【#創作大賞2025#ファンタジー小説部門】マァァァァァム!6話
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「マム……この道!」
パアッとユキの顔が明るくなる。
「わかるかい?」
「わかるよ!家に行く道だ!」
「家に帰るの?」
ユキの言葉に反応してゾウも顔を輝かせた。
「ダドがメッセージを見たかもしれないからね」
ボン達家族が住んでいた家は戦争で跡形もなくなっていた。だが、これはボン達だけではない。中心地に住むほとんどの人が戦禍で家を失っていた。家を失った場所にありあわせの棒きれと板で簡易の家を作り住む人や、ボン達のように親戚の家へ身を寄せる人。焼野原で人々は住みやすさを求めて必死で生きていた。
こんな結果を生む戦争、必要だったのか?
口に出さずともみながそう思っていた。思っていたが口には出さない。なぜなら、今は生きることが最大の目的だからだ。
生きて戦地から戻り家族を待つ。
それが生きる希望であり望む未来だからだ。ごちゃごちゃ考えている暇がないという環境が人々を強くしていた。
戦地から戻ってきた家族が探しやすいようにするために、生活拠点を別に移した者はメッセージボードを立てる。
現在○○ニ、オリマス
焼け残り地面に捨てさられた板に、戻って来た家族へ「無事と現在の住まい」を知らせる言葉を書き残した簡易なメッセージボードは意外と役に立つ。再会できた事例を数多く見て来たので、ボンも同様に「我が家があった場所」にメッセージボードを立てた。アグが見てくれれば、いや、絶対に見て欲しい……という無事を祈る気持ちを込めて。
「病院の前あったところと今あるところの間に、ちょうど家があるんだよ」
「じゃあ、ダドは見たかもしれないね!」
顔をさらに輝かせるユキ。サトやユタは小さすぎて、いや、ユタなどまだお腹にいたため、父親であるアグの思い出がない。そのため、ユキやゾウが嬉しそうにしていてもキョトンとしているだけだ。だが、兄達のウキウキとしている気持ちが伝わったようである。
「うれしいね」
「うれちい」
とキャッキャと笑っていた。先ほどまでサトは歩けないとぐずり、ユタはお腹空いたとギャン泣きしていたのに。
「ダド、怖い?」
急にサトが不安な顔をする。
「怖かないよ!泣き虫!」
ゾウが叫ぶ!
「ダドはね、優しいんだ!優しくってさ」
そこまで言ってゾウの言葉がピタリと止まった。アグが出征したのは3年以上前。当時4歳だったゾウのアグへの記憶は薄まりつつある。サトは1歳になるかならないくらい、ユタはまだ腹の中。下の2人にとってアグの記憶は皆無といえた。
「どれくらい優しい?」
少し涙目になるサト。兄のプライドにかけてサトの問いにはパーフェクトな答えを言わねば。焦ったゾウは大声を出す。
「や、優しいんだよ!優しいったら優しいんだぁ!」
手足をバタバタさせながら叫んだせいで、ゾウの手がゴイン!とサトに当たった。わあん!と泣くサト。
「ゾウ!落ち着け!」
ユキが苦笑いしながらサトの頭をなでる。
「サト、ダドはな、とっても優しいんだ」
「優しい?ホントに?」
「ああ、マムよりずっと、やさ……」
ゴイン!
