漫画家アシスタント物語 古い話で章 〈26〉 ダニやゴキブリ、ムカデも登場
《 写真上: 私が利用していた武蔵浦和駅の駅前ロータリーの桜。2015年 》
< この「古い話で章〈26〉」は、文庫本約10ページ分 >
その48
《 漫画家アシスタントが・・・出たり入ったりする・・・!? 》
以前、拙ブログの「 その14 」辺りで加川さんがウイタさんをお風呂へ誘うエピソードを書いたのですが‥‥‥‥ 喧嘩をして仲が悪くなった二人のアシスタントを見て、ジョージ先生( ※参照 )が一計を案じた話‥‥
それは、先生が加川さんにウイタさんを銭湯へ誘うように薦めた話です。
風呂場で右手の不自由なウイタさんが濡れタオルをしぼるのが大変だろうから、「 おめぃ~がしぼってやれ 」とジョージ先生が粋な計らいを演出したわけですが‥‥
この事をウイタさんは、私が取材中に話すまで40年以上、知らずにいたのです。
しかし‥‥
二人の話が‥‥ ちょっと食い違います‥‥‥‥‥‥
右手が不自由とは言っても、ウイタさんの右手は開く力はなくても閉じる力( 握力 )はあるので、タオルをしぼる事くらいは出来たのだそうです。
だから、私が先生の話をしてもウイタさんは黙って聞いているだけでクールでした。
「 フ~~ン‥‥‥‥ そう‥‥‥‥ でも、タオルはしぼれますよ 」
加川さんがお風呂へ誘った事は確かにあったそうですが‥‥‥‥ このタオルをしぼってあげたという話は、あやふやなまま終わります。
それはともかく‥‥‥‥ ジョージ先生が右手の不自由なウイタさんを気にかけていたのは事実です‥‥‥‥
「 先生は本当に俺に気を使ってくれてたんだなぁ‥‥‥‥ 」
少し悔やむように‥‥ うつむくウイタさんは、申し訳なさそうに‥‥‥‥
「 俺は馬鹿だからさぁ‥‥ 本当に先生には悪い事をしちゃったよ‥‥ 」
放浪癖というか、落ち着きがないというか‥‥‥‥ 同じ事をしていると、つい飛び出したくなる悪い癖から何度も先生の仕事場を辞めたり、戻って来たりを繰り返してしまうのです。
アシスタントになってからしばらくすると、スタッフも揃い仕事も慣れてくるとウイタさんは先生にある願い事を持ちかけます‥‥‥‥
「 僕もこれからは、他の皆と同じように普通に働きます 」
それまでは、ウイタさんだけは週に一日だけ横浜の自宅から通勤するバイト的なシフトだったのですが‥‥‥‥
もっとも、それは、ウイタさん自身が『 俺は専属アシスタントになるのが目的じゃない、漫画家になるのが目的なんだ 』という志があったからこそ、先生もそれを許していたのですが‥‥‥‥
そのウイタさんからあっさり「 普通に働きます 」と言われた先生は、複雑です‥‥‥‥
「 おめぃ~が週に一日だけ仕事をすると言ったんじゃないか! 」
不機嫌にそうウイタさんに詰め寄りますが‥‥‥‥ 「 週に一日 」という中途半端な状態を強制するわけにもいきません。
仕方なく専属を認めたのですが‥‥ どうも、その後が良くありませんでした‥‥‥‥
丁度その頃から先生の仕事は忙しくなります‥‥‥‥‥‥
ギャグ漫画だけではなく、「 〇ゲバ 」「 〇シュラ 」などの大ヒット作品に続き多くの連載がスタートします。
ウイタさんたちスタッフは、毎日毎日が同じような背景の仕事に追われるわけです。
連日、缶詰のようになって仕事をしなくてはならない苦痛にウイタさんは耐えられなくなります‥‥‥‥
結局、仕事場を辞める相談を先生に持ちかけた時に‥‥‥‥
「 今は忙しいけどよ‥‥ 来月あたりから少しヒマにしようかって思ってるんだ‥‥ 皆で旅行したりとかよ‥‥‥‥ 」
そんな事を言ってウイタさんを慰留しようとするのですが‥‥ こうと決めたら頑固なウイタさんは、先生の言葉に従うつもりはありませんでした。
「 馬鹿だよなぁ‥‥ 本当に‥‥ 先生の気も知らないでさぁ‥‥ 」
‥‥そう淋しそうに昔を振り返るウイタさんは、今年62歳です。 ホントは今すぐにでも先生の所へ飛んで行きたいんじゃないでしょうか‥‥‥‥
さて、ウイタさんが去った秋山プロでは皮肉な事に‥‥ 本当に仕事を休んでしまいます‥‥‥‥。
これが、当時マンガ業界でも話題になった「 秋山先生の引退宣言 」( 1971年6月 )というやつで‥‥‥‥
全ての連載を終えて「 引退する 」という大ウソを公言して熱海へ温泉旅行‥‥‥ スタッフ共々、嬉々として長期休暇へ出発してしまうわけです。
運のないウイタさんは、後日、この知らせを聞いて悔しがりますが‥‥ 後の祭りでした。
仕事場を辞めたウイタさんは、アルバイトで食いつなぎながら‥‥ 1年後、またフラリと仕事場へ戻ってきます。
以下は、その時の先生とのやり取りです‥‥‥‥
「 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 」
こいつ何考えてるんだ‥‥‥‥ というジョージ先生の例の陰険な目つきと沈黙‥‥‥‥‥‥‥‥
「 もう一度やりてぃ~のか? 」
