【#創作大賞2025#ファンタジー小説部門】マァァァァァム!23話
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「もっと遊びたかった……」
目を涙でいっぱいにしたケシがシメの服をギュッと握りながら言う。ペスがクゥゥンと鳴いて近寄り、ケシの頬をペロリと舐める。
「ふぇぇぇ」
ケシがペスにしがみつき泣き出した。
「ケシ、みんなだってダドに会いたいのよ」
そう言われシメに抱き着き、泣き声を漏れないようにするケシ。
「また会えるよ、きっと」
そんなケシの頭をボンは優しくなでる。
「ホント?」
「ホントさ、世の中が落ち着いたら学校が始まる。そうしたらみんなで同じ学校に行けばいい」
「ガッコー?」
「そうか知らないんだね」
「ええ、この子が生まれた頃は」
ユキ以外の子どもがキョトンとしているのを見て、2人の母親はため息をついた。戦争中に生まれた子どもは学校を知らない。通っていたユキだって、少ししか通わないうちに学校に行ける状態でなくなった。
常に爆弾に怯え、家族と逃げ惑う日々を送るしかなかった子ども達。少し気を抜けば、家族と離れ離れになってしまう。離れ離れだけでなく、目の前で親を子を失った人がどれだけ多いことか。愚かな一部の大人が始めた戦争は、平和な日常と学びを子ども達から奪い取ってしまったのだ。
「私達大人が頑張らないとね」
「ええ、子ども達を学校へ通わせてあげないと」
「学校が始まったら一緒のところに通わせようじゃないか」
「素敵ですね!でもその前に……」
早く、さあとボンの背中を押すシメ。
「早くご主人のところへ」
シメが新しく用意してくれた荷車はスムーズに動く上、頑丈な造りとなっている。持ち手もちょっとやそっとでは壊れそうになかった。また、子ども4人と大きく育ったペスを乗せても、重さを感じさせない。
「アグさんがいらっしゃる病院までの近道はこちらです」
「ありがとう……本当にありがとう」
シメに手渡された地図を愛おしそうになでるボン。
「ケシたん……」
サトが涙目でバイバイをするとケシも小さく手を振り、母親のスカートの後ろに隠れる。
「さみしない?」
かたことの幼児語で尋ねるユタにシメが笑顔で答える。
「大丈夫よ。ケシのダドが遊んでくれるから」
「ダドが?」
驚くケシにサクがぬっと顔を近づける。
「この男前のダドじゃ不満か?」
急にすごまれケシがふぇぇとなると、シメがサクの耳を引っ張る。
「いたた!なにするんだ!」
「小さな子への接し方、教えて差し上げないとね!」
「あはは!おじさん!勉強しろよ!」
荷車の上からゾウが軽口をたたき、長男のユキがやめろ、と注意をする。そばに最強の母親ボンがいるので、安心して大口をたたいているのだ。
ゴイン!
「イタッ!マァァァァァム!なにするんだよ!」
「子どもがナマな口聞くんじゃないよ!」
「酷いよぉぉ!」
「ボンさん!乱暴はダメですよ」
シメにたしなめられるボン。
「つい手が出ちまって……」
悪かったねと謝るボンにゾウが、わぁぁぁんと泣きながら抱き着く。
「ああ!ズルイ!にーたんずるい!」
ユタが慌ててボンとゾウの間に入り込む。サトも「僕も……」と言いながらそばをうろうろ。ユキが笑いながらサトを抱き上げボンのそばへと連れて行く。
「あーまだるっこしいねぇ!みんなまとめて抱っこだよ!」
力強くボンが子ども4人を抱き上げた。
「待って!マム!僕は兄ちゃんだから!ダドの代わりだから!」
「子どもは遠慮なんてするもんじゃないよ!」
がははと笑うボンにゾウが、じゃあ俺もという顔をすると、礼儀をわきまえた上でのことだよとたしなめる。はあいと返事をするゾウ。もうすぐアグに会えるという未来がボン一家を明るく照らす。それをニコニコと眺めるシメとケシ。
「でもよ、アグさんはモテモテでございますからねぇ」
「あなた!」
シメにたしなめられてサクは黙ったが、それをボンは聞き逃さなかった。
「なんだって?」
子ども達をそっと荷台に下ろし、尋常ではない殺気を放ちながらボンはサクに近づく。
「優しいアグさんは病院でも人気も……な、なんだよ!」
「どういう風に人気者か教えていただこうかね」
「あ……え……と。へへっ」
「へへっじゃないよ!」
ズゥゥゥン。
ものすごい地響きと共にサクの前に拳の形の穴が開き土煙が上がる。
シュウウウウ。
「あ、いや、単なる軽口で」
「火のないところに煙は立たないっていうじゃありませんか?サクさん?」
「俺の勘違いです!」
「知ってること喋っちまいな!」
ズゥゥゥン。
地面に2つ目の穴が開き、シメがサクの肩に手を置く。
「観念して喋りなさいよ」
「はい……」
・・・・・・
爆弾で気を失い、病院に運ばれたサクとアグは傷も浅く、早いうちに動けるようになった。戦争が終わり、なにもする気が起きないサクと違い、アグは率先して看護師の手伝いをしていたという。
「アグらしいよ……」
ボンが少し頬を赤らめたので、サクは話をやめようとする。
「まだ全部じゃないだろ?」
ずいっと顔を近づけられ、しぶしぶサクは話を続けた。
戦争中はなんの戦力にもならなかったアグだが、気配りのできる性格は病院の手伝いで大いに力を発揮していく。医療の知識はないが、あらゆる雑事を引き受け、医師や看護師がより働きやすい環境を整えた。けが人や病人が快適に過ごせるよう、病室の整備も積極的に行う。
「みんなで元気になって家族の元へ戻ろう」
笑顔でそう言い続けるアグは病院の希望になっていった。アグの周りに人の輪ができるが、特に看護師からの人気は絶大だったそうだ。
「その中でも図体がやたらでかい看護師が特に……」
サクがそこまで言った時、すくっとボンが立ち上がる。サッと荷台の持ち手を握り、シメの方へと顔を向けた。
「出発するよ!」
「お気をつけて!」
ダダダーーー!
土煙が消えた時にはもうボン達の姿は見えなくなっていた。
「早え……」
呆然とするサクにくるりと向き直るシメ。
「本当に、あなたって人は。徹底的に再教育をしないと」
「ったく、強くなったもんだなお前」
「あなたに会わせるまでケシを守らなくちゃいけなかったんですもの」
それを聞き感極まったのだろう。シメの後ろにいるケシにニコリとするサク。
「もう漏らされても怒らない父親になるからな」
「僕もうチッコもらさないよ!」
そうかあ、と笑いながらケシを高い高いするサク。
「ボンさん、あの勢いなら明日には病院につきそうですね」
「ああ、あの女は規格外だからな」
「でも大柄な看護師さんのことが心配だわ」
「ああ……それなら」
大丈夫だろう、と言いながらひょいとケシを肩に乗せるサク。
「あら、なにかまだ、話していないことがあるの?」
とたずねるシメに道すがら話すよ、とサクが言う。淡い記憶しかなかった父親に緊張気味のケシがぎゅっとサクの肩をつかむ。肩から地面へと下ろし、サクがケシに語りかけた。
「これから、立派なダドでいられるよう頑張るからな」
無言でうなずくケシと、それを満足そうに見つめるサクをシメは幸せそうに見つめるのだった。
24話(最終回)へ続く
