【#創作大賞2025#ファンタジー小説部門】マァァァァァム!5話
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空が急に暗くなった。スコールかなとユキが弟達の雨具を用意していると。
「来たよ!」
マムがいきなりユキの腕を掴む。
「マ、マム?」
戸惑うユキに構うことなく、ボンはブン、と放り投げた。用意していた全ての雨具がぱあっと飛び散る。
「マァァァァァム!」
空中で叫ぶユキ。ドスンと地面に落ちて目を白黒させていると。
「マァァァァァム!」
「ギャッ!」
ゾウがユキの上に落ちてきた。
「痛いじゃないか!」
「ごめ……いや、マムが突然……」
投げ飛ばされてクラクラしているゾウが言い訳をしているところへ、マムの大きな声が聞えてきた。
「ボーっとしてる暇はないよ!オチャカナがやってきたんだ!」
そう、言いながらもマムはサト、ユタを続けて投げる。
「ゾウ!立ち上がれ!」
ユキに腕を引っ張られ慌てて立ち上がるゾウ。
ズシン!
「わっとっとっと!」
ユキはなんとかサトをキャッチしたが重さに耐えきれず尻もちをつく。しかし、4歳の子どもを受け取るのは10歳のユキには荷が重い。それでも自分をクッションにして、サトが地面にぶつからないようにはした。そんなユキの涙ぐましい努力もむなしく、サトは「わーん」と泣いた。
「サトは泣き虫なんだよ!」
落ち込むユキを見てゾウがサトを怒ると、
「オ~チャ~カ~ナ~♪」
と叫びながらユタが落ちて来た。
「ぎゃっ!」
哀れなゾウはユタの下敷きに。ユタはニコニコと笑いながら空を指さしている。空が暗くなったのは、オチャカナの群れがやってきたからだ。ユタの指さす方にオチャカナがグワンと群れをなしていた。
「さあ、今夜はごちそうだよう」
そう言いながら、ボンは素早く腰にぶら下げた筒に釣り針を詰める。筒に合う形に細く改良されたオチャカナ専用の釣り針だ。個人でオチャカナを狩る時は釣り針の方が良い。大漁を狙って網を使うといくら力自慢のボンでも、荒れ狂ったオチャカナに空中へと引き込まれてしまう。
「これからオチャカナ狩りだよ!」
「はい!マム!」
ボンの意図を察したユキが、弟達を岩の隙間に押し込む。
「やあ~なの!オチャカナ見ゆぅ!」
ジタバタするユタをゾウとサトが「今はダメ!」と抑える。
🐟🎣🐟
オヤチャイ同様、水の中の生き物も、馬鹿げた戦争の影響を受け、生活の拠点を空へと移した。
戦争中、戦火に逃げ惑う人々は川へと飛び込んだのだが。戦火で川は煮えたぎり、入水した人々は次々と命を失った。魚もプカリ、プカリと白い腹を見せ浮かんでいる。人々の無念の表情と魚の白い腹は、まがまがしい景色として人々の記憶にいまだ残っていた。
そのうち、水が人々や魚の怨念で汚染されたという噂を耳にするようになる。戦争が終わって間もなく、怨念で汚染され水に住めなくなった魚が、逃げ出し始めたというのだ。ピチャンと浮き上がり、空に向かって泳いでいく魚の目撃談がそこかしこにあふれたが、信じる人間は少なかった。
夢を話す暇あったら明日の生活を考えろ
そんな気持ちの方が強かったのだろう。しかし、ある日突然、あらゆる水生生物が水の中から飛び出して来た。川だけでなく沼、池、湖。海も例外ではない。
ピチャ……ビチャビチャビチャ!!!
