「FIREダンジョンズ」(仕事と、転職と、投資術のファンタジー)②まさかの続き!
会社員じゃない生き方がしたい。
ある日わたしはそう願ってしまった。
それが何を意味するかも知らずに。
あのときからわたしは旅に出たのだと思う。
アバターをつくり、オンラインRPG「FIREダンジョンズ」に参加した。

はじまりの町で「ゲームをクリアするまで元の世界に戻れない」と告げられたプレイヤーたち。パーティーを組み町の外に出るも、ほとんどが一体目のモンスターに葬られた。主人公は、単独で辛くも勝利するが……
一本道を歩いていくと、次の町が見えてきた。
日が暮れてきたところだったので助かった。
あそこに、生き延びたプレイヤーたちがいるのだろうか……。
賑やかとは言えないが、ところどころ灯りがともっていた。
人が集まっていそうな場所を探す。
「PUB」の看板が目に入った。
ギイイ。
木の扉を押し開くと、いくつもの視線がまとわりついた。
驚いた。
はじまりの町と比べ、プレイヤーたちのオーラはあきらかに荒んでいる。
誰も言葉を発しないところに不気味さを感じる。
「ちょっといいですか」

「は、はい……」
「あなた、はじまりの町にいた人ね」
「ええ(あの広場にいた人か。ということは、同時期にゲームをはじめたプレイヤー)」
「ずいぶん到着が遅かったわね。いったい何をしていたの?」
「それは、なかなか出発の決心がつかずに……」
「判断が遅いのね」
「…………」
「まあ、いいわ。倒したんでしょ、あのモンスターを」
「はい」
「ちょっと信じられないけどね。武器を見せてちょうだい」
(高圧的な態度だな……)
わたしは空中に四角を描く。
そこに出てきたメニューの中から「アイテム」を選択した。
あの強敵――カイシャイーンと戦った武器が表示される。
物書きの剣
コンサルの魔法
お金の盾
はじまりの町で選んだ初期アイテムだ。
「中途半端ね。もっと強い武器があったでしょう」
「いえ、わたしなりに考えた結果でして、FIREにはいろいろな要素が必要だと思うんです。特定の何かに頼るのは危険です。特にお金……」
そのときだった。
「もういいわ!」
相手が態度を硬化させたのは。
「わたしはあなたを認めない。初戦は運がよかっただけね。この先、そんな軟弱な態度じゃぜったいに生き残れない。あなたをパーティーに加えたい人なんて誰もいないでしょうね」
「そんな……」
反論しかけたが、周りのプレイヤーの攻撃的な視線を感じたわたしはこの場を立ち去るしかなかった。
バタン。
まさか数歩中に入っただけで、退場することになるとは……。
「聞いてたぜ」

