「便秘だから下剤」で本当にいい?─CKD患者さんで見直したい3つの薬
前回の記事では、CKD患者さんでよく使われる便秘薬、酸化マグネシウムについて書きました。
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酸化マグネシウムは便利な薬です。
ただし、腎機能が低下している患者さんでは、高マグネシウム血症のリスクや長期使用の状況を見ながら、本当にその患者さんに合っているかを考える必要があります。
では、CKD患者さんの便秘を考えるとき、
薬剤師が見るべきなのは便秘薬だけでしょうか。
私は、そうではないと思っています。
CKD患者さんの便秘では、
「どの下剤を使うか」だけでなく、
「便秘を起こしやすい薬を併用していないか」の視点が大切です。
特に意識したいのが、
カリウム吸着薬、鉄剤、リン吸着薬。
どれもCKD患者さんにとっては大切な薬。
でも同時に、便秘や腹部症状、
服薬の負担に関わることがあります。
今回は、CKD患者さんの便秘を考えるときに見直したい薬について、腎臓病療養指導士の視点も交えて整理してみます。
■ 「便秘だから下剤追加」で本当にいい?
病棟で、こんな相談を受けることがあります。
「便が出ていないので、下剤を追加できますか?」
もちろんできます。
便秘でつらい患者さんには対応が必要です。
排便がなく、腹部膨満感や食欲低下につながっている場合には、早めに介入したいですよね。
ただ、CKD患者さんでは
少し立ち止まってみることをおススメします。
すぐに「下剤を追加しましょう」と考える前に、
一度処方全体を見てみませんか?
最近追加された薬はないか。
便秘が悪化した時期と、薬の開始時期が重なっていないか。
食事量や水分量は変わっていないか。
リハビリの進み具合や活動量はどうか。
退院後も同じ薬を続けられるのか。

色んな要因が重なっています。
便秘は、
下剤追加だけで解決するとは限りません。
むしろ、便秘をきっかけに
処方全体を見直すことで、
その患者さんの薬物療法が
少し整理されることもあります。
■ CKD患者さんの便秘は、薬でつくられることがある
CKD患者さんでは、
腎機能低下そのものに加えて、
食事制限、水分制限、活動量低下、高齢、ポリファーマシーなど、便秘につながる要因が重なりやすくなります(※1)。
さらに、CKDの治療や合併症管理のために使われる薬の中には、便秘に深く関わるものがあります。
高カリウム血症に対するカリウム吸着薬
腎性貧血や鉄欠乏に対する鉄剤
高リン血症に対するリン吸着薬
これらは、どれも必要だから
処方されている薬です。
「便秘になるから中止しましょう」という
単純な話ではありません。

大切なのは、必要性を確認しながら、
患者さんの便通や生活への影響も
一緒に見ることです。
薬を続けるために下剤を足すのか。
服用量やタイミングを見直せるのか。
他の選択肢があるのか。
こうした視点を持つことで、
便秘への対応は
「下剤を追加する」だけではなくなります。
■ カリウム吸着薬:高Kを下げる薬が便秘に関わる
CKD患者さんでは、高カリウム血症の管理が必要になることがあります(※2)。
そのときに使われる薬のひとつが、
カリウム吸着薬です。
カリウム吸着薬は、体の中の余分なカリウムを下げるために大切な薬。
でもその一方で、
便秘、腹部膨満感、食欲低下、
飲みにくさなどが問題になることがあります。
特に高齢の患者さんでは、
粉薬や懸濁して飲む薬が
負担になることも多々あります。
「飲みにくいけれど、カリウムが高いから必要」
そんな薬が増えると、服薬そのものが患者さんの負担になってしまいます。
回復期リハ病棟では、
入院中に食事量や活動量が変わります。
リハビリが進んで食事が安定してくると、
カリウム値や便通も変化することがあります。
入院中に必要だった薬が、退院前にも同じ量で必要なの?
便秘や腹部症状は強くなってない?
患者さんは退院後も無理なく飲み続けられる?