毎日、空へと飛び出していく水生生物。この異様な光景を世界中の人間は黙って見ているしかなかった。そんな日々が続いたある日。空に浮かぶ1匹が近寄ってきた。思わず1人が何気なく手を伸ばすと、簡単に捕まえられる。釣り糸を垂らすより、はるかに簡単に捕まえことに気づき、食糧難に喘ぐ人々は大喜びした。
「おい!魚が取り放題だぞ!」
空に食料が浮かんでいるのだ。このチャンスを逃すものかとばかりに乱獲が始まる。凶暴化したオヤチャイより簡単に獲れる魚に、みなは喜んだ。しかし。
「ぎゃあああ!」
空に浮かぶ水生生物はオヤチャイと同じように、すぐに凶暴化した。彼らもこの狂った世の中で必死なのだろう。自らの身を守るため、やすやすと人間に掴まっていられない。水中での弱肉強食はそのまま受け継がれ、小さなものは大きなものに食われる。人間にまで必要以上に食われていたら、自分達は生き残れない。空中の水生生物達は、大小違わず、凶暴な顔へと変化していく。
最初は素手で捕まえられていたが、だんだん捕獲が難しくなった。指を食いちぎられたり、命を落とした者もいる。水の中同様、釣り針や銛、網で漁をしなければならなくなった。おびただしい種類の水生生物もとい、空中生物達はいつのまにか「オチャカナ」とひとまとめで呼ばれ始める。そう言いたくなるくらい、空を泳ぐ動物達は全て凶暴な顔つきになっていたのだった。
🐟🎣🐟
釣り針を筒に充填し終わると「せいっ!」とユキ達のところに飛び込むボン。
「ぎゃっ!」
「ぎゃっ!」
「ぎゃん!」
「オチャカナ!」
ボンは子ども達に覆いかぶさると、空へと筒を向ける。
ストッストストッ!ストッ!
一発一匹でオチャカナをボンは仕留めていく。ボンは食べられるだけを仕留めると、ゆっくりと地面のオチャカナを拾った。オチャカナ達は仲間が打ち取られたことなど気にする風もなく、群れを移動させる。ボンが隠れて撃ち落としたため、自然と群れを脱落したと思ったのだろう。群れが消えると、青空が現れた。
「キャホーイ!ウマウマ!」
ユタが両手をパチパチさせて喜ぶ。ユタはオチャカナのすり身が大好物なのだ。他の子ども達も満面の笑み。先ほど放り投げられた痛みは、もうどこにもない。
「次はオチャカナのすり身スープ用のオヤチャイが必要だねぇ」
「マム!オヤチャイは僕が!」
張り切って走り出すユキの襟首を、ボンがギュンと掴む。
「ぎゃ!なにすんだよう!」
「トロいお前が1人で言ったら頭をかじられちまう!」
「酷いよ!マム!」
アグが出征する時、下の3人は小さかった。出征の様子を覚えているのはユキだけ。そのユキに「マムを頼むぞ」とアグは言い出発したのだ。空回り気味のユキの行動は、アグとの約束から来ている。
「子どもに余計なこと言うな!」
ゴインとボンがアグの頭に一発お見舞いすると「イタタ」と目に涙を浮かべていたアグ。その後、アグとボンはしっかりと抱き合い、別れを惜しんだのだが。ユキはアグとの約束を脳に刻み込むことに必死で、全く見ていなかった……
ユキの気持ちを嬉しく思いながら、ボンがシュッと鍬を投げる。
「オヤチャイ!キャハー!」
鍬の下から目を回しているオヤチャイを見つけ、ユタとサトがニコニコしながら持ってくる。ゾウは携帯用の鍋を用意し、
「兄ちゃん!」
とユキを呼ぶ。今までは食材も鍋もユキが1人で用意していたのに。ただ、火を起こすのは、まだ長男のユキにしかできない。狩りの才能はないが、ユキは料理の才能があった。ボンはそれを高く評価している。長男としてマムと弟達を守らなくちゃいけないのに、と頬を膨らませるユキに、
「お前がいるから子連れでも安心して狩りができるのさ」
とほほ笑む。ユキは恥ずかしそうに笑った。
「ウマウマ!」
待ちきれないユタが叫ぶ。お腹……空いたと涙目のサト。
「僕がいないと食べられないものね!」
ゾウが火打石をユキに渡す。
「ありがとう!」
弟に礼を言い、ユキが料理をし始める。その様子を見るボンの眼差しは、ひたすら優しかった。
6話に続く
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