そこまで言った時にユキの目に火花が散る。
「私はいつでも優しいマムだよ!」
涙目で頭をさするユキを見てゾウがあははと笑う。ユタが
「にい、あたま、イタないない」
とユキをなでたところで、大笑いとなった。家は焼け落ちてしまったが、懐かしい思い出が詰まった場所へ向かっていることが、ボン家族の気持ちを明るくしていたのだ。ダドからの返事が書いてあるといいね、などと話をしているうちに、我が家があった場所に着いた。着いたが。
メッセージボードがない。その代わり、見たこともない掘っ立て小屋が経っている。眉をひそめながらボンはメッセージボードを探し始めた。
「おかしいね。風で倒れたのかね」
マムが力いっぱい地面に突きさしたメッセージボードがそう簡単に倒れるわけがない。そうユキもゾウも思ったが口には出さなかった。
「レディに失礼なことを言うのはどの口だい?」
そう言いながら口の端をひねりあげられるから。これ以上痛い思いをしたくない2人は瞬時に判断をしたというわけ。
「おかしいねぇ。どこにいったんだろう」
とボンが見回すと、無残にひっこ抜かれたメッセージボードが地面に投げ捨てられていた。
「誰だい!人の大切なメッセージボードを!」
プリプリしながらボンが自宅前に突き刺した時だ。
「うちの前でなにやっている!」
後ろから怒鳴り声が聞こえたのでボンが振り返る。振り返ったボンの目に傷病兵が映った。
「なにをってメッセージボードを」
「うちの前に立てるな!」
「なに言ってるんだよ!ここは……」
突然の理不尽にいきり立ったボンが鍬を構えた。
ブウウウン。
それだけで周囲の温度が3度ほどあがる。傷病兵の額にはダラダラと脂汗が浮かびだした。恐怖のあまり「うっ」と短く呻き、後ろに下がる傷病兵。
「ここは私達の家が建っていた場所だよ!」
「ど、どこにそんな証拠があるんだ!」
強気な発言をしているが、傷病兵の足は震えている。しかし、ボンの圧に押されつつ、必死にその場に立とうとしていた。
「俺ん家だ!ここは俺の家だ!」
口から泡を飛ばしめちゃくちゃに手を振り回してボンへと立ち向かってきた。ひょいっと避けるボン。すると傷病兵はズチャっと地面へ倒れ込んだ。
「な、なにしやがる!」
よく見ると傷病兵の足は片方、膝から下がない。戦争で失くしたのか……。もし、アグもどこかを失っていたら。病院に入院している、と言われているアグに思いを馳せるボン。入院と聞いて病気だろうと思っていたが、戦争で手足を失っている可能性もある。気が優しいアグのことだ。誰かをかばって大けがをしている可能性もある。だが。
五体満足でなくてもいい。生きていれさえすれば!私達のところへ戻ってくれれば。喚く傷病兵を見てため息をつくボン。アグの無事を祈りながら起こそうと手を伸ばした時だった。
「ダドになにする!」
トン、と小さな衝撃がボンの脛に走る。下をみるとサトより少しばかり年上な子どもがボンの足にかじりつき、小さなこぶしをふりあげていた。
「ダドに痛い痛いをするな!」
必死の形相で叩き続ける子ども。視線を感じた先を見るとやつれた様子の女性が深々と頭を下げている。その女性はユタとさほど違わない年の子どもを2人連れていた。1人をおぶさり、もう1人は手をつないでいる。双子だろうか。
「行くよ!」
くるりと踵を返すボン。
「え?どうして?」
「サトのおうちぃ」
「マァァァァァム……」
ボンの幼子3人がぐずる。
「いいからおいで!マムの言う通りにするんだ」
寂しそうに言うユキの表情から、なにかを読み取ったのだろう。3人は黙ってボンの後ろを追いかける。
「俺ん家だ……俺の家だ……」
男の言葉がボンの背に投げつけられる。その声を耳にするとボンの心に、無意味な戦争への怒りがフツフツと沸き起こって来た。それと同時に、家族が揃って暮らせることがいかに大切なことかも。当たり前のことなのに、それが今、ボン達には高嶺の花のように感じられた。
「あの家族は、ダドがやっと戻ってきたんだ。仕方ない……」
張り裂ける思いを屈強な身体に隠しボンは前に進む。
「ダドが戻ったら新しいおうちを作ろうね!」
明るく声をかけるユキがボンの心の支えとなる。
「その通りだね!早く、ダドのところに行こうね!」
クシャクシャとユキの頭を乱暴になでるボン。ユキが笑顔を弾けさせる。それを見て「僕も僕も」とまとわりつく子ども達。ユタが転げそうになったので、ボンがひょいと抱き上げる。
「マム……イタないない」
ボンの心臓のあたりをユタがそっとなで、ペタっと頬を胸につけた。スースーと寝息が聞こえてきたのでユタを見ると、もう眠っている。
「ユタったらもう寝てるぅ」
こんな時いつもは泣いているサトが、にこりとしてボンを見上げた。そっとサトを持ち上げ、肩に乗せる。
「さあ、ダド探しの旅、再開だ!」
「はーい」
7話に続く
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