第4回:海外DAOと将来のビジョン ― 日本の特許を活かし、中小企業を育てるDeSciの未来
日本のDeSci実装において、もう一つ大きなテーマが「海外DAOとの連携」だ。日本の大学には数多くの特許が眠っているが、その多くは活用されず、維持費だけがかかっている。これをNFT化し、DAOに持ち込むことで新しい資金循環をつくれるのではないか。そして、その先に須藤さんが描くのは「EXITありきではない、中小企業を増やす循環」だ。未来のビジョンについて伺った。
海外特許をDAOで活かす
須藤さんは以前のご自身の記事で「海外大学や日本の大学が持つ未活用の海外特許をNFT化し、DAOに提案する」という案を出されていました。これは非常に示唆に富んでいると思うのですが、改めて詳しく伺えますか。
須藤: はい。日本の大学は数多くの特許を持っていますが、死蔵している特許が多数あります。特に海外で出願や権利化している特許は、維持費を払い続けているだけで、実際には活用されていないものが多いんです。海外出願数も多いため、これは本当にもったいない。
とはいえ大学発スタートアップが海外展開をしようとするとき、海外特許がなければ非常に不利になります。現地での競争優位性を築くには必要になるからです。また、海外投資家からの評価にもつながります。そのため海外出願は大学にとっても潜在的に必要なのですが、グローバル化が進んでおらず活用に繋がっていません。これをDAOに持ち込み、NFT化して流通可能にするのは合理的な一手だと考えています。
NFT化が生み出す透明性と参加機会
NFT化することで、具体的にどんな変化があるのでしょうか。
須藤: NFT化することで、特許の権利の一部を切り出して透明に扱えるようになります。DAOの中で「誰がどの技術をどう活用するか」を記録できる。研究者やスタートアップが一時的に技術を使い、DAOを通じて資金を得る。その履歴もすべてオンチェーンで追える。
大学が直接やるのは難しいかもしれませんが、合同会社のような器をつくり、そこを通してDAOに参加する形なら可能だと思います。日本国内で大規模に始めるより、まずは「海外DAOに部分的に参加する」という方が現実的なんです。
海外DAOへの小さな参加から始める
国内で制度を整えるのを待つよりも、まず海外DAOに小さく参加する方が早い、ということですね。
須藤: そうです。論文査読DAOのような仕組みもありますよね。研究者が査読に参加し、その対価をトークンで受け取る。日本の研究者も個人として参加できますし、そこから小さな報酬を得ることもできる。こうした「小さな参加」から始めるのが大事なんです。
重要なのは「最初の成功体験」を積むことです。まずは海外DAOに参加し、経験値や認知を増やす。そのような現実的な一歩を踏み出すことが使われていない海外特許や知財を活用していく潮流に繋がっていくと思います。
将来のビジョン ― 中小企業を増やす循環
では、こうしたDeSciが進んだ先に、どんな未来を描いていらっしゃいますか。
須藤: 私が一番大きいと思うのは「研究に投資できるファンディング機能」が確立していることです。例えば、起業前に持っていたトークンを後に株式に変換できる仕組み。これができれば研究者にとって非常に意味が大きい。
いまの日本のスタートアップは「EXITありき」で語られがちです。IPOかM&Aか、という二択。しかし大学の研究は必ずしもスケールや社会実装を前提にしていません。本来は「社会に役立つ研究であれば、それを社会に実装する手段の一つとして起業がある」という位置づけのはずです。
だから私は「健全な中小企業を新規に増やすこと」がまず重要だと考えています。EXITを前提にせず、トークンを通じて支援者から資金を集め、50人〜100人規模で堅実に経営できるスタートアップを育てていく。ある程度事業が成長してから、改めてVCやCVCから資金調達をしていく成長モデルも十分ありえますし、経営者の焦りやダウンラウンドの懸念も減ります。事業を通しながら、突発的にスケール化のシナリオが出てくることもあるわけですから。そうした企業が日本に数多く生まれることが理想です。
EXITに縛られない新しい循環
「中小企業を増やす」というのは、従来のベンチャー像とは少し違いますね。
須藤: そう思われるかもしれません。でも日本の産業構造を考えると、中小企業が基盤を支えています。そこを健全に増やしていくことが、社会全体の強さにつながります。
トークンを使えば、例えば「売上の数%を支援者に還元する」といった仕組みが可能になります。上場しなくても、資金提供者に対して正当なリターンを返すことができる。こうした仕組みが整えば、無理にEXITを追わずとも事業を継続できるスタートアップが増えるはずです。
私の理想は、10年後、20年後にそうした企業が日本に数多く存在し、研究成果が社会に根づいていく姿です。DeSciはその循環をつくる「新しい橋」になれると思います。
編集後記
今回のインタビューを通じて浮かび上がったのは、日本でDeSciを実装することの難しさと、それでも開ける「小さな道」でした。証券性の壁、大学の理解不足、制度改正の遅さ、どれも簡単には動きません。しかし、その中でも須藤さんは「学生から始める」「海外DAOに小さく参加する」という現実的なアイデアを提案しました。
研究者にとっては、「制度が整うまで待つ」のではなく、海外DAOに参加する、研究クラファンを試してみる、といった選択肢が目の前にあります。
学生にとっては、職務権限に縛られない自由な立場を活かし、自分のアイデアを世界に発信することができます。
企業にとっては、大学との大型共同研究だけでなく、DAOという形で若い世代の研究にアクセスする道が開けつつあります。
投資家にとっては、EXIT前提ではない「健全な中小企業を増やす」という新しい視点が提示されました。
DeSciは単なる資金調達の仕組みではありません。研究と社会をつなぎ、次の世代の科学と産業を育てる「橋」です。その橋を渡る最初の一歩を、誰が踏み出すのか。
須藤さんの言葉を借りれば、「制度を待って10年が過ぎるより、今できる小さな成功を積み重ねることが重要」です。
明日からできることは、海外DAOのDiscordを覗いてみることかもしれません。あるいは学生が仲間と小さなDAOをつくってみることかもしれません。
未来のDeSciは、そうした小さな一歩から始まります。
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