「収納率99%って、良い数字ですか?」|滞納率という「管理組合の通信簿」の正しい読み方
数字の裏にある実態を見抜く、滞納率の読み解き方:マンション管理費・修繕積立金滞納の現場から 第56回
管理会社からの月次報告書を眺めながら、
理事長がフロントに聞いた。
「収納率99%って書いてありますけど、
これは良い数字なんですか?」
フロントが少し考えてから答える。
「数字だけ見れば、かなり高い水準です」
「じゃあ問題ないということ?」
「…ただ、
その1%の内訳が気になるところで。
1件なのか複数件なのか、
短期なのか長期なのかによって、
意味が全然変わってきます」
「同じ99%でも、
見方によって違うということですか」
「はい。
数字は一つの入口に過ぎないんです」
数字は答えではなく、
問いの入口だ。
今日は、
滞納率・収納率という数字を
どう読み解くかを整理したい。
▼1:「収納率が高い=問題なし」|その読み方が、実態を見えなくする
理事会で滞納状況を報告するとき、
多くの場合「収納率〇〇%」
という一つの数字で示される。
この数字が高ければ、
理事会はひとまず安心する。
「99%なら優秀だ」
「業界平均より上だから大丈夫」
そういう反応になりやすい。
しかし第34回で整理した
「見える化」の観点から言えば、
一つの数字は実態の「入口」に過ぎない。
99%という同じ収納率でも、
その裏にある状況はまったく異なることがある。
1%が「今月初めて遅れた1件」なのか、
「3年間回収できていない長期滞納1件」なのかでは、
財務への影響も対応の緊急度もまるで違う。
数字を見て安心するのではなく、
数字の裏を読む習慣が、
実態に即した管理を可能にする。

▼2:滞納率を「立体的に」読むための3つの軸
滞納率・収納率を正確に読み解くには、
少なくとも3つの軸で見る必要がある。
軸① 件数ベースか金額ベースか
件数ベースの収納率と、
金額ベースの収納率は異なる。
高額の修繕積立金を滞納している1件は、
件数上は1件でも金額インパクトは大きい。
第51回・第54回で整理した
財務計画への影響を正確に把握するには、
金額ベースでの把握が不可欠だ。
軸② 短期滞納か長期滞納か
発生から1〜2か月の短期滞納と、
6か月・1年以上の長期滞納では、
回収可能性も対応コストも大きく異なる。
第52回で整理したローン審査への影響も、
長期滞納の方が評価上のリスクが高い。
同じ「滞納あり」でも、
期間で意味が変わる。
軸③ 前月・前年との比較(トレンド)
今月の数字だけでなく、
3か月前・半年前・1年前と比べて
どう変化しているかが重要だ。
収納率が98%でも、
3か月連続で下がっているなら警戒が必要だ。
逆に96%でも、
改善傾向にあるなら対策が効いている証拠だ。
第47回で整理した「起きる前に気づく」発想は、
このトレンドを読む習慣から生まれる。

▼3:滞納率の読み方を誤る「4つのパターン」
パターン① 一つの数字だけで判断する|「99%だから大丈夫」の落とし穴
収納率という一つの数字が、
件数・金額・期間・トレンドという
複数の情報を圧縮している。
その圧縮を解凍せずに判断すると、
実態と乖離した認識が生まれる。
パターン② 業界平均との比較だけで満足する|「平均以上だから問題ない」という思考停止
業界の平均的な収納率と
比較することは一つの参考になるが、
それだけでは自組合の実態は分からない。
平均以上でも、
長期滞納が複数あれば財務リスクは高い。
比較は「相対評価」であって、
「絶対評価」ではない。
パターン③ 収納率と滞納率を混同する|定義のズレが報告の混乱を招く
収納率は「回収できた割合」、
滞納率は「未収のある住戸の割合」と、
計算方法が異なる場合がある。
管理会社によって
定義や計算基準が違うこともあるため、
何を分母・分子にしているかを
確認せずに数字を比較すると、
意味のない比較になる。
パターン④ 報告を受けるだけで、問いを立てない|数字が「報告」で終わる
理事会で「今月の収納率は〇〇%です」
という報告を受けて終わりにすると、
数字は情報として機能しない。
「内訳は?」
「前月より変化は?」
「対応中の案件の進捗は?」
問いを立てることで初めて、
数字が意思決定につながる。

▼4:滞納率を「経営指標」として使うための「4つの設計」
① 報告フォーマットに「3つの軸」を組み込む
月次報告を、収納率一つではなく
「件数・金額・期間別の内訳」とセットで
報告するフォーマットに変える。
第34回の滞納一覧をベースに、
この3軸が一覧で確認できる形にする。
② 「危険水域」の基準を組合として持つ
「収納率が〇〇%を下回ったら緊急対応」
「長期滞納(6か月以上)が〇件を超えたら
法的手続きを検討」
こうした判断基準を
あらかじめ決めておく。
数字が基準を超えたときに
「どうするか」を考えるのではなく、
「基準を決めた上で数字を見る」
習慣をつける。
③ 年次でトレンドグラフを作成する
毎月の収納率・滞納件数・金額を蓄積し、
年次でグラフ化する。
視覚的なトレンドは、
理事会での共有や第19回で整理した総会での
説明にも説得力を持たせる。
④ 滞納率の改善を「成果指標」として評価する
・滞納が減った
・長期滞納を解消した
こうした成果を
理事会・管理会社の評価指標として明示する。
第41回で整理した成功事例の蓄積と組み合わせ、
「何が効いたか」を振り返る材料にする。

▼5:「同じ99%でも、まったく違う二つのマンション」
Aマンション。
収納率99%。
内訳を見ると、
今月初めて1か月遅れた1件のみ。
前月まで100%が続いていた。
フロントがすぐに連絡を取ると、
「振り込みを忘れていた」とのことで
翌日入金された。
実質的な問題はなかった。
Bマンション。
同じく収納率99%。
内訳を見ると、
2年以上回収できていない長期滞納が1件。
金額は累計で50万円を超えている。
法的手続きも検討中だが、
進んでいない。
数字は同じ。
でも財務への影響も、
対応の緊急度も、
外部からの評価も、
まったく異なる。
「99%だから大丈夫」と言えるのは、
Aマンションだけだ。

▼まとめ:滞納率は「答え」ではなく「問いの入口」だ
収納率・滞納率という数字は、
管理組合の財務健全性を示す重要な指標だ。
しかしその数字は、
読み方を知らなければ
「安心するための数字」にしかならない。
数字の裏を読む。
・件数
・金額
・期間
・トレンド
の4つで立体的に見る。
そして問いを立てる。
この習慣が、
数字を「経営の道具」に変える。
滞納率は答えではなく、
問いの入口だ。

▼今日のワンアクション
直近の月次報告書を手元に用意してください。
「収納率という数字の裏に、
件数・金額・期間の内訳はありますか?
そして前月との比較はできますか?」
もし一つの数字しか報告されていないなら、
次回の理事会でその内訳を求めることから
始めてみてください。


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