本好きのためのnote 住野よる『君の膵臓をたべたい』印象的なタイトルの意味
ベストセラー小説『君の膵臓をたべたい』は、とてもショッキングな題名。
それは、クラスメートで唯一、主人公の志賀春樹と、価値観を共有する山内桜良の死を前にして、どんな物語が始まるのかと読者を刺激します。
主人公の志賀春樹と、余命わずかな山内桜良の日常を描き、読み終われば、このタイトルの素晴らしさに気づくはずです。
『君の膵臓をたべたい』の冒頭
『君の膵臓をたべたい』は、こんな冒頭の一節から始まります。
クラスメイトであった山内桜良(さくら)の葬儀は、生前の彼女にはまるで似つかわしくない曇天の日にとり行われた。
彼女の命の価値の証として、たくさんの人の涙に包まれているのであろうお葬式にも、昨日の夜の通夜にも僕は行かなかった。ずっと、家にいた。
高校二年の四月、高校生の志賀春樹は、盲腸の手術後の抜糸で訪れた病院で、ロビーのソファに置かれた、一冊の文庫本を見つけます。
書店のカバーが掛けられ、外すと本来あるはずのカバーはなく、手書きで『共病文庫』と書かれていました。
春樹がページをめくると、共病文庫は日記で、そこには膵臓の病気であること、家族以外には内緒にしていることが書かれていました。
見てはいけないと本を閉じますが、声を掛けられ、振り向くと、そこには持ち主の桜良が立っていました。
『共病文庫』のやることリスト
桜良は春樹のクラスメイトで、『共病文庫』は、彼女の秘密の日記帳だったのです。
彼女は共病文庫に書かれていることが真実であること、クラスメイトには内緒にして欲しいと言い、何でもない様子で病院を後にします。
翌日、桜良は春樹と同じ図書委員に立候補し、それから二人の奇妙な交流が始まります。
桜良の『共病文庫』には、彼女が重い膵臓の病気と戦っていく上での、本音と覚悟が綴られていました。
秘密を知ってしまったことで、春樹は桜良の願いを聞くことになるのですが、山内桜良は、飛び切り明るい女子高生で、病気のことなど、お首にも出さないような無茶なふるまいをして、春樹を困らせるのです。
そして春樹は、「病気のことを知ったんだから」と、半ば無理やり桜良の『死ぬまでにやりたいことリスト』に付き合わされることになります。
そのリストに載っていたのは、スイパラに行く。旅行に行く。ホルモンを食べる。お泊まりをするなどの、チョットいけない事も書いてありました。
いろいろなことを一緒に経験するうちに、春樹は彼女の秘めた想いに少しずつ触れていくことになります。
桜良は春樹の事を「仲良し君」と呼び、春樹は桜良を「君」と呼びます。
明るい性格の彼女に翻弄されながらも、彼女を支えたいと願う春樹でした。
二人だけの旅行計画
テストが終わり、春樹は桜良に呼び出されます。二人きりで新幹線に乗って、お泊まりの旅行に行くと言うのだ。
行き先は彼女が生きているうちに行きたかったという新幹線の終着駅。
二人はラーメンを食べ、学問の神様に参って、もつ鍋を食べた。そして、高校生には身分不相応なホテルに向かいます。
しかし、ホテル側の手違いで、二人は同室になってしまいますが、春樹は潔白を押し通し、何もやましいことはなかった。
その代わり、二人は梅酒を飲みながら「真実か挑戦」のゲームをします。
お互いにトランプを引き数字が大きい方が勝者。敗者は勝者の質問に答える(真実)か、命令に従う(挑戦)というのがルールだったのです。
生きるってなに!
ある時、「君にとって生きるって何?」と春樹に質問された桜良は、『人と心を通わせること』と答えます。
誰かを好きになる。誰かを嫌いになる。誰かと話をして、誰かと手を繋いで、誰かとすれ違って…。
色々な人と関わって感情を共有する事が、桜良にとっての『生きること』でした。
その言葉には、桜良は生きる事で、本音で自分の人生の価値観を、誰かと共有したかったんだと感じました。
そして物語の終盤、桜良は体調は万全ではありませんでしたが、回復の兆しがあったので、入院していた病院から退院を許されます。
突然の別離
その後、春樹はカフェで桜良を待っていました。しかしいくら待っても、桜良は来ませんでした。
そしてニュースが流れます。それは「女子高校生が路上で刺された」と言うニュースでした。
桜良は退院したその日、通り魔に刺されて命を落としたのです。
膵臓の病気で余命1年と宣告されていた人間が、病気とはまったく無関係の暴力で殺されたのです。
通り魔と言う予想外の結末には「人生はいつ何が起こるか分からない」と言うメッセージが込められていました。
『君の膵臓をたべたい』のタイトルの意味
小説のタイトル「君の膵臓をたべたい」は、友人でも恋人でもない二人だけの関係を巧みにかつ、如実に表す言葉でした。
それは「あなたのような人間になりたい。あなたの中で生き続けたい」と言う、恋愛を超えた、究極の愛情と憧れを表現した言葉になります。
そこには2つの意味が内包されています。
一つは昔の信仰・風習としての意味です。それは病気平癒の願いや魂の結びつきとして、誰かに食べて貰う事で平癒すると言う思いと。
もう一つは「あなたのようになりたい」と言う強い憧れでした。
それは、「君にとって生きるって何?」と春樹に質問された桜良が、『人と心を通わせること』と答えた事の、答え合わせのように響きました。
だから、最後に春樹が桜良に送ったメールの中身が『君の膵臓をたべたい』だったのです。
春樹宛の手紙が存在していた。
春樹は桜良が残した「共病文庫」に、どんな事が書かれているのか、彼女が生前どんなことを考えていたのか知りたくなります。
そこで「共病文庫」を読ませて貰いたいと、桜良のお母さんに頼み、そこで春樹は桜良の思いを知ることになります。
更に、そこで春樹宛の手紙が存在することを知り、それが図書館に隠されていたのです。
春樹は急いで図書館に向かい、桜良が隠していた自分宛の手紙を見つけます。それは、サン・テグジュペリの『星の王子さま』の本の間に隠されていました。
『星の王子さま』は桜良がとても大切にしていた本だったのです。
『君の膵臓をたべたい』の好きな言葉。
『君の膵臓をたべたい』の中で好きなシーンは、二人が出会った事が偶然だったのか否かを、クラスメイトの桜良が春樹に滾々と語る箇所です。
「僕なんかが傍についているのは偶然であって、流されているだけ…」
「違うよ、偶然でも流されてもいない。君がして来た選択と、私がして来た選択が、私たちを会わせたの」
「私たちは自分たちの意志で出会ったんだよ。私たちはみんな自分で選んでここに来たの」
この言葉に出会った時、人との邂逅は偶然だったのか、必然だったのかと自分では長く思って生きて来ましたが、
桜良が言った、「君がして来た選択と、私がして来た選択が、私たちを会わせたの」と言う一言が、とても大きく心に刺さり、そんな運命の選択が人生にはあるんだなぁと実感したのです。
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