今度はヤバそうな人に絡まれた。
◇ ◇ ◇
「あれは、投資系YouTuberのバンプさんだ」
「えっ、あのバンプさん」
本当にそういう名前の人がいたらすいません。適当に書いてるだけです。
謎の紳士とログハウスにいる。
わたしは情報交換に応じることにした。
「なんで著名投資家が『FIREダンジョンズ』に。普通にFIREすればいいのに……」
「さあな。それだけ真のFIREは難しいってことだろ」
「それに、バンプさんって筋肉むきむきのおじさんじゃないですか」
「ああ、この世界では美少女アイコンを使う投資家の9割はおっさんだ」
あの噂は本当だったんだ……。
というか、この人みたいにすごい濃度のおっさんのアバターを使ってる場合はどうなるんだろう?
「だから、あんたはやっちまったというわけさ」
「なるほど……。著名投資家に向かって、お金を否定するようなことを言ってしまったわけですね」
「まあ、悪く思わないでやってくれ。彼らにしても、かなりの数の仲間を失っている」
「カイシャイーン。強かったですよね……」
「この先の戦いに、そうとう慎重になってる。だから、強い仲間がくるのを待っている。好きなことの民も、得意なことの民も、とっくに先に向かったっていうのにな」
「そうだったんですか。ということは、あなたも投資家?」
「そうとも言い切れない」
「はあ」
「わたしはパーティーを解雇されたんだ。つまり、今は君側の人間」
「そうだったんですか……」
強そうだけど、なにか弱点でも?
◇ ◇ ◇
「これはおたがいのために言うんだが、仲間は多いほうがいい。この世界のルールでは、パーティーは4人まで。パーティー同士で連携することも可能だ」
そうかもしれない。だが、得体の知れない人間と組むのはかえって危険な気がする。
「あなたの武器を見せてもらってもいいですか? わたしのはさっき見せましたよね。特殊なケースだと思いますが、わたしは3つ選択しました」
アイテムは複数選択できる。ただし、ひとつに絞ったほうが強力になる(より強力なアイテムを選択できる)。例:お金の盾 ⇒ お金のアーマー
「珍しいと思います。ひとつに絞ったほうが強力になるのに……。さっきバンプさんにも中途半端と言われてしまいました」
「3つ? わたしは10個選択したが」
「10個ーーー!」
そんなことができるのか? 逆に、何選んだんだ!!
謎の男は、宙に四角を描く。
「わたしの武器はこれだ」
お金を包む風呂敷
応援ソングの魔法
ポカリスエット
アイスピック
スモールライト
弁当箱
ティッシュ
綿棒 ✕ 3
?????????????????????????????????????
やばい。
わけわからん。
「お金を包む風呂敷」ってつまりただの風呂敷だよね?
ポカリスエットと並んでるからかもしれないけど、「応援ソングの魔法」はたぶん、爽やかな曲が流れるだけだ。
「アイスピック」が一番武器っぽい?
猟奇的で怖い。こっちを攻撃してきそ。
「スモールライト」ってあのスモールライトじゃないよね?
本物だったらチートすぎる。
ぜったい違うやつだと思うけど、ゲームのバグだったりするのかなあ……
「言いたいことはわかる。君が思ってるのは『なぜ綿棒が3本あるのか』ということだろ?」
「いえ、そこまでたどり着いてません」
わかってしまった。
この人はおそらく、職場にたまにいる「オーラだけあって仕事できないおっさん」の類だ。
そりゃ、パーティーを解雇されるわ。
誰かとパーティーを組んだほうがよくて、わたしに選択肢がないのはわかる。しかし、さすがにこれは厳しいのでは……。
こんなん、よっぽど気が合うとかないと無理だぞ。
そのとき、部屋の隅でゴトっと音がした。
「ああ、また出たな」
「なんでしょうか」
男は、チェストのほうへ向かう。
「たまに出現するんだよ」
もしかして、はじまりの町でお世話になった、「カロリーメイト?」
「そう、カロリーメイト」
「あちゃー」と男は言う。
「チョコレート味」「チョコレート味」
わたしと声が重なる。
「毎日食べるとなると、ちょっと飽きるんですよね。飽きがこないのは……」
「フルーツ味」「フルーツ味」
また声が重なった。
わたしは覚悟を決める。
空中に、プロフィール情報を表示させた。
焔ふぁい――と表示される。
「……お名前、教えてもらえますか?」
「む」
「今日から仲間になるんですから」
「おお、よろしく、ふぁい殿。わたしのことは好きな名で呼んでもらってかまわない。空欄のまま登録したら『名無しさん』になってしまったからな」
「……はい(匿名掲示板みたいだな)」
ダメさを織り込んだわたしは驚かない。
「それではこう呼ばせていただきます」
……………………
思いがけず、ひとり目の仲間を得た。
進もう。この「FIREダンジョンズ」を。
真のFIREの遥かな頂を目指して。
旅はまだはじまったばかり。

本記事が書けたのは、きのころさんの「続きを考えませんかコンテスト」のおかげです。素敵な企画をありがとうございました!
そして、まさかの続編の続編!

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