便秘は腎臓を傷つけているかも?─薬剤師ができる腸腎連関の6つの介入
前回の記事では、CKD患者さんに使われるカリウム吸着薬・鉄剤・リン吸着薬が、便秘とどう関わるかを整理しました。
▼前回の記事はこちら
便秘は「出ていないこと」だけが問題ではありません。
腸の中に便がとどまり続けることで、腸内細菌のバランスが乱れ、ある物質が大量に産生されてしまうことがあります。
それが、腸内細菌由来の尿毒素です。
K吸着薬を高用量服用し、3〜4日ごとの浣腸でようやく 排便できていた患者さんが強い倦怠感を訴えたことがあります。
原因をさぐるうちに「便秘のせいでは?」と思うようになり、 排便コントロールを整えると倦怠感は軽減しました。
──あのときは気づいていなかったけど、
これが腸腎連関だったのかもしれない。
「尿毒素」というと、腎機能が悪くなると体に溜まる老廃物のイメージがあるかもしれません。
でも実は、腎機能だけが問題ではなく、腸の状態が尿毒素の量に深く関わっていることが、近年注目されています。
今回は、腸内細菌と尿毒素の関係を、薬剤師の視点から整理してみます。
クレアチニンやeGFRでは見えない、腸から腎臓への負荷の話です。
▶クレアチニンでは見えない腎臓への負荷を、 別のものさしで捉える視点については、 こちらの記事でも詳しく書きました。
■ 腸内細菌が尿毒素をつくる仕組み
CKD患者さんの腸の中では、健康な人と比べて腸内細菌のバランスが乱れていることが知られています。
これをディスバイオーシスといいます。
CKDでは、尿毒素の腸内流入や食事制限、抗菌薬の使用などによって、腸内細菌のバランスが崩れやすくなります(※1)。
そのバランスが崩れた腸内で、インドキシル硫酸やp-クレシル硫酸といった尿毒素が多く産生されるようになります。
以前、看護師から「インドキシル硫酸って何ですか?」と聞かれたことがあります。
とっさに言葉が出てこず、「腸内細菌がつくる毒素です!」と答えるのが精一杯でした。
説明として間違ってはいないのですが、あのとき自分の中でも整理できていなかったんだと思います。
この記事では、そのときの自分に向けても、少し丁寧に整理してみます。
仕組みを順番に見ていくとこうなります。
食事に含まれるトリプトファン(アミノ酸)が腸内細菌によって代謝される
インドールという物質が作られ、腸から吸収される
肝臓でインドキシル硫酸に変換され、血液中に入る
腎機能が低下していると排泄されにくく、体に蓄積していく
便秘が続くと、腸内に便がとどまる時間が長くなり、腸内細菌が産生する尿毒素の量が増え、腸壁から吸収される量も増えることが考えられています。
さらに、便秘が続くと腸のバリア機能が壊れ、
作られた尿毒素が腸壁を通って血液中に漏れ出しやすくなります。
これを「リーキーガット(腸漏れ)」といいます。

便秘が続くと、腸内から腎臓・心血管への負荷が積み重なっていきます。
腸の中で毒素が作られるだけでなく、
その毒素が全身に流れ込む経路まで広がってしまうんです。
つまり、便秘=尿毒素が増えやすい状態なんです。
■ インドキシル硫酸は、腎臓に何をするのか

