理事会で報告する 

予備費の使途・残高・翌年への繰越を、
毎年度末に理事会で整理して報告する。

第46回で整理した「仕組みで回る管理」の一部として、
予備費の運用も定例の管理サイクルに組み込む。



▼5:「根拠で積んだ予備費が、判断を速くした」


マンション あるマンションでは、
予備費の設計を見直した。

過去3年の突発支出を棚卸しし、
滞納リスクと法的手続きコストを加味して、
従来の50万円から80万円に引き上げた。 

その年、
長期滞納1件に弁護士を依頼することになった。

費用は約40万円。

理事長が言った。
予備費に組み込んでいたから、すぐ動けた
費用が心配で先延ばしにしなくて済んだ」 


一方、
「例年通り」の予備費のままだった
マンションでは、法的手続きの費用を
「どこから出すか」という議論に時間を取られ、
手続きへの着手が3か月遅れた。

その3か月で、
滞納額はさらに増えた。

 備えの根拠」が、
判断の速さを決める




▼まとめ:予備費は「なんとなくの安心」ではなく、「根拠のある備え」として設計するものだ 


例年通りの予備費は、
安心をもたらすかもしれない。

しかし実態に合っていなければ、
いざというときに機能しない。 

・滞納リスク
・突発修繕
・法的手続きコスト

これらを想定した上で金額を設計し、
使途を説明し、毎年見直す。

それが「根拠のある予備費」だ。 

予備費は「なんとなくの安心」ではなく、
根拠のある備え」として設計するものだ。



▼今日のワンアクション 


直近の予算書を確認してください。 

予備費の金額に、根拠はありますか?
滞納リスクや法的手続きのコストが
織り込まれていますか?

 もし「例年通り」のままなら、
過去3年間の予定外支出を一度棚卸しすることから
始めてみてください。



ここまで読んでくださってありがとうございます。「うちの予備費、本当に足りているのかな」と感じたら、スキやシェアをいただけると励みになります。同じ悩みを持つ誰かに、届けてもらえたら嬉しいです。 

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【第29回】

【第35回】

【第42回】

【第46回】

【第51回】

【第54回】

【第56回】


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