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漫画家アシスタント物語 古い話で章〈14〉 1年風呂に入らない人の言い訳

 
《 写真上:1969年頃、秋山プロがあった下落合の某マンション。写真中央下にわずかに超狭い階段が見えます、これを3階まで上ると秋山プロのドアがあります。小さい階段ですので圧迫感があり、ちょっと怖いのです。 》
        < この「古い話で章〈14〉」は、文庫本約10ページ分 >

 
 

「古い話で章」は、独立した「章」ですので、「諦めま章」の続きではありません。 無料で、各話、お楽しみいただけます!
 
ただし‥‥ 各話が連続していますので、
「古い話で章〈1〉」からお読みいただく方が、よろしいかと思います。
 
はじめての方は、
「マガジン:第1章、第2章」(無料)がお薦めです!



               その27
 
《 漫画家アシスタントが・・・・黒くなってもパンツを脱がない!? 》

 
漫画家アシスタントになったばかりで、先輩に文句を言った加川さんに、私は北千住にある喫茶店で質問しました。

「 理由はどうあれ、一応、ウイタさんは先輩なんだし‥‥ ケンカを売るようなまねは、随分と勇気が要ったのではないですか? 」

「 ウイちゃんは、先輩って言っても二つ年下だから‥‥ 」

40年以上も前の話ではあっても、加川さんにとっては忘れる事の出来ない思い出‥‥‥‥ ケンカと言っても今では、面白そうに笑いながら話せるのです。

「 ウイちゃんは、最初から態度がでかくてさぁ‥‥ なんだか偉そ~でさぁ‥‥ 気に入らなかったんだよねぇ 」

‥‥これは、40年以上付き合っている友人同士の親しみのこもった言い方でした。

「 Kちゃんは、16歳だよ‥‥‥‥ 何でこんな可愛い奴をいじめるんだと思ったよ 」

ところで、この年下の可愛いアシスタントを「いじめた」という話ですが、ウイタさんは、『 まったく記憶にない! 』と言っています。

さて、その後、以前書きましたように、タバコの一件から二人は仲良くなるのですが‥‥‥‥ その同じ頃にジョージ先生は、ウイタさんにこんな話をしたそうです‥‥‥‥( 多少の食い違いはありますが )

「 加川君、ウイタ君を銭湯へ連れて行ってやれよ 」

秋山プロで一番最初にアシスタントになったのがウイタさんなのですが、彼は風呂嫌いの洗濯嫌いで、年に数回しか風呂へは行かず、また下着もまったく取り替えないために、ジョージ先生もさすがに気味悪がっていたのか‥‥
 
加川さんにウイタさんを風呂へ誘うように勧めたわけです。
 
しかし、それでも加川さんは‥‥‥‥‥‥
 
「 ‥‥‥‥はぁ? ‥‥‥‥銭湯へぇ? 」
 
なぜ、自分が彼を銭湯へ誘わなくてはならないのか納得がいきません‥‥‥‥‥‥

その時、加川さんの微妙な表情をニヤリと見つめながら‥‥‥‥

「 ウイタ君は、手が悪いだろ‥‥‥‥ 」

「 ‥‥‥‥‥‥ 」

ウイタさんの右手は、子供の頃にケガをして不自由なのです。 先生は、その事に気を使って‥‥‥‥‥‥( 左手が利き腕になっています )

「 タオルをしぼる時に、こうやって両手でしぼる事が出来ないだろう‥‥ きっと、右の腋の下に片方を挟んで、左手でしぼってるんじゃね~かなぁ‥‥ 」

「 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 」

「 だから‥‥‥‥ おめぃが、タオルをしぼってやって、奴にそっと渡してやれよ‥‥‥‥な! 」

銭湯で、こうやって二人が言葉ではなく態度で触れ合えば、きっと、これからも上手くいくと‥‥‥‥ ジョージ先生の意図はその辺だったかもしれません。

加川さんは、それを聞いてすぐに納得し、ウイタさんをアパート近くの銭湯へ誘ったそうです。

もっとも、なぜ加川さんが誘ったのか、先生が勧めた事などをウイタさんが知る由もありません。

一度は、険悪な雰囲気になった秋山プロもこうして平穏を取り戻します。

1969年、まったく風呂へ入らないウイタさん、後輩だけど年上で世慣れた加川さん、絵は一番上手いが最年少のK君‥‥‥‥ この3人が秋山プロの初期のスタッフとして、週刊誌数誌の同時連載を支える事になります。

ジョージ先生は、26歳。アシスタント最年長が加川さんで19歳。風呂嫌いで着っぱなしに長髪のウイタさんが17歳、可愛いK君が16歳。

私は、この当時、まだ中学2年生の14歳。( 2014年、現在は58歳 )

ウイタさんが現在暮らしているのが、西武線沿線の入間市駅近く。

フリーのアニメクリエーターとして毎日、忙しくアニメの原画制作をしていますが、先日、お会いした時に‥‥‥‥ 気になっていた事を質問しました‥‥‥‥

「 なんで、何か月もお風呂に入らなかったのですか? 」

「 なんでって、なんで? 」

「 ‥‥‥‥はぁ? 」

「 ど~してお風呂に入らなきゃいけないの?」

「‥‥‥‥そ‥‥それは‥‥」

「 別に死にもしないでしょ! 」
 
「 ‥‥ま‥‥‥‥ そりゃ、そ~かも知れませんが‥‥‥‥ 」
  
論理的に間違ってはいないので、私は反論も出来ずに追加の質問をします‥‥‥‥

「 し‥‥ 下着も替えなかったそうですが‥‥‥‥ なんで‥‥‥‥? 」

「 なんでって、なんで? 」

「 だって‥‥‥‥ 不潔じゃないですかっ! 」

「 別に替えなくても死にゃ~しませんよ 」

「 そ、そりゃ‥‥ まぁ‥‥ その‥‥ そうなんです‥‥ けれども‥‥ ですが‥‥‥‥ 」
 




秋山プロで使用している私のデスク。別に何も変わった物はありません。どの道具も古いものばかりです‥‥右側にあるホワイト筆用のウーロン茶の空き缶ですが、30年も使用しています。

 
               その28

   《 漫画家アシスタントが・・・人切りを目撃する!? 》

 
〇森プロを夜逃げしてから、秋山プロ( ※参照 )のアシスタントに入った加川さんは、19歳にしては世慣れた感じで、フラフラと遊びながら競馬新聞ばかり読んでいました。
 
ジョージ先生は、その競馬新聞を横目に見ながら軽蔑したように‥‥
 
「 おめぃ~ いつも、そんなもん読んでるのかぁ? 」
 
「 ‥‥‥‥はぁ 」
 
「 もっと本を読まんかいっ! 」
 
先生がそう言って加川さんに奨めたのが司馬遼太郎の「 竜馬がゆく 」です。
 
この「 竜馬がゆく 」は、5,6年後に入ってくる内海さん( 第6章に登場した人物 )にも奨められています。

その時には、内海さんの人生が完全に変わってしまい、後に内海さんは、「 歩く幕末 」と言われるