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心に響く小説の冒頭の名言⓭小川洋子/住野よる/三浦しをん

彼のことを、私と息子は博士と呼んだ。そして博士は息子を、ルートと
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心に響く小説の冒頭の名言⓭
 
人生で読んだ本の中に、心に残る言葉や心に響く言葉たちの、小説も冒頭の名文があります。
 
その言葉が何度となく頭の中を巡り、声に出して読んで見たくなることもあります。
 
そんな文豪や作家たちの、有名な心に残る言葉の、冒頭・名文・一節、名言などを集めて見ました。


“小川洋子『博士の愛した数式』の冒頭”

彼のことを、私と息子は博士と呼んだ。そして博士は息子を、ルートと呼んだ。息子の頭のてっぺんが、ルート記号のように平らだったからだ。

小川洋子『博士の愛した数式』

 『博士の愛した数式』は、このようにスーッと作品の世界に、入りやすい書き出しで始まります。 

[ぼくの記憶は80分しかもたない]博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていました。
 
記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦です。
 
博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねます。それは、数字が博士の言葉だったからです。
 
やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は、驚きと歓びに満ちたものに変わってゆきます。
 
会話をするとき、博士はいつも数字を使いました。
 
数学と野球を通じて仲を深める三人でしたが、博士にとってそれは80分だけのものでした。
 
記憶できない博士との忘れられない思い出を刻む、哀しくも愛おしい話です。この小説は第1回本屋大賞を受賞しました。


“住野よる『君の膵臓をたべたい』の冒頭“

クラスメイトであった山内桜良の葬儀は、生前の彼女にまるで似つかわしくない曇天の日にとり行われた。

住野よる『君の膵臓をたべたい』


『君の膵臓をたべたい』は、余命短いヒロインの葬式が執り行われたことから始まります。
 
クラスメートで唯一、主人公と価値観を共有する山内桜良の死を前にして、どんな物語が始まるのかと、読者を刺激します。
 
主人公の少年と、余命わずかな少女・山内桜良の日常を描き、読み終われば、このタイトルの素晴らしさに気づくことでしょう。
 
高校二年の四月、高校生の志賀春樹は、盲腸の手術後の抜糸で、病院を訪れた際に、ロビーのソファに置かれた、一冊の文庫本を見つけます。
 
書店のカバーが掛けられていて、外すと本来あるはずのカバーはなく、太いマジックの手書きで『共病文庫』と書かれていました。
 
春樹がページをめくると、共病文庫は日記で、そこには膵臓の病気で数年内に死んでしまうこと、家族以外には内緒にしている事が書かれていました。
 
見てはいけないと本を閉じますが、声を掛けられ、振り向くと持ち主の桜良が立っていました。

クラスメイトの山内桜良(さくら)は、クラスの人気者で、いつも人に囲まれていました。桜良とは対照的に、主人公は1人でいることを好む地味なクラスメイトです。

「私、あと1年も生きられないみたい。」

誰にも知られていない秘密をクラスメイトに知られてしまったのに。そう言ってなんでもないみたいに桜良は笑いました。

そして主人公の春樹は、「病気のことを知ったんだから」と、半ば無理やり桜良の『死ぬまでにやりたいことリスト』に付き合わされることになります。

スイパラに行く。旅行に行く。ホルモンを食べる。お泊まりをする。

いろいろなことを一緒に経験するうちに、主人公は彼女の秘めた想いに少しずつ触れていくことになります。

最後の最後まで、懸命に生きることを選んだ桜良。

人に興味がなかったのに、そんな桜良と過ごすうちに少しずつ心が動いていく主人公の春樹だったのです。


“三浦しをん『舟を編む』”

「右という言葉を説明できるかい」

三浦しをん『舟を編む』


この言葉は文中に出て来る言葉です。この問いかけは国語学者で、辞書監修者の松本が、ある編集者に問い掛けた言葉でした。
 
それを真似して編集責任者の荒木が、自身の後継者を探す中で、問いかけに使った言葉でもありました。
 
因みに、辞書で「右」と引くと「身体の心臓がない側、あるいは北を向いた時の東側を指す、左とは反対方向のこと」と検索出来ます。
 
辞書編纂と言う仕事は、巷に溢れている言葉を見つけ出し、整理し、辞書と言う形に編纂すると言う、とてつもなく時間が掛かる仕事です。
 
三浦しをんさんの小説『舟を編む』は、2012年に本屋大賞を受賞した後、2013年には映画化され、その後アニメ化もされ、2024年にはNHKBSのドラマにもなりました。
 
それは「辞書の編纂」と言う、一見地味な仕事にスポットライトを当てた作品です。
 
玄武書房に務める荒木公平は、人生の大半を辞書の編纂に捧げて来ました。
 
定年間近になり、心残りなのは、国語学者で辞書監修者の松本と企画して来た、辞書『大渡海』(だいとかい)の事でした。
 
社内で自身の後継人材を探す中で、営業部の馬締光也(まじめ)と言う社員を見出します。
 
彼の下宿先のアパートは、廊下まで本に埋め尽くされ、彼は大学院で言語学を専攻するほど、「言葉」に興味を抱いていた人物でした。
 
そんな彼の下宿先である早雲荘に、大家のタケの孫である林香具矢がやって来て、一つ屋根の下で暮らすことになります。
 
馬締は一目見て、香具矢のことが好きになりますが、この気持ちをどう伝えていいのか分からず、悶々としました。
 
しかし言葉で告白出来ず、長文で難解な手紙を渡すと、
 
「手紙じゃなくて、言葉で聞きたい。みっちゃんの口から聞きたい、今」と、言われてしまいますが、その後、二人は結婚します。
 
『大渡海』の話が立ち上がってから十三年後と時は経ち、ついに『大渡海』は完成しました。
 
しかしその時は、『大渡海』に心血を注いて来た、国語学者で辞書監修者の松本が亡くなった後だったのです。
 
この物語には、辞書編纂に人生をかける人々が、それぞれが情熱を持って仕事に邁進する姿が描かれます。
 
そんな彼らの仕事ぶりに、辞書が持つ奥深さに気付かされる作品です。


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