「 はい 」
顔を上げる勇気もないウイタさんはうつむいたまま‥‥‥‥
「 ここはよぉ~‥‥‥‥ 」
ジョージ先生は、ウイタさんを押し潰すような低い声で喋り始めます‥‥‥
「 入りたいって奴ぁ~沢山いるんだぜっ! 」

その49
《 漫画家アシスタントが・・・ムカデと生きる・・・!? 》
ウイタさん( ※参照 )は、秋山プロ( ※参照 )を辞めて漫画家になるためにビルの掃除人などをしながら原稿を描いていましたが、結局芽が出る事もなく‥‥
1年ほど経った頃、またジョージ先生( ※参照 )の所に戻って仕事がしたくなり‥‥ そこで、前回の続きとなるのですが‥‥‥‥
ウイタさんが不機嫌なジョージ先生に向ってもう一度、先生の弟子になりたいと話した時‥‥‥‥
不機嫌なのは、ポーズだけ‥‥ 実際には、先生はもう半分許しているのですが‥‥‥‥‥‥
すんなり「 いいよ 」と再雇用してしまっては格好が付かないと考えたのか‥‥ いつものように少しもったいを付けた言い方をするわけです‥‥‥‥
「 入りたいって奴ぁ~沢山いるんだぜっ! 」
先生は、ここできっとウイタさんがガックリと肩を落とすだろうと計算していたのだと思われます‥‥
ところが‥‥
意外にもウイタさんは、クールな表情で‥‥ あっさりと‥‥
「 そうですかぁ‥‥ なら、わかりました 」
「 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥! 」
先生は、意外な返事に言葉を失う‥‥
「 もう、いいです‥‥‥‥ そんなに入りたい人たちがいるのなら、その人を入れてあげて下さい 」
ウイタさんは、本気でそう思った事を率直に言っただけなのです。
しかし‥‥ これには、先生の方が驚いた様で‥‥‥‥
「 ‥‥‥‥‥‥‥‥! 」
さすがの先生もしばし沈黙‥‥‥‥
それでも結局、先生がまた受け入れるパターンで‥‥‥‥ ウイタさんは、再弟子入りする事が出来ました。
しかし、後に何度か気まぐれに秋山プロを出たり入ったりしています。
1970年代、秋山プロスタッフが豊島区の要町や椎名町などでアパートを捜すと、なかなか不動産さんで紹介してもらえないという話は、以前書いた事があります。
ウイタさんも、そんな秋山プロスタッフの悪い評判を作り上げる事に相当な貢献をした人物の一人でした。( この頃には、アパートを借りていました )
部屋の中はゴミだらけ‥‥ まず、畳の部屋なのに‥‥ まるっきり畳が見えなくなってしまうほどゴミが散乱していました。
部屋の中にはゴミの上に重なるゴミの丘があり、ゴミを踏みながら移動しないとトイレにも行けない有様でした。
私は、現在のウイタさんとファミリーレストランで向かい合ってコーヒーを飲みながら質問します‥‥
「 そんな汚いゴミ屋敷みたいな部屋で、いったいどうやって寝てたんですか? 」
「 寝る場所だけは確保して‥‥ ね‥‥ 周りは新聞や雑誌が積んであってさ‥‥‥‥ 」
「 んじゃ、完全な万年床ですね? 」
「 そうそう 」
「 ダニやゴキブリなんかも出たり? 」
「 うん。ムカデなんかもいたね 」
「ムカデ‥‥?」
「デカいんだよね~ これがさぁ‥‥」
「 ‥‥‥‥‥‥ 」
私は冷めて不味くなったコーヒーをすすりながら質問を続ける‥‥
「 テレビは? 」
「 ない 」
「 トイレは? 」
「 共同 」
私は、この瞬間を狙っていました。 仕込んでおいたネタを使って‥‥
「 窓がトイレだったんでしょ? 」
「 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 」
ウイタさんは、ジッと私をにらんでいる‥‥‥‥
「 誰から聞いたの? 」
「 別に誰から‥‥‥‥ というわけではなくて‥‥‥‥‥‥ 」
私は、以前テレビで見た「トキワ荘」のドキュメンタリー番組で、有名な漫画家先生が窓から小便をしていた話を聞いていたので、きっと、ルーズな人はそんな事してたんだろうと想像していたわけです。
「 トキワ荘の〇森先生なんか窓から‥‥‥‥ って話もあるし‥‥‥‥ 」
「 ‥‥‥‥ん‥‥‥‥ ま‥‥‥‥ してたね! 」
こんな汚れネタは、そろそろ終わりにして‥‥‥‥ 次回は、こんなウイタさんもデビューするのか?
‥‥‥‥みたいな話を書きたいと思います。
「 漫画家アシスタント物語 古い話で章〈27〉」へつづく・・・・
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~~~ 参照 古い話で章〈26〉~~~( 読んでも、読まなくても!)
【その48】
・ジョージ先生 : 有名漫画家、1966年、23歳で売れっ子作家に。70年には27歳で、週刊連載6誌という逸話もある。現在は1誌に連載中。2015年現在、72歳。(2020年、77歳で病没)
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