「FIREダンジョンズ」(仕事と、転職と、投資術のファンタジー)③人生の一寸先は闇!
会社員じゃない生き方がしたい。
ある日わたしはそう願ってしまった。
それが何を意味するかも知らずに。
あのときからわたしは旅に出たのだと思う。
アバターをつくり、オンラインRPG「FIREダンジョンズ」に参加した。

はじまりの町で「ゲームをクリアするまで元の世界に戻れない」と告げられたプレイヤーたち。出遅れた主人公は、次の町でようやくひとり目の仲間を見つけるが……
投資系YouTuberのバンプさん(筋肉むきむきのおじさん)に冷たくされる。

仲間になってくれたのは謎の紳士、フルーツ。

(ティッシュとか綿棒)
わたしこと焔ふぁいと仲間のフルーツは、だらだら町にとどまり続けていた。
「……またチョコレート味か」
わたしはぼやく。
たまにチェストの中に現れるカロリーメイトは、本格的にチョコレート味ばかりになっていた。
それは出発を促すサイン。
「なあ、ふぁい殿」フルーツだ。「なぜチョコレート味ばかりになるんだろうな」
「なぜって言われても……」
「これは、創造主の思し召しじゃないかと思うんだ」
(大きなこと言い出した)
「つまり……」
「つまり?」
「創造主はチョコレート味が好き」
(浅い!)
フルーツは、雰囲気はすごいが、基本的に浅い。
「それだけじゃない。なんとも言えない違和感があるんだ。何かが足りないような……」
(はいはい)
「そろそろ次の行動について考えましょう。わたしたちは、新たな冒険者の到着を待っていたわけですが……」
バンプさんをリーダーとする投資家のグループはすでに旅立った。
われわれがここに残ったのには理由がある。
敵が、強すぎる。
一体目のモンスターにほとんどのプレイヤーが葬られた。
カイシャイーン、強すぎ。
この先の展開を考えると、仲間を増やさない理由がない。
パーティーは4人までだ。
待っていれば後続のプレイヤーが到着するものと思っていたのだが、そう甘くはないようだ。なにかゲーム上の制約があるのかもしれない。
「……わたしたちも向かいましょうかね。北西にあるというダンジョンに」
バーン。
ロッジの扉が乱暴に開いたのはそのときだった。
「はあはあ……」
「バンプさん?」
「おまえたち、力を貸してほしい」
◇ ◇ ◇
わたしたちは草原の中を歩いている。
世界は平和そのもの。バンプさんの話が信じられない。
他のプレイヤーは全滅したそうだ。
正確には生死不明。
「あたいは、おまえたちを仲間だと思っていない。あくまで一時的な協力関係だ」
(このアバターはいいとして、なんでお姉言葉なんだろう……)
「もうすぐ着く。念のために繰り返す。洞窟の入り口は、地下ダンジョンに通じている。最初はいいんだ。灯りがともっている。それがトラップだ」
灯りが、突然消えたのだそうだ。
後方のプレイヤーから悲鳴が上がった。
暗闇の中、謎のモンスターの急襲。
プレイヤーたちは成す術がない。
撤退を試みるも、洞窟からなんとか這い上がることができたのはバンプさんだけだったそうだ。
「くそっ、光さえあればどんなモンスターにも負けなかったんだ」
沈痛な表情だ。仲間を失ったことの悔しさがにじみ出ている。
「おまえたちは、あたいの周りを照らしてくれるだけでいい。おまえの魔法、光るだろ?」
わたしのことか?
「コンサルの魔法ですね。あれは光の矢みたいな感じなので光りますね」
「それからおまえ」
「うむ」
「なんかライトみたいなもの持ってたな」
「スモールライトだな」
(あれか! あのチートっぽい響きの。本物のスモールライトなわけないから、小さい懐中電灯みたいな感じだと思うが)
「おまえたちの役目は、モンスターを照らす灯りになること。あたいには一撃で相手を葬る術がある」
「たいそうな自信だな」
フルーツが余計なことを言う。
「ああ、そうか。おまえたちは知らないのか」
「?」
「あたいは、プレミアムユーザーだ」
「???」
「おまえたちも知ってのとおり、あたいは著名投資家。招待されてこの『FIREダンジョンズ』にきた。選べる武器は一般ユーザーの数段上のクラス」
そうだったのかー!
著名投資家が選んだ、しかもわれわれでは選択できない強力な武器。
強いに決まっている。
つい自分の手の小さな「お金の盾」を見てしまう。
彼、いや彼女の武器はどこにあるんだろう?
「見えてきたぞ、ダンジョンの入り口だ」
強い風が吹いた。
身体の芯が冷たくなる。
◇ ◇ ◇
コオオオオオオオ。
洞窟に不気味な音が響く。
わたしにとっては、はじめてのダンジョンだ。
緊迫感が胸に広がる。
この世界は、よくも悪くも、終わりが見えない。
ここは、ほんの入り口に過ぎないのか、逆に考えるなら、このダンジョンで終わりの可能性もある。
いや、可能性は思っているよりも高い。
出現するモンスターが規格外に強いのはそれが理由ではないだろうか。
どうしても期待してしまう自分がいる。
「そろそろ、暗闇の地点に到達する」
ドキっとする。
「おまえら、練習しておかなくていいのか」
「わたしは大丈夫です。実戦で確認済みです。MP(マジックポイント)を消費してしまうのも嫌なので。気になるのは、フルーツの……」
「うむ、これだな」
フルーツがリュックをごそごそやる。
「これがわたしの武器のひとつ、スモールライトだ」
想像どおり、小ぶりの懐中電灯。
「あ、こっち向けて照らさないでね(いちおう……)」
カチ、カチ。
「あれ、おかしいぞ」
「付かないの?」
「ふぁい殿、これ、乾電池が必要かも」
「ええー。だったら、乾電池も用意しなきゃだめでしょ。なんで弁当箱とか綿棒とか選んだの―」
わたしの「コンサルの魔法」だけで対処することになった。
焔ふぁいの武器はこの3つ。
・物書きの剣
・コンサルの魔法
・お金の盾

