【#創作大賞2025#ファンタジー小説部門】マァァァァァム!13話
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「次の村までまだ遠いね」
ボンが大きな川のそばで、引いていた荷車を止める。
「今日はここを宿にしよう」
子ども達はいっせいに荷車から降り、野宿の準備を始めた。その間にボンは、川でジャブジャブと寝袋や替えの衣服を洗う。石鹸も洗剤もないが、旅先で川を見つけるとそこを宿泊地にし、たまった汚れものを洗濯する。子ども達に少しでもこざっぱりとしたものを着せたい、というボンの母親心がそうさせているのだろう。
異常な戦争の影響で四季がなくなり、常に気温は高い。午前中に洗って干せば、夕方にはすっかり乾く。落ちている木切れで簡易の物干しを作り、手際よく洗濯したものを干していくボン。干し終わった洗濯物を嬉しそうに眺めていると、後ろで騒ぎが起こった。
「それ、貸せよ!」
「やあだ!」
「弱虫のくせに!」
「ヨワムチ!」
ぎゃああああん!
泣き声を聞いてボンが振り向く。
「またサトを泣かせて!」
サトを抱き上げながらゾウとユタを叱る。サトは泣きながらゾウの方を指さす。ゾウがサトのお気に入りの絵本を手に頬を膨らませて立っていた。ユタは状況を理解していないようで「ヨワムチィ♪」とサトに言っている。それを聞いてサトがまた泣く。
「サト、泣くんじゃないよ。ほら、ゾウ、その本をサトに返してやりなよ。兄ちゃんだろう?」
「やだ!」
「ゾウ!」
その本は干しオヤチャイと引き換えた本の中の1冊で、赤い表紙に綺麗な建物が描かれた絵本だった。何冊かある絵本の中でサトはそれを気に入っているようで、四六時中離さない。一度くらい読んでみたいと思ったゾウが、貸して欲しいと頼んだのが、サトは首を縦に振らない。
何度お願いしてもダメ。何回も断られているうちにゾウの怒りが爆発。力づくで奪い取ってしまったというわけなのだ。泣き止まないサトをあやしながら、ボンはゾウに言う。
「飽きたらサトも貸してくれるよ。もうちっと我慢しな」
「やだ!飽きる頃には本がボロボロになる!」
「ゾウ!」
まさかの反抗にボンはムッとするが、ゾウは不貞腐れた様子で横を向く。ユタも、そろそろ険悪な様子に気づいたようで大人しくなった。
「マムはサトばかり可愛がる!」
むくれた顔でゾウが言い返す。
ゴン!思わず手が出るボン。
「俺悪くない!サトが泣き虫なだけだ!」
「兄弟なんだから、もうちっと仲良くできないかい!」
反省の色がないゾウにもう一発お見舞いしようと、ボンが拳をあげた。
「ごみんにぃ~マァァァァァム……」
それを見たユタは泣きながらボンにかじりつく。
「ほら、サトに謝るんだよ」
促されたユタが「ごみんにぃ、サト」と素直に謝る。目にポッチリとまだ、涙が浮かんでいたサトが「いいよ……」と小さな声を出す。
「さあ、お前も……」
ボンがゾウをうながしたのだが。
「俺、悪くないもん!悪くない!」
ゾウはそう叫ぶと、干してあった洗濯物をガンと蹴とばす。ありあわせの木で作った簡易の物干し竿はガラガラと音を立てて崩れた。まさか崩れると思っていなかったのだろう。ゾウはビクっと肩をすくめた。
「ゾウ!今度という今度は」
怒り狂った表情で近づいてきたボンを見たゾウは、
「俺、悪くないもん!」
と叫んで逃げ出した。
「ゾウ!」
ユキが追いかけようとしたがボンが止める。
「ほっときな。そのうち戻って来るさ」
洗い直しだよ、とブツブツいいながらボンが洗濯物を拾うのをみたユキが、慌てて手伝い始める。ユタも兄の様子を真似て「うんしょ」と寝袋を拾う。
先ほどまで泣いていたサトだけが、心配そうにゾウが走り去った方向を見つめていた。
14話に続く
