「その滞納金、回収できると思って計上していませんか?」|貸倒引当金という考え方を管理組合に持ち込む
「あるはずのお金」を「ないかもしれないお金」として扱う財務の知恵:マンション管理費・修繕積立金滞納の現場から 第54回
決算書の説明をしていたフロントが、
一枚の資料を指さした。
「未収金として計上されている滞納金が、
合計で〇〇万円あります」
理事の一人が首をかしげる。
「これ、回収できる見込みはあるんですか?」
「……正直に言うと、数年前からの滞納で、
回収のめどが立っていないものも含まれています」
「ということは、帳簿上はあるけれど、
実際には使えないお金ということ?」
「はい、そういうことになります」
「それって……財務の数字として正直なんですか?」
会議室に静寂が流れた。
帳簿に載っているお金が、
本当に使えるお金とは限らない。
今日はその「見えない落とし穴」
を整理したい。

▼1:「計上されている=回収できる」|その前提が、財務判断を狂わせる
管理組合の会計では、
発生した管理費・修繕積立金は
原則としてその月の収入として計上される。
滞納が発生しても「未収金」として
資産に残り続ける。
帳簿上は「ある」。
でも実際には入ってきていない。
回収できるかどうかも分からない。
それでも数字は資産として計上されたままだ。
この状態で予算を組み、
工事計画を立てると何が起きるか。
第35回で整理したように、
「なかったことにされた滞納」が、
最も都合の悪いタイミングで財務に影響を及ぼす。
「計上されている=使えるお金」という前提が崩れたとき、
管理組合の財務判断は一気に狂い始める。

▼2:「貸倒引当金」という考え方が、財務を正直にする
企業会計には
「貸倒引当金」という概念がある。
売掛金や貸付金のうち、
回収できない可能性があるものを
あらかじめ費用として見積もっておく仕組みだ。
「あるはずのお金」を
「ないかもしれないお金」として扱う。
この発想が財務を正直にする。
管理組合には法律上
この仕組みの導入義務はない。
しかし考え方として取り入れることは、
財務の健全性を保つうえで非常に有効だ。
たとえば
「3か月以上の滞納は回収可能性が下がる」
「1年以上の長期滞納は実質的に回収困難とみなす」
という基準を持ち、
その分を財務計画上で差し引いて考える。
それだけで、
第51回で整理した大規模修繕計画との整合も、
より現実的なものになる。
財務を「あるべき姿」で見るのではなく、
「実態」で見る。
その姿勢が、
組合の経営判断を支える。

▼3:「帳簿上のお金」に頼り続ける「4つのパターン」
パターン① 未収金をそのまま資産として計上し続ける|回収困難なものを区別しない
数年にわたる長期滞納も、新規の短期滞納も、
同じ「未収金」として一括りにされていると、
財務の実態が見えなくなる。
どれが回収可能でどれが困難かを区別するだけで、
判断の精度が大きく変わる。
パターン② 未収金を含めた収支で大規模修繕の計画を立てる|資金不足が直前まで見えない
第51回で整理した通り、
滞納分を含んだ満額前提の計画は、
工事直前になって資金ショートを招くリスクがある。
「帳簿上のお金」と
「実際に使えるお金」を
分けて計画に反映することが欠かせない。
パターン③ 長期滞納をいつまでも「回収中」として扱う|実態と乖離した財務報告になる
「督促はしています」という状態が続く中で、
回収の見込みがほぼないものを
「回収中」として報告し続けると、
理事会や住民の財務認識が実態からずれていく。
第34回で整理した見える化の観点から言えば、
「見えているようで見えていない」状態だ。
パターン④ 貸倒が現実化してから初めて費用処理する|損失が一度に表面化する
回収不能が確定した時点でまとめて損失として処理すると、
その年の決算が突然悪化して見える。
住民への説明も難しくなる。
段階的に財務計画に織り込んでおくことが、
説明責任の観点からも重要だ。

▼4:管理組合の財務を「実態ベース」に変える「4つの設計」
① 滞納を「期間別」に分類して報告する
・1か月未満
・1〜3か月
・3〜6か月
・6か月以上
・1年以上
期間ごとに分類するだけで、
回収可能性の見通しが変わる。
第34回の滞納一覧の「深化版」として、
理事会の定例報告に組み込む。
② 「回収困難見込み額」を財務計画に明示する
長期滞納のうち、回収に相当の時間・コストが
かかると見込まれるものを区別し、
その金額を財務計画上で
「あてにしない資金」として扱う。
数字は変えなくても、
注記として明示するだけで財務の透明性が上がる。
③ 長期修繕計画の収支に「滞納シナリオ」を持つ
第51回で整理した
「滞納シナリオ」の考え方と組み合わせ、
「回収困難額が〇〇万円ある前提で、
工事費はどう変わるか」を試算しておく。
楽観シナリオだけでなく、
保守シナリオを持つことが経営的な判断を支える。
④ 専門家(管理会社・税理士・管理士)と「財務の見方」を合わせる
貸倒引当金の考え方を
管理組合の会計にどう反映するかは、
専門家によっても見解が異なる部分がある。
顧問の管理会社や税理士と
「どの基準で区別するか」を事前にすり合わせ、
毎年一貫した基準で運用することが重要だ。

▼5:「帳簿を正直にしたら、計画が変わった」
マンション あるマンションでは、
3年以上の長期滞納が複数件あり、
合計100万円超が未収金として計上され続けていた。
フロントの提案で「回収困難見込み額」を
財務計画から除いて長期修繕計画を見直したところ、
計画上の資金不足が明確になった。
「帳簿の数字より少ない、ということですね」
と理事長。
「そうです。でもこれが実態です」
とフロント。
その認識が、
修繕積立金の段階的値上げと、
長期滞納の法的手続きへの着手
という二つの決断を後押しした。
「正直な数字を見たから、動けた」
理事長の言葉だ。
一方、「未収金があるから大丈夫」という
前提のまま計画を進めたマンションは、
工事2年前になって初めて資金不足が判明した。
第52回で整理したローン審査への影響と同様、
問題が表面化するタイミングが遅いほど、
選択肢は狭まる。

▼まとめ:「あるはずのお金」を「ないかもしれないお金」として扱う勇気が、財務を守る
貸倒引当金は難しい会計用語に聞こえるが、
その本質はシンプルだ。
「帳簿上のお金と、
実際に使えるお金を区別する」
それだけだ。
この区別ができている組合は、
現実から目をそらさない。
現実から目をそらさない組合は、
早く動ける。
早く動ける組合は、
滞納に強い。
「あるはずのお金」を
「ないかもしれないお金」として扱う勇気が、
長い目で見て財務を守る。

▼今日のワンアクション
直近の決算書を手元に用意してください。
「未収金として計上されている滞納金のうち、
本当に回収できると見込んでいるものはいくらですか?」
その問いに答えられないなら、
次の理事会で「期間別の滞納一覧」を
出してもらうことから始めてみてください。

ここまで読んでくださってありがとうございます。「帳簿の数字、ちゃんと実態を反映しているかな」と感じたら、スキやシェアをいただけると励みになります。同じ悩みを持つ誰かに、届けてもらえたら嬉しいです。
これからも現場の目線から、役立つ視点を発信していきます。よければフォローしてお待ちください。

もし宜しければ、こちらもご覧ください👀
⬇️ ⬇️ ⬇️ ⬇️ ⬇️
第34回
第35回
第51回
第52回
いいなと思ったら応援しよう!
初めて管理組合の理事になって、滞納問題に苦慮されている方のお力に微力ながら貢献できればと思っております。応援よろしくお願いします!