【企画短編#noteでBL】今日の恋人
企画参加作品①
(以下、前書き部分は②『それが理由だとしても』と同じ。既読の方は飛ばしてください)
毎月のBL祭り、今回も参加します!
というか、今回はなんと、、、、企画のお題に私の短歌を使っていただいております!!
お題短歌を詠んだ段階でだいぶ満足してしまい、今回の企画はやりきった感があったのですが(笑)、雑談していたAIに「いやおまえも書くんじゃ??(意訳」と言われ、ハッとして書くことにしました。
短歌の扱いは人それぞれ、私は前回のnoteでBLでは「短歌を詠み合う」設定で書いたこともあり、今回は短歌から見えた情景を広げていく方向で書いてみました。
なお蛇足にはなりますが、念のため。
今回の企画において、私の書いたものはお題短歌の「正解」ではありません。
短歌にあるのは情景だけ。そこからどんなストーリーを読み取るか、もしくは短歌という情景をどのように作品に利用するかは、すべて読んでくださった方の自由です。
私の短歌が、どなたかの作品にどんな形ででも参加させていただけるなら、詠み手としてはこれ以上ない光栄です。
企画概要↓
さて、前置きは以上!!!
本編もどうぞよろしくお願いいたします。
※※BL要素を含みますので、苦手な方はご注意ください※※
【テーマ】3つのお題でBL(3,000~5,000字)
【お題】 ゴールデンウィーク・二首の短歌(使用した短歌は冒頭に記載)
【タイトル】今日の恋人(スペース除き約4,000字)
セーラー服の襟なびかせて歌いおる「水兵、リーベ、僕の…」 君の、
うなじはあまりに白くて細かった。
潮風に大きく膨らむセーラーカラー。その白い襟に引かれた水色のラインが、陽光に栗色に透ける髪の先が、防波堤に突いた細い腕の、肘だけがほんのりと赤いことが。
すべてがあまりにも眩しかった。
「水兵、リーベ、僕の…」
船、と続くはずの声は聞こえなかった。
君が振り返ったから。
その、大きな茶色の瞳。
「ちひろ。千洋」
呼ばれて顔を向けると、渚は不機嫌そうに綺麗な眉を寄せている。何度も呼ばせてしまったことを悟り、思わず唇を噛むと、それを見た渚は大きなため息をついた。
「またぼーっとして。そんな、わかりやすく『しまった』ってかおされてもね」
「ごめん」
「それで、今度はどこに行ってたの」
彼女は俺がぼんやりしていることを、いつもそう表現する。その言い方が好きだ。なんだか柔らかい気がして。
心をここに置いておけないことを、許してくれているようで。
「どこだろう。海だと思う」
「何よ、思うって」
「防波堤だったから、海だと思う。風も強かったし」
潮風。膨らむセーラーカラー。ほんのりと赤い肘。折れそうに白いうなじ。
「水兵、リーベ、僕の船」
「元素記号?」
そうだ、有名な語呂合わせの歌。
「俺、これの意味がいまだにわかんない」
「わたしも」
ふふ、と笑って、渚がひらりと先を歩く。風になびく長い髪。その隙間から覗く、白いうなじ。
「渚?」
「なに」
「歌ってたことある?海で。水兵、リーベ、僕の…って」
あるわけないでしょ。振り向いた顔は逆光で見えない。口元がほんの少しだけ、笑っているようだ。
「…渚に似てる気がする」
白いうなじ。折れそうに細い。膨らむセーラーカラー。
「…今日の恋人?」
ふふ、と彼女は笑う。呆れるように、咎めるように、…許すように。
心を、彼女の傍に置いておけないことを。
イメージはいつも鮮明に脳内に弾ける。場所も時間も関係なく。音だったり、言葉だったり、目にしたものだったり、きっと直接的なきっかけがあるのだろうけれど、それが何だったのかはいつも曖昧だ。浮かんだイメージのほうに、心はいつもとらわれてしまうから。
林の中の白い家だったり。
草原に立つ一本の大樹の下だったり。
空を舞う桜の花びらの渦だったり。
急に頭に溢れて心を鷲づかみにするイメージに、俺はいつも簡単にとらわれてしまう。
なんて綺麗なんだろう。そこに行くにはどうしたらいい?
