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酢は「米酢」と「純米酢」で別もの──ラベルの一文字を見分ける話


はじめに


毎日のように使うお酢ですが、ボトルの裏をじっくり読んだことはありますか。

お酢は、種類の名前がとても紛らわしい調味料なんです。

米酢」と「純米酢」など、似た言葉が並んでいて、なんとなく雰囲気で選んでしまいがちですよね。

でも、これらの言葉にはひとつずつルールで決められた意味があります。

読み方を知ると、同じ棚のお酢が、まったく違うものに見えてきます。


まず、お酢は大きく2種類に分かれる


お酢は、大きく「醸造酢」と「合成酢」という2つのグループに分けられています。

この2つの違いを知るために、まずは2つのキーワードを押さえておきましょう。

ひとつは「発酵(はっこう)」です。
発酵とは、目に見えない小さな菌たちが、材料の成分を別のものに作り変えてくれる魔法のような力のことです。

たとえば、お米や果実に含まれる糖を、菌がアルコールに変え、そのアルコールをさらに別の菌が酸っぱい成分に変えていく。こうして時間をかけて、原料が自然にお酢へと姿を変えていきます。

パンやヨーグルト、味噌なども、この発酵の力で造られているのは広く知られていると思います。

もうひとつは「酢酸(さくさん)」です。
酢酸は、お酢の酸味そのものの素になっている成分です。

先ほどの発酵で、最終的にできあがる「お酢の酸っぱさの正体」が、この酢酸なんです。

そしてこの酢酸だけを、濃縮したのが「氷酢酸(ひょうさくさん)」。

気温が16.7℃を下回ると氷のように固まることから、この名前がついています。

今は発酵ではなく、石油由来の原料から化学的に合成して作られるのが主流で、発酵を経ずに酸味をつけるための工場などで手軽に酸っぱさを出すための材料として使われています。

手軽な材料を使うか、じっくり発酵の力を借りるか。これで、お酢は2つのタイプに分かれます。


⚫︎醸造酢:
米や麦などの穀物、果実といった原料を、菌の発酵の力でお酢に変えたもの。氷酢酸や酢酸には頼らず、発酵だけで酸味を生み出したものです。

⚫︎合成酢:
氷酢酸や酢酸を水で薄め、調味料で味をととのえたお酢。発酵で造った醸造酢を混ぜたものもあります。

合成酢が家庭用として棚に並ぶことは少なく、多くは業務用や加工品の中で使われています。

お店で選ぶお酢は、まず「醸造酢」であることが基本になります。


「さとうきび」が使われていても『米酢』


ここが今日いちばん伝えたいところです。

「米酢」と聞くと、お米だけでできたお酢を想像しますよね。

ところが実は、パッケージのルールでは、「米酢」という名前をつけるためには〜「お酢1リットルあたり、米を40グラム以上使っていること」なんです。

つまり、この少しの量さえクリアしていれば、米以外の原料が入っていても「米酢」と表示できるということ。

実は、この40グラムというのはかなり少ない量で、それだけでこれっぽっちのお米では、お酢を完成させることはできないんです。

そこで多くの米酢は、原材料に「アルコール」(または「酒精」)を加えて造られています。これは、お酢の材料になるお酒のことです。

お酢は、お米などから一度お酒を造り、それを発酵させて酸っぱくします。
つまりアルコールは、お酢になる前の姿なんですね。

ではなぜ、わざわざ加えるのか。

お米の使用量を減らせるからです。お米だけで造ろうとすると、その量に比例して原料費が上がります。

アルコールを加えれば、お米からお酒を造る工程も省けます。手間と原料を減らして、効率よく造るための方法なんです。

危険なものではありませんが、私たちが想像する「お米だけでできたお酢」とは、ちょっとイメージが違いますよね。


お米だけのお酢が「純米酢」


それに対して、本当にお米だけで造られたお酢には、「純米酢」という特別な名前がつけられます。

」の一文字がつくかどうかで、中身がはっきり変わるということです。

純米酢を名乗るには、米以外の原料(醸造アルコールなど)を使っていないことがルールになっています。

作り手によっては、 さっきの「たった40グラム」というルールを大きく飛び越えて、200グラム以上のお米を使って仕込むところもあります。お米の甘みとまろやかな酸味は、こうしたお酢ならではのものです。

選ぶときのいちばん簡単な見分け方は、パッケージの裏にある「原材料名」をチェックすることです。

」だけなら、「純米酢」を名乗れるお酢。

「米、アルコール」「米、醸造アルコール」と書かれていれば、「純」はつけられない米酢です。どちらが正解、というわけではないですが、「米酢」という同じ名前の中にこれだけの幅がある、と知っておくことが大切です。


「純」を名乗れるのは、一種類の原料だけのとき


この「純」のルールは、米酢だけの話ではありません。

パッケージのルールでは、原料をほかのものを混ぜず、たった1つの材料だけで造ったお酢にだけ、その原料名を使った「純◯◯酢」と書くことができるんです。

りんご果汁だけで造ったお酢は「純りんご酢」、といった具合です。つまり、いろいろな材料が混ざっていると「純」とは名乗れないんですね。

だから「純」の一文字は、単なる高級そうな飾りではなく、「余計なものが混ざっていないよ!」という証拠なんです。お酢売り場では、この一文字がさりげないですが、お酢選びの心強いサインになります。


「天然」「自然」「静置発酵」という言葉のルール


お酢にも、パッケージに書いていい言葉と、いけない言葉があります。お酢の業界の厳しいお約束で、「天然」「自然」という言葉は使ってはいけないことになっています。塩や味噌と同じで、 「なんだか体に良さそう」と、イメージだけで選ばれてしまうかもしれないからです。

いっぽうで「静置発酵(せいちはっこう)」という言葉には意味があります。

これは、タンクをかき混ぜず、静かに置いたまま時間をかけて発酵させる、昔ながらの製法のこと。表面から自然に発酵が進み、100日から180日ほどかけてゆっくり熟成させます。

短期間で効率よく発酵させる方法に比べ、手間も時間もかかります。

ラベルに「静置発酵」とあれば、昔ながらの丁寧な造り方をしているよ、という素敵なサインになります。


お酢の「アルコール」は、体に残るの?


