醤油こそ、裏の表示がいちばん正直──「本醸造」「丸大豆」「天然醸造」の本当の意味
はじめに
毎日のように使う醤油ですが、ボトルの裏をじっくり読んだことはありますか。
先に結論を言うと、醤油は数ある調味料の中でも、いちばん「表示が親切」な部類の調味料なんです。
どう作られたか、何からできているかが、ルールによってラベルにしっかり書かれることになっているからです。
つまり、読み方さえ知ってしまえば、売り場でボトルを裏返すだけで、その醤油の素性がほぼ全部分かるということ。
今日はその読み方を、順番に見ていきます。
醤油の材料は、本来たった3つ
まず原点から。
伝統的な醤油の材料は
・大豆
・小麦
・食塩
これだけです。
大豆と小麦に麹菌を育てて「麹」をつくり、食塩水と合わせて「もろみ」にし、発酵・熟成させて搾る。
たった3つの材料と微生物の力で、あの複雑な香りと味が生まれます。
だから醤油選びの第一歩は、裏を返して、原材料名を見ることです。
名称の欄に「製法」が必ず書いてある
ここが醤油のすごいところです。
醤油のラベルの「名称」欄には、製法の区分を必ず書くルールになっています。
見るのは、名称の後ろのカッコの中。
たとえば「こいくちしょうゆ」なら、後ろのカッコに製法が3種類のいずれかで書かれています。
(本醸造):
麹と食塩水だけで発酵・熟成させた、日本の伝統的な製法。国内生産の約8割がこの方式です。
(混合醸造):
もろみの段階でアミノ酸液などのうま味調味液を加えて発酵させたもの。
(混合):
搾った後の醤油にアミノ酸液などを加えたもの。
麹の発酵だけで味を作ったのが「本醸造」。
発酵以外の力も借りたのが「混合醸造」、「混合」。
うすくちしょうゆでも同じで、「うすくちしょうゆ(本醸造)」のように書かれます。
この違いが、名称欄を見るだけで分かります。
ひとつ付け加えると、混合や混合醸造の醤油は「劣った醤油」ではありません。
九州の甘い醤油のように、その土地の食文化として長く愛されてきたものも多くあります。
私が伝えたいのは優劣ではなく、どう作られたかがちゃんと書いてある。
それを読めるようになりましょうという話です。
醤油の大豆には2種類ある
次は原材料欄の話ですが、その前にひとつ知っておきたいことがあります。
醤油に使われる大豆には、大きく2種類あるということです。
ひとつは「丸大豆」。
収穫したままの、まるごとの大豆です。
大豆にはもともと油分が含まれていて、この油分が醸造の間にグリセリンなどに変化し、まろやかさと深いコクを生むと言われています。
もうひとつは「脱脂加工大豆」。
丸大豆からあらかじめ油分を搾り取った大豆です。
醤油造りで主役になるのは大豆のたんぱく質なので、油分を除いても醤油は問題なく造れます。
加工の手間が少なくコストを抑えられるため、実際に多くの醤油がこの脱脂加工大豆で造られています。
危険なものではありません。
ざっくり言えば、油分を残したのが丸大豆、油分を抜いたのが脱脂加工大豆。
この2つを頭に入れておくと、次の原材料欄がすっと読めます。
原材料欄では、大豆の書き方に注目
醤油では、丸のままの大豆を使ったものは「大豆」、油分を除いた大豆を使ったものは「脱脂加工大豆」と、原材料欄に区別して書くルールになっています。
だから、どちらの大豆で造られた醤油かは、原材料名を見れば分かります。
丸大豆で仕込んだ醤油は『丸大豆しょうゆ』という商品名で売られることもあり、コクとまろやかさが特徴とされます。
ただし、この名前を付けるかどうかはメーカーの自由。
丸大豆を使っていても商品名に入れていない醤油はたくさんあるので、確かめる場所はあくまで原材料欄です。
すき焼きや照り焼きのような、醤油のコクで食べる料理だと違いを感じやすいところです。
私は、材料がシンプルで素性の分かるものが好きなので、原材料が「大豆、小麦、食塩」だけの醤油を選んでいます。
これも良い悪いではなく、何を大事にするかの選択です。
「遺伝子組換え」の表示は、醤油では少し事情が違う
大豆と聞くと、遺伝子組換えが気になる方も多いと思います。
ここは少しややこしいので、正確に整理します。
まず前提として、豆腐や納豆のように大豆のかたちが残る食品には、遺伝子組換えに関する表示義務があります。
ところが醤油は事情が違います。
醤油は発酵と加熱の工程で、組み換えられたDNAやたんぱく質が分解されてしまい、最新の技術でも検出できなくなる。
このため、醤油には遺伝子組換えの表示義務がありません。