そんなことで頭がいっぱいで、呼ばれても気づかない。周囲はもう諦めて放っておいてくれる。成績が良く、暴力沙汰を起こさないというだけで、のんびりとした田舎の学生生活は概ねうまくいくものだ。俺の心がどこにあろうと、誰も何も気にしない。だから俺はいつでも、俺の心と遊んでいる。
渚はそんな俺を「浮気者」と呼びながら、「今日はどこに行っていたの」と柔らかく訊く。今日の恋人はどんなだったの。どんなところにいたの?
俺は訊かれるままに答える。俺のなかの、イメージの洪水。心をさらっていく、美しい「恋人」たち。
これはどこから来るんだろう。俺をどこに連れて行くんだろう。
俺の頭は、そんなことでいっぱいだ。
「渚」
呼ばれて、彼女の視線が遠くを探す。俺もつられて同じ方向を見た。オレンジ色の夕暮れのなかを、細い影が近づいてくる。
「みお」
渚が呟いたのは名前だろうか。近づくにつれはっきりとするその容貌に、鼓動がひとつ、大きく響く。
「今日だったの」
「そうだよ。何度も電話したのに」
眉を寄せて渚を見るその顔は。詰るようなその声は。
「…誰?」
俺に向けられる瞳は、オレンジ色の夕暮れのなか、淡く茶色に透けている。栗色を超えて金色に光を弾く髪の先。
「千洋。千洋、澪よ」
いとこなの。白いカッターシャツから伸びた腕は細い。ここから、肘の色は見えない。
「俺ひとりで入るのはおかしいだろう。だから時間を合わせてほしいのに」
「別にいいじゃないの。お母さんはわかってるんだし」
「嫌だよ。岬がうるさいだろう」
「あの子、あんたのことが好きだから。今年はゴールデンウィークに会えなかったし、喜んでるわよ」
俺を置いて、ふたりは何かをしゃべっている。楽しそうな渚と、不満そうな彼。…澪。
「…なに?」
凝視する俺の視線に気づいて、澪が怪訝そうに眉を寄せる。答えられずに唇を噛む俺に、渚が肩をすくめて首を傾けた。
「この人、綺麗なものを見るとすぐに心が捕まっちゃうの」
「なんだって?」
意味が分からない、と言いたげに、澪は渚と俺を交互に見る。渚の黒い瞳が俺を真っ直ぐに見て、ほんの少し細められる。
「…わたしに似てる?」
答えられない。綺麗な唇が微かに笑う。
「きょうの、こいびと」
囁きは澪には聞こえなかったようだ。なに、と問う彼の腕を取って、彼女は軽やかに歩き出す。踊るように。
澪の視線が一瞬だけ俺を射て、すぐに渚を追って歩き出す。カッターシャツの背中。遠のく後ろ姿。夕暮れに沈むオレンジの光で、肘の色は見えない。
ただそのうなじはなめらかで…きっと、とても白い。
「転校生って初めてだ」
紹介された澪に、クラスは静かな興奮に満ちている。都会から来た美しい少年。しかも、クラス一の美少女のいとこで、彼女の家庭で生活するという。まるで物語の始まりだ。連休の話題もとうに語り尽くしたクラスメイトたちにとって、澪の存在は格好の話題だった。
休み時間には複数の女子が澪と渚を取り囲んだ。澪は必要以上のことは言わずに淡々と質問に答え、そんなやりとりが休み時間の度に繰り返されて、午後には期待と弛緩が同居する空気が教室を支配した。
今日最後の授業。公式の解説が耳を素通りしていくなかで、俺は斜め前方に座る澪を見ている。カッターシャツの襟から覗く、やはりなめらかに白いうなじ。ふわり、となびくセーラーカラーが見える気がしてはっとした瞬間、澪が目線を動かした。
目が合って、微かに首を傾げる。俺はただ視線を外して外を見た。校庭の桜が深緑に揺れている。初夏の風に聞こえる気がする声。
…すいへい、りーべ、ぼくの…
「ちひろ」
声に気づいて顔を上げると、思いがけず茶色い瞳とぶつかった。渚じゃない。
「…澪?」
「帰ろう。渚はもう出てる」
状況が呑み込めないまま、俺は澪と並んで歩く。畑と空き地と、時々民家。そんな見慣れた光景のなか、色素の薄い澪は西日に溶けてしまいそうで、そこだけ空気の色が違って見える。