カリウム吸着薬を見たときには、
検査値だけでなく、服薬の負担と便通も
一緒に確認したいと思っています。
実際に、食事内容の見直しによって
カリウム吸着薬を減らせたこともあります。
この記事で取り上げている症例は、複数の症例を掛け合わせており、個人が特定されないように配慮しています。
CKDとして通院していた患者さんではなく、
糖尿病の既往がある方でした。
脳梗塞で入院され、食事は糖尿病食でしたが、
入院時の検査でカリウム高値があり、
カリウム吸着薬が追加されました。
まあ、普通の対応ですよね。
私が気になったのは、
食事にカリウム制限がついていなかったことです。
そこで管理栄養士に、
カリウム吸着薬が追加になったことを
情報共有しました。
すると、管理栄養士側から
食事面でカリウム制限をかけることを提案してもらえました。
その結果、カリウム値は落ち着き、
カリウム吸着薬の服用量を
減らすことができました。
この経験は、カリウム吸着薬を見たときには、
「薬が追加された」で終わらせず、食事内容とセットで考えることの大切さを教えてくれました。
薬で下げることも必要ですが、
食事側から整えることで、
薬の量や服薬負担を減らせることもあるんです。
■ 鉄剤:貧血治療と便秘のバランス
CKD患者さんでは、腎性貧血や鉄欠乏が問題になることがあります。 (※3)
そのため、鉄剤が処方されている患者さんも少なくありません。
鉄剤は貧血管理に大切な薬です。
ただ、経口鉄剤では便秘、悪心、腹部不快感、黒色便などがみられることがあります。
黒色便があると、
患者さんが驚くこともあります。
また、便の色が変わることで、
便性状の評価がしにくくなる場合もあります。
「鉄剤を飲むと便秘になるから嫌だ」
「気持ち悪くなるから飲みたくない」
こうした声があると、
服薬アドヒアランスにも影響します。
もちろん、
鉄剤も必要だから使われている薬です。
貧血が改善すれば、リハビリへの参加や活動量にも良い影響があるかもしれません。
だからこそ、便秘があるからすぐ中止という話ではなく、検査値、症状、食事量、服薬状況を見ながら考えたいところです。
Hb、フェリチン、TSATなどを確認する。
便秘や悪心がどの程度困っているのかを聞く。
服薬タイミングや剤形が合っているかを見る。
必要であれば、医師に相談する。
鉄剤は、貧血を治療する薬であると同時に、
患者さんの便通や食欲、
服薬継続にも関わる薬として見ておきたいです。
■ リン吸着薬:食事と一緒に考えたい薬
CKDが進行した患者さんや透析患者さんでは、
リン管理が重要になります(※4)。
そのため、リン吸着薬が使われることがあります。
リン吸着薬は、食事中のリンを吸着するため、
多くは食事と一緒に服用します。
ここが、他の薬と少し違うところです。
食事のたびに飲む。
錠数が多い。
食事量によって必要性が変わる。
飲み忘れやすい。
便秘や腹部症状に関わることがある。
リン吸着薬は、薬の効果だけでなく、
食事内容や食事量とセットで見たい薬です。
回復期リハ病棟では、食事摂取量が日によって変わる患者さんもいます。
食事が半分しか食べられない日もあれば、リハビリが進んで食事量が増えてくることもあります。
そのような中で、
リン吸着薬だけが機械的に続いていないか。
患者さんが食事のたびにきちんと飲めているか。
便秘や腹部症状が
服薬継続の妨げになっていないか。
薬剤師だけでなく、
管理栄養士や看護師とも共有したいポイントです。
リンについても、管理栄養士との連携で
薬剤追加を避けられたことがあります。
もともと病院嫌いで通院歴がなく、
入院をきっかけに高度腎機能低下が判明した高齢患者さんでした。腎機能はG4相当でしたが、
それまで食事に気をつけたことはなく、
入院時の検査では
リンも測定されていませんでした。
また、リハビリ目的の入院だったため、
筋力増強を目的にたんぱく質を補う補食が
追加されていました。
そんなとき、管理栄養士から相談がありました。
G4の患者さんって、たんぱく制限は必要ですか?サルコペニアの観点から考えると、制限は少し緩くてもいいのかなと思って
回復期リハ病棟では、とても悩ましい相談です。
腎機能だけを見ればたんぱく制限を考えますが、
サルコペニアやリハビリを考えると、
単純に制限すればいいわけではありません。
そこで、まずはリンを測定しておきたいと考え、