インドキシル硫酸が体に溜まった先に、何が起こるのか。
腎臓と心血管、2つの方向から見てみます。
まず腎臓への影響です。
インドキシル硫酸は、腎臓の尿細管細胞に直接ダメージを与えることが知られています。炎症や酸化ストレスを引き起こし、腎臓の線維化(組織が硬くなること)を進めることが研究で示されています(※2)。
つまり、腎機能が低下するとインドキシル硫酸が溜まりやすくなり、そのインドキシル硫酸がさらに腎臓を傷つけるという、悪循環が起こります。
次に心血管への影響です。
腸内細菌が作り出す尿毒素は、
インドキシル硫酸だけではありません。
インドキシル硫酸以外にも、
腸内細菌由来の尿毒素はいくつか存在します。
たとえば、赤身肉や魚介類に含まれる成分が腸内細菌によって代謝されると、TMAO(トリメチルアミンN-オキシド)という物質が作られます。
TMAOは強い動脈硬化促進作用を持ち、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めることが報告されています(※3)。
CKD患者さんに心血管疾患が多い背景には、
こうした腸由来の毒素の関与も考えられています。
そして、本題のインドキシル硫酸も血管内皮細胞にダメージを与え、動脈硬化や心血管イベントのリスクを高めることが報告されています(※4)。
ここで大切なのは、
クレアチニンやeGFRはインドキシル硫酸の量を反映しないという点です。
eGFRが同じ値でも、腸内環境の違いによって尿毒素の蓄積量は変わります。検査値が安定しているように見えても、腸からの負荷は続いている可能性があります。
「検査値は変わっていないのに、なんとなく調子が悪い」
そういう患者さんを見たとき、腸の状態に目を向けることが、新しい視点になるかもしれません。
冒頭のエピソードで、排便コントロールが整って倦怠感が軽減した患者さん。あのとき何が起きていたのか、この流れで見ると少し見えてくる気がします。
■ 薬剤師は、腸腎連関にどう関わるか
「腸腎連関が大事」とわかっても、薬剤師として何ができるのか。
ここを整理しておきたいと思います。
① 排便状況を「ルーティンで確認する」習慣をつける
便秘は、患者さんから自分から言い出しにくい症状のひとつです。
看護師や介護スタッフと連携しながら、排便の頻度・性状・困り感を定期的に把握しておくことが、尿毒素管理の第一歩になります。
② 便秘の原因になっている薬を見つける
前回の記事で整理したように、カリウム吸着薬・鉄剤・リン吸着薬は便秘に関わりやすい薬です。
便秘が続いているときは、「下剤を足す前に、原因になっている薬がないか」を確認する視点が大切です。
③ 下剤の選択を腎機能とセットで考える
CKD患者さんでは酸化マグネシウムの使用に注意が必要な場面があります(このシリーズ#2参照)。
ルビプロストン、ラクツロース、ポリエチレングリコール(PEG)製剤など、腎機能への影響が少ない選択肢を知っておくことが役立ちます。
④ AST-120(クレメジン)の位置づけを理解しておく
AST-120は、腸内で尿毒素の前駆体を吸着することで、インドキシル硫酸などの産生を抑える薬です。CKDの進行抑制を目的として使われることがあります(※5)。
ただ、実際に服薬指導をしてみると、「飲みにくい」という声が非常に多い薬でもあります。
粒が細かく、メーカー推奨の飲み方(ストローで吸う、水に溶かすなど)を試しても「どうやっても飲めない」という患者さんは少なくありませんでした。
特に、むせがある患者さんにはストローで吸うという方法が使えません。回復期リハ病棟では嚥下機能が低下した患者さんも多く、「飲むこと自体が難しい」というケースが一番の壁でした。
効果のある薬であっても、飲み続けられなければ意味がありません。服薬方法の工夫や、継続できているかの確認も薬剤師の大切な役割です。
⑤ 「腸の話」を他職種と共有する
管理栄養士・看護師・リハスタッフと「この患者さん、最近便秘が続いているんですよね」という話ができるだけで、腸腎連関の視点が病棟全体に広がります。
薬剤師が情報をつなぐ役割を担えると、チーム全体の気づきが変わります。
⑥ 腸内環境を整える薬(プロバイオティクス)を提案する
下剤の調整だけでなく、乱れた腸内細菌のバランスを直接整えることも、腸腎連関への介入になります。
ミヤBMなどの酪酸産生菌(プロバイオティクス)は、腸内環境を整えることで尿毒素の産生を抑え、腎保護につながる可能性が研究で示されています(※6)。
もちろんエビデンスはまだ発展途上ですが、便秘管理や他の薬剤と組み合わせて「腸内環境を整える」という視点を持つことが、薬剤師の介入の幅を広げることにつながります。
処方されていなければ、医師への提案も選択肢のひとつです。

日常の中でできることが、腸から腎臓を守ることにつながります。
■ 腸から腎臓を守るという視点
インドキシル硫酸という言葉は、日常の病棟業務の中ではほとんど出てきません。
検査値にも現れず、患者さんが訴えることもなく、処方箋にも書いてない。
でも、腸の中では毎日、こうした尿毒素が産生され、腎臓や血管に影響を与え続けています。
薬剤師にできることは、特別な治療を提案することではありません。
さっき挙げた6つは、どれも病棟の中で今日からできることばかりです。
排便表を見る。原因薬を見直す。下剤を選び直す。AST-120の飲み心地を聞く。 他職種に「最近便秘が続いていて」と話してみる。プロバイオティクスを提案してみる。
こうした日常の積み重ねが、腸から腎臓を守ることにつながっているかもしれない。
そう考えると、便秘管理は「快適さのため」だけでなく、腎臓を守るための介入として位置づけることができます。
「便秘だから下剤追加」で終わらせない。
このシリーズを通じて、そんな視点が少し広がれば嬉しいです。
次回は、CKDの食事管理と腸内環境の関係、
「CKDで"腸に良い食事"は本当に良いのか」
について整理してみます。
【参考文献】
(※1) Vaziri ND, et al. Chronic kidney disease alters intestinal microbial flora.
Kidney International 83(2):308-315, 2013.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22992469/
(※2) Niwa T. Uremic toxicity of indoxyl sulfate.
Nagoya Journal of Medical Science 72(1-2):1-11, 2010.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20229698/
(※3) Tang WHW, et al. Intestinal microbial metabolism of phosphatidylcholine
and cardiovascular risk. New England Journal of Medicine 368:1575-1584, 2013.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1109400
(※4) Lekawanvijit S. Cardiotoxicity of uremic toxins: A driver of cardiorenal
syndrome. Toxins 10(9):352, 2018.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30200452/
(※5) 日本腎臓学会 編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.
東京医学社, 2023. AST-120の項.
https://jsn.or.jp/medic/guideline/
(※6) Koppe L, et al. Probiotics and chronic kidney disease.
Kidney International 88(5):958-966, 2015.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26376131/
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