洞窟の左右でゆらめいていた蝋燭の火が消える。
「コンサルの魔法ー」
ぴかーっと光る。すぐ消える。
「コンサルの魔法ー」
ぴかー。
わたしずっとこれやんの?
というか、コンサル能力を何に使ってんの!
「モンスター、早く来てくれや!」
ふっふっふ。
この声は――!
皆さん、また会いましたね。
カイシャイーン!
姿は見えず、声だけが響いている。
ご安心ください。皆さんの相手はわたしではありません。
あのとき、「いくつもの強力なわたしを相手にすることになる」と言いましたよね。
言った!
このダンジョンのモンスターを教えてあげましょう。
…………。
皆さんの相手は、カイシャイーン・ゴブリンタイプ。
ゴブリン!
「早く明かりを灯せ!」
「コンサルの魔法ー」ぴかー。
光が届く奥の場所に、凶悪な面構えのモンスターが映った。
目はぎらつき、鼻はひくつき、ううううう……と獣のような唸り声を鳴らしている。
このモンスターに意志なんてありません。
えっ。
すべてのカイシャイーンが自分の意志で動いていると思ったら、大間違いです。たいていのカイシャイーンは何も考えていません。
給料、叱責、評価、パワーハラスメント。
外からの刺激に、内からの衝動に、ただ突き動かされてるだけです。
う……。
だから強いんです。
このゴブリンの足は時速100キロ。その拳は岩をも砕きます。
そんな……。
くっくっく。思い知りなさい。
会社員の力を。凶暴さを。凶悪さを。
これはまずい。
灯りの問題じゃない。
速攻、退却だ。
「いいから、光を」
バンプさん? 戦うのか……
「コンサルの魔法ー」ぴかー。
ゴブリンが動いた。
バンプさんも。
「コンサルの魔法ー」ぴかー。
よくも、あたいの仲間を。
駆けだすのは同時だった。
両者、譲る気がない。
正面衝突……?
バンプさーーーーーーーーん!

好評だったら続きます(スキをくださーい)
好評だったので続編です。皆さまありがとーーー!
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