つまり、表示がないからといって、その醤油が遺伝子組換え大豆を使っていないとは限らない、ということです。
そのうえで、事業者が任意で表示することは認められています。ラベルで見かける書き方は主に2つです。
✔︎「大豆(分別生産流通管理済み)」:
遺伝子組換えが混ざらないよう、生産・流通・加工の各段階で分けて管理された大豆、という意味です。
✔︎「大豆(遺伝子組換えでない)」:
上記の管理に加え、遺伝子組換えの混入がないと認められた大豆にだけ使える表示です。
補足すると、2023年4月から表示ルールが変わり、「遺伝子組換えでない」は混入がゼロ(不検出)でないと表示できなくなりました。
以前より厳しくなっています。
気になる場合は、原材料欄の大豆の後ろにこうした注記があるか、あるいは「国産大豆」と書かれているか(国内では遺伝子組換え大豆の商業栽培が行われていません)を手がかりにするとよいと思います。
輸入大豆とポストハーベストの話
無添加や自然派の文脈でよく話題になるのが、輸入農作物の「ポストハーベスト農薬」です。
収穫した後に、輸送・保管中の害虫やカビを防ぐ目的で使われる薬剤のことで、輸入される大豆や小麦で用いられることがあります。
ここも、不安を煽る情報が多い分野なので、制度を正確に押さえておきます。
日本では、収穫後に使われるこうした薬剤は「食品添加物」として扱われ、農薬と同じように残留基準が定められ、基準値以下であることが求められます。
つまり、輸入だから無法地帯というわけではなく、一定のルールの中で管理されているのが実際のところです。
そのうえで、「できるだけ国産の原料を選びたい」という考え方は、私はよく分かります。
その場合の手がかりは、原材料欄の産地表示です。
「国産大豆」「国産小麦」と書かれていれば、輸送に伴うこうした処理の心配は基本的にありません。
ここでも、判断の材料は原材料欄が与えてくれます。
「天然醸造」は、醤油でも定義のある言葉
醤油では「天然」「自然」という言葉は原則使えません。
例外は「天然醸造」だけです。
天然醸造と表示できるのは、本醸造方式で、セルラーゼ等の酵素で醸造を早めておらず、かつ定められた添加物を使っていない醤油に限ると、表示ルールで決められています。
ここで出てくる「セルラーゼ」は、植物の繊維(セルロース)を分解する酵素のこと。
醸造にこうした酵素を加えると、大豆や小麦の分解が進んで発酵を早めることができます。
数ヶ月で仕上げたい大量生産では便利な方法ですが、天然醸造はこの酵素の力を借りず、麹の働きと時間だけで醸造したもの、という意味になります。
つまり醤油の「天然醸造」も、イメージ広告ではなく製法の証明。
麹の力だけで、時間をかけて育った醤油の目印です。
「特選」「超特選」は、数値で決まっている言葉
「特選」と聞くと、なんとなく高級そうな飾り言葉に思えますよね。ところが醤油では、これは中身の濃さで定義された言葉です。
醤油にはJAS規格の等級(特級・上級・標準)があり、うま味の指標である全窒素分などで区分されます。
そのうえで、特級より全窒素分が10%以上多いものだけが「特選」、20%以上多いものだけが「超特選」を名乗れます。
要するに、特選・超特選は「うま味成分の濃さ」の表示。
イメージではなく、中身の濃さを示す言葉だったんです。
ただし、ここで大事な注意がひとつあります。
この等級表示は「任意」だということです。
JASの検査を受けて等級やマークを表示するかどうかは、メーカーが選べます。
だから、うま味成分の量が特選・超特選の基準を満たしていても、あえて表示していない醤油はたくさんあります。
とくに有機醤油や小さな蔵の天然醸造醤油には、等級の記載が見当たらないものが少なくありません。
これは質が低いからではなく、そもそも「うま味の濃さで競う」という土俵に乗っていないから。
原料の有機性や昔ながらの製法といった、別の価値で選んでもらう醤油だからです。
つまり「特選」は、あくまで「うま味の濃さが基準を超え、かつメーカーがその表示を選んだ醤油」の目印。
書いていない醤油が劣るわけではありません。
等級表示がある醤油はうま味の濃さを、記載のない醤油は原材料や製法を、それぞれの物差しで見る。
この使い分けができると、売り場の風景がぐっと立体的に見えてきます。
「生」には2つの読み方がある
醤油の「生」は少し面白くて、読み方で意味が違います。
生(なま)しょうゆ:
火入れ(加熱処理)をせず、ろ過などで菌を除いたもの。搾りたてに近い、フレッシュな香りが特徴です。
生(き)じょうゆ:
本醸造方式で、大豆・小麦・食塩のみを使い、食塩以外の添加物を加えていないもの。
発酵食品では、加熱処理をしたかどうかは原材料欄からは読み取りにくいものですが、醤油では「生(なま)」の表示がその手がかりになります。
ここでも、定義のある言葉が目印になってくれます。
原材料と製法で選ぶと、こんな醤油にたどり着く
ここからは、これまでの選び方(名称が本醸造で、原材料が大豆・小麦・食塩だけ、大豆は丸大豆)に合う醤油を、具体的に商品名で挙げますが、おすすめやランキングではありません。
すべて国産の丸大豆と小麦を使い、天然醸造で造られたものを選びました。
✔︎正金醤油 天然醸造醤油 こいくち(香川県・小豆島)
原材料:大豆(国内産)、小麦(国内産)、食塩(オーストラリア原産)
大正9年創業当時からの杉桶を今も使い続ける蔵。
蓋の開いた木桶で、常温のまま1年以上かけて発酵・熟成させています。
加熱処理をせずに仕上げた生(なま)の醤油で、遺伝子組換え大豆も不使用です。
✔︎大徳醤油 丸大豆醤油(兵庫県・但馬)
原材料:大豆(国産)、小麦(国産)、食塩
こいくちしょうゆ(本醸造)。
国産丸大豆、国産小麦、国産の平釜塩という3つの素材だけで造ります。
もろみに熱や培養酵母を加えず、蔵に住み着いた酵母の働きで、四季の温度変化のなかじっくり発酵させる天然醸造です。
✔︎フンドーキン 吉野杉樽天然醸造醤油(大分県・臼杵)
原材料:大豆(国産、分別生産流通管理済み)、小麦(国産)、食塩
国産丸大豆・国産小麦・天日塩を、吉野杉で作った木樽に仕込み、自然の温度で1年以上熟成させた本醸造醤油。
500mlで800円前後と手に取りやすく、「まず一本、天然醸造を試したい」ときの入り口になります。
✔︎井上 古式じょうゆ(島根県)
原材料:大豆(国産)、小麦(国産)、食塩
島根の小さな蔵が造る天然醸造醤油。
一般的な醤油より大豆の量を多く使って仕込むため、うま味が濃く、ほんのりとした甘みがあります。刺身や冷奴など、醤油そのものの味が出る使い方に向いています。
✔︎弓削田醤油 有機醤油(埼玉県)
原材料:有機大豆(国産、遺伝子組換えでない)、有機小麦(国産)、食塩
国産の有機大豆と有機小麦で仕込んだ、国産有機の醤油。
国産有機タイプは数が少ないなかで、比較的手に入れやすい一本です。原料の有機性まで気にしたい人向けの選択肢になります。
なお、原材料や規格はメーカーの都合で変わることがあります。
購入するときは、必ず現物の表示を確認してください。
まとめ:醤油売り場で見る3つのポイント
✔︎名称欄のカッコの中
(本醸造か、混合醸造・混合か)
✔︎原材料欄の大豆の書き方
(大豆か、脱脂加工大豆か)
(材料がシンプルか)
✔︎産地や遺伝子組換えが気になるなら、大豆の後ろの注記や「国産」表示
✔︎定義のある言葉を目印に
(天然醸造/特選・超特選/生)
醤油は毎日いちばん量を使う調味料だからこそ、表示も正直に、ていねいに作られています。
読まないのはもったいない。
今日、台所の醤油を裏返してみてください。名称欄のカッコの中に、何と書いてありますか。
最後に、表示が親切だということ
この記事の最初に「醤油はいちばん表示が親切な調味料」と書きました。
名称の欄に製法が書かれ、大豆の種類まで区別され、「天然醸造」も「特選」も、意味の決まった言葉として使われている。
でも、考えてみると不思議じゃないですか。なぜ醤油だけ、ここまで細かく書くルールになったのか。
理由のひとつは、それを知りたがる人がいたからだと私は思っています。
どう造られたのかを気にする人が多い調味料だから、書き分けるルールが必要になった。読む人がいるから、書く側もごまかせなくなる。
企業は、消費者を映す鏡だと私は思っています。裏面がここまで丁寧なのは、それを読んできた人たちがいた証拠でもある。
そして、私たちが読むのをやめれば、その丁寧さもいつか要らないものになっていきます。
だから、裏面を読んで選ぶという、たった一つの習慣は、自分の食卓を良くするだけでなく、これから先も正直な表示が続く国であるかを決める一票でもあるということを頭に入れながら、次の買い物でもまた、醤油のボトルの裏を確認していきたいと思います。
※本記事は特定の商品の効能を保証するものではありません。製法や選び方に関する考え方は筆者個人の見解です。
※Amazonのアソシエイトとして、ハルは適格販売により収入を得ています。
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