原材料に「アルコール」と書いてあると、お酒に弱い方やお子さんのいる家庭では気になるかもしれません。でも、心配しなくて大丈夫ですよ。

お酢は、アルコールが酢酸菌の働きで酢酸に変わることで造られる調味料です。じっくり発酵が進むにつれて、アルコールはお酢へとしっかり生まれ変わるので、製品にはほとんど残りません。

原材料の「醸造アルコール」は、お酢を造るための「最初のお手伝い役」みたいなもので、そのまま残っているわけではない、ということです。


原材料と製法で選ぶと、こんなお酢にたどり着く

ここからは、これまでの選び方(原材料が米だけで、静置発酵)に合うお酢を、具体的に商品名で挙げますが、おすすめやランキングではありません。

すべて原材料が「米」だけの純米酢で、有機栽培農薬不使用の米を使っているものを選びました。

✔︎純米富士酢(飯尾醸造)

原材料:米(京都府・栽培期間中農薬不使用)
製法:静置発酵・長期熟成

京都・丹後の棚田で農薬を使わずに育てた米と、山からの伏流水だけで造る純米酢。酢1リットルにつき200gという、「米酢」と表示できる量の5倍の米を使っています。

自社の蔵で杜氏が酒を仕込むところから始め、米づくりから数えると2年以上かける造りです。

✔︎富士酢プレミアム(飯尾醸造)

原材料:米(京都府・栽培期間中農薬不使用)
製法:静置発酵100日・熟成8ヶ月以上

同じ飯尾醸造が、ルールで決められた量の、なんと8倍!たっぷり320gものお米を使った贅沢な一本です。

新米をたっぷり使っているからこそ、お米のうまみや甘みが引き出されていて、純米富士酢に比べて穏やかな酸味になります。お米の量が変わるだけで、純米酢ってこんなに味が変わるんだ!」と驚くはずです。


✔︎老梅 有機純米酢(河原酢造)

原材料:有機米(福井・石川・秋田県産)
製法:静置発酵

福井県大野市の蔵が、国産の有機栽培米だけで造る有機純米酢。酒造りの工程を丁寧にすることで、米酢特有の「ムレ臭」がない、フルーティーな香りが特徴です。

酒が酢に変わりきるまで、およそ3ヶ月かけています。

✔︎有機純米酢(杉田与次兵衛商店)

原材料:有機米(国産)
製法:古式醸造(静置発酵が基本)

1884年創業、広島県尾道の酢蔵。

国内産の有機米でまずはお酒を造り、そこから菌の力でのんびり発酵させていく「古式醸造」を基本にしています。

職人さんが様子を見ながら優しくかき混ぜる、ちょっと特別な造り方をしていて、コクと旨みのバランスをとっています。

✔︎有機純米酢(庄分酢)

原材料:有機米(国産)
製法:静置発酵・長期熟成

福岡県大川市で1711年から酢を造る庄分酢が手がける有機純米酢。国産の有機白米と有機米麹を原料に、カメの中で長期間静置発酵させています。

蔵に棲みつく「蔵付き菌」が酢酸菌を活発にするといわれ、何ヶ月もかけて熟成させます。

✔︎純米酢(大山食品)

原材料:米(国産・栽培期間中農薬不使用)
製法:静置発酵(約6ヶ月)

宮崎県綾町の蔵が、九州産の無農薬栽培米と「綾の名水」で仕込む純米酢。地中に埋めたカメに、米・麹・水・種酢を入れるだけのシンプルな造り。

約6ヶ月かけた静置発酵で、ツンとこないまろやかな酸味に仕上がります。


なお、原材料や規格はメーカーの都合で変わることがあります。

購入するときは、必ず現物の表示を確認してください。

まとめ:お酢売り場で見る3つのポイント


①原材料名が「米」だけか

「米、アルコール」ならアルコールを加えたお酢。原料が米だけのものは「純米酢」と名乗れるので、「純」の一文字も目印になります

②「静置発酵」の表示があるか
時間をかけた昔ながらの造りの手がかり

✔︎もう一歩こだわって選んでみたいなら、「米の育て方」を確認

「有機」や「有機JAS」、「栽培期間中農薬不使用」の表示を確認する

「有機米」「有機JAS」は外部の厳しいチェックをクリアした、お墨付きのお米のことです。

「栽培期間中農薬不使用」は農家さんが「農薬なしで育てましたよ」と教えてくれているものになります。

お酢は、名前が紛らわしいぶん、原材料名を読む練習にうってつけの調味料です。

名前のイメージではなく、裏面の原材料で選ぶ。

今日、台所のお酢を裏返してみてください。原材料の欄には、何と書いてありますか。


※本記事は特定の商品の効能を保証するものではありません。製法や選び方に関する考え方は筆者個人の見解です。

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