「渚は?」
「さぁ。すぐに追いつけると思ったけど」
澪は気にした様子もなく、真っ直ぐに前を見て歩く。彼との唯一の接点である渚がいないのに、なぜ並んで歩いているのだろう。ぼんやりとそんなことを思いながら、俺の心はたゆたうように潮風の防波堤に向かう。ふわりと風が頬を撫でて、澪が一歩前に出た。西日を透かす髪。白いうなじ。ゆっくりとこちらに流れる目線。
すいへい、りーべ、…
「じゃあ、俺はこっちだから」
「…ああ。渚によろしく」
別れ道を曲がることが出来ずに、西日に遠ざかる澪の後ろ姿を眺める。カッターシャツの襟は、風に微かに揺れている。
「ちひろ、帰ろう」
澪が当たり前のように誘ってくる。渚は唇に薄く笑みを浮かべて、戸惑う俺を見ている。
渚がいてもいなくても、俺と澪は並んで西日のなかを帰るようになっていた。澪が何を考えて俺を誘うのかはわからない。特に話すこともない。ただ並んで歩く。たまに、渚と澪が家族のことを話す声を聞きながら、俺は澪の髪から、腕から、うなじから、目を逸らすことができない。
「…なに」
視線に気づいた澪の茶色い瞳が、真っ直ぐに俺を射る。ふわりと目の前を過る、セーラーカラーの水色のライン。
「澪、海で歌ってたことある?水兵、リーベ、僕の船、って」
「さぁ…記憶にはないけど」
おまえはあるの、と訊き返されて、ないな、と答えた。考えるまでもない。海から遠いこの小さな町から、俺はまだ出たことがなかった。
ふうん、と吐息のように答えて、それきり澪は何も言わない。ただ静かに流れる、西日と足音。
「最近、ずっとここにいるのね」
授業を終えた教室で、渚は静かに微笑む。俺は一瞬言葉の意味をはかりかねて、その黒い瞳を見つめることしかできない。
今日、澪は休みだ。東京の実家に帰っているという。
「ここ、って?」
訊くと、渚はふふ、と笑みを深める。伏せた瞼から、長い睫毛が白い顔に影を落としている。
「…今日の恋人は、どんな?」
きょうのこいびと。聞き慣れない言葉のように、耳を素通りする音。答えられない俺を見て、渚は細い首を傾げる。
「…わたしに、似てる?」
その、深い深い、黒い瞳。
「…ちひろ?」
立ち止まった澪が、怪訝そうに眉を寄せる。茶色の瞳が細められて、俺の瞳に疑問の答えを探すように、見上げてくる瞳が近づく。
「…似てない」
「なにが」
目の前をセーラーカラーが舞う。潮風。水色のライン。栗色の髪。ほんのりと赤い肘。折れそうに細い、白いうなじ。風に途切れた、小さな歌声。
似ていない。どれも澪には。澪のうなじは白いけれど、折れそうなほど細くはない。やや華奢な、普通の男子生徒の首だ。風に揺れるのはセーラーカラーではなく、カッターシャツの固い襟だ。
あの日のあのイメージとは違う。渚に似ている気がした、あの美しい「恋人」じゃない。
「ちひろ?」
覗き込んでくる茶色の瞳。少し細い、けれどあの歌とは違う声。あのイメージと澪は違う。
…わたしに、似てる?
渚の声を遠く思い出す。似ていない。彼女と、彼は、全然違う。
それなのに、俺の心はどうしても離れることができない。
「…ちひろ、」
最近はずっとここにいる。俺の心はどこにも行かず、ただ澪の傍にいる。どんな音も、どんな景色も、もう俺の心をどこにも連れて行かない。
あの日の防波堤はもう、ふわりと目の前を過るだけだ。…連れて行ってはくれない。
「ちひろ」
閉じた瞼の裏で、夕暮れに沈む澪の後ろ姿が遠のく。
もうどこにも行けない俺の心は。
君の…、
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前回までの企画参加作品↓
【その他BL】
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