主治医に採血を提案しました。
結果は5 mg/dLを超えていました。
保存期CKDでは、
血清リンを正常範囲内に保つことが
望ましいとされています(※4)。
G4の患者さんで5 mg/dL台というのは、
すぐに薬を追加しなくとも、
一度立ち止まって食事内容を見直したい数値です。
補食を追加したことで上がったのか、
もともと高かったのかはわかりません。
すぐにリン吸着薬を追加するのではなく、
まずは補食の内容を見直すことになりました。
管理栄養士と相談し、
リン含有量の少ない補食に変更しました。
その後、リンは正常値に戻り、
薬剤を追加せずに済みました。
この経験から、リン吸着薬を考える前に、
食事内容や補食の中身を確認することの大切さを改めて感じました。
特に回復期リハ病棟では、
腎臓を守ることと、
筋力や栄養状態を保つことの
両方を見ながら調整する必要があります。

■ 薬剤師は、処方全体と生活を一緒に見る
CKD患者さんの便秘を見たとき、
薬剤師が立ち止まりたい確認ポイントを
ひとつにまとめてみました。

ポイントは、便秘を「単独の症状」として下剤に置き換える前に、 処方の変化・生活の動き・検査値の3つを横並びで見ること。
そうやって眺めると、
便秘は症状ではなく
"処方全体を点検する入口"に変わります。
そして、ここから先は
薬剤師ひとりの仕事ではありません。
看護師さんの排便記録、
管理栄養士の食事評価、
リハスタッフから聞く活動量の変化、
医師との検査値・処方変更の相談
── それぞれの目線が重なって、
はじめて 「この患者さんの便秘の主犯はどこか」が見えてきます。
CKD患者さんの便秘は、
多職種で見るほど
見えてくるものがあると感じます。
■ 便秘は、薬物療法を見直すサイン
CKD患者さんの便秘を見たとき、
薬剤師ができることは、
下剤を提案することだけではありません。
カリウム吸着薬が追加された背景を管理栄養士に共有する。
リンが測られていない患者さんで、補食内容を見ながら採血を提案する。
食事制限とサルコペニアのバランスを、多職種で一緒に考える。
薬を増やす前に、食事から調整できる余地がないか確認する。
こうした関わりも、
薬剤師の大切な役割だと思っています。
薬を追加することで解決できることもあります。
でも、薬を追加しないで済むように整えることも、
薬剤師の仕事です。
「便秘だから下剤追加」で終わらせない。
CKD患者さんの便秘を見たとき、
そんな視点を大切にしたいと思っています。
次回は、少し視点を変えて、腸内細菌は腎臓に良いのか、悪いのかについて整理してみたいと思います(※5)。
■ 参考文献
(※1) 日本腎臓学会 編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社, 2023.
https://jsn.or.jp/medic/guideline/
(※2) 日本腎臓学会. CKD診療ガイドライン2023 第10章「電解質異常」.
高カリウム血症の管理目標と治療アルゴリズム.
https://jsn.or.jp/medic/guideline/
(※3) 日本透析医学会. 2015年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン. 透析会誌 49(2):89-158, 2016.
https://www.jsdt.or.jp/dialysis/2247.html
(※4) 日本透析医学会. 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン.
透析期の血清リン管理目標値:3.5〜6.0 mg/dL.
https://www.jsdt.or.jp/dialysis/2126.html
(※5) Vaziri ND, et al. Chronic kidney disease alters intestinal microbial flora. Kidney International 83(2):308-315, 2013.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22992469/
▼ 腸腎連関シリーズ
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