「来年の大規模修繕、本当にできるんですか?」|滞納が、工事計画そのものを狂わせていく
滞納がマンションの工事計画を蝕む仕組み:マンション管理費・修繕積立金滞納の現場から 第51回
大規模修繕工事の説明会。
スクリーンには工事範囲と
概算費用が映し出されている。
住民の一人が手を挙げた。
「資金、本当に足りるんですか?」
理事長が答える。
「収支計画上は、問題ない数字になっています」
質問者が続ける。
「滞納してる人がいるって聞きましたけど、
それは入ってるんですか?」
理事長の言葉が一瞬止まる。
フロントと目が合う。
「……満額で計算しています」
会場の空気が、
少し変わった。
工事の話とお金の話は、
本当は同じ話だ。
今日はその「つながり」について整理したい。

▼1:「工事は技術の話」「滞納はお金の話」|その切り分けが落とし穴になる
多くの管理組合では、
こんな役割分担がある。
専門委員会:「工事の仕様と業者選定は、私たちで詰めます」
理事会:「滞納対応は、理事会と管理会社で進めています」
それぞれは間違っていない。
でも工事費も滞納対応も、
出どころは同じ一つの財布だ。
第2回で触れたように、
滞納は静かに、
目に見えないところで
マンションの未来を削っていく。
その「未来」の代表格が、
まさに大規模修繕工事だ。
工事の話と
滞納の話を別々の議題として扱い続けると、
誰も「資金が足りるか」という一番大事な問いに
正面から向き合わないまま、
説明会の日を迎えることになる。

▼2:滞納は「未来の工事」への前借りを生む構造だ
滞納金は、
誰かが代わりに払ってくれているわけではない。
その分の工事費は、
どこかで埋め合わせるしかない。
選択肢は限られている。
・グレードを下げる
・借入で埋める
・先送りする
どれを選んでも、
住民の誰かが負担するか、
工事の質が下がるかのどちらかだ。
そして厄介なのは、
この前借りが「今すぐ」表面化しないことだ。
滞納が発生した瞬間は、
誰も困らない。
資金が足りないと分かるのは、
たいてい工事の見積もりが出た後、
つまり、
選択肢が一番少なくなったタイミングだ。
滞納対策は、
修繕計画の一部である。
この認識があるかないかで、
組合の備え方は大きく変わる。

▼3:工事計画を狂わせる「4つの古いパターン」
パターン① 満額予算で工事計画を組む|「いずれ回収できるから」という楽観
第35回で整理したように、
滞納分も含めて満額で予算を組んでしまうと、
実際の資金繰りとのズレが工事直前まで見えてこない。
「なかったこと」にされた滞納は、
一番悪いタイミングで姿を現す。
パターン② 滞納額が「その他費目」に埋もれている|工事費との関連が見えない
決算書の中で滞納額がひとくくりにされていると、
「この滞納が、工事費にどう響くのか」
という肝心の関係性が誰にも見えない。
パターン③ 専門委員会と滞納対応が縦割り|情報が合流しない
工事を検討する委員会と、
滞納対応をする理事会が別の会議体で動いていると、
双方が持っている情報がかみ合わないまま計画が進む。
パターン④ 「足りなければ一時金で」という楽観|合意形成の難しさを甘く見る
一時金徴収は最後の手段になりやすいが、
住民合意のハードルは決して低くない。
「足りなければそのとき考えればいい」という先送りが、
選択肢をさらに狭めていく。
第42回で整理した「判断しないリスク」と、
構造は同じだ。

▼4:工事計画と滞納管理をつなぐ「4つの設計」
① 工事計画と滞納状況を「同じ会議体」で扱う
専門委員会の議題に、
滞納状況の共有を定例で組み込む。
技術の話とお金の話を、
最初から切り離さない。
② 予算は「回収見込み」ではなく「回収実績」で組む
過去の回収率をベースに保守的に見積もることで、
資金繰りのズレを早期に発見できる。
第34回で整理した見える化の発想を、
工事計画にも適用する。
③ 長期修繕計画に「滞納シナリオ」を組み込む
・滞納率が現状のまま続いた場合
・悪化した場合、
それぞれで工事費がどう変わるかを試算しておく。
シナリオを持っているだけで、
説明会での説得力が変わる。
④ 専門委員会に滞納状況の定期報告を義務付ける
「知らなかった」を防ぐ仕組みとして、
報告を制度化する。
属人的な情報共有に頼らない。

▼5:「先に開示したマンション」と「直前まで隠したマンション」
あるマンションでは、
工事計画の検討段階から
滞納状況を専門委員会に共有していた。
説明会でも
「滞納額〇〇円を織り込んだ収支計画です」と
最初から示した。
住民から厳しい質問も出たが、
理事長は落ち着いて答えられた。
「想定の範囲内です。
回収にも並行して取り組んでいます」
一時金が必要になったときも、
合意形成は比較的スムーズに進んだ。
「最初から聞いていたから、驚かなかった」
ある住民の言葉だ。
一方、別のマンションでは、
滞納の影響を直前まで開示していなかった。
工事直前になって資金不足が発覚し、
急きょ工事範囲を縮小。
住民から
「なぜ今まで言わなかったのか」という声が相次いだ。
違いは、
情報を出すタイミングだけだった。

▼まとめ:工事の計画と滞納の管理は、同じ経営の話だ
大規模修繕は「技術の話」、
滞納対応は「お金の話」、
そう切り分けて考えている限り、
どちらも中途半端になる。
工事計画と滞納管理は、
別々の議題ではない。
同じ経営の話だ。
この前提に立てるかどうかが、
資金不足という最悪のタイミングでの発覚を防ぐ
分かれ道になる。

▼今日のワンアクション
次の長期修繕計画、
もしくは直近の収支報告を思い出してください。
「その数字は、
滞納額を織り込んだ数字になっていますか?」
もし満額前提のままなら、
次の理事会で一度、その前提を確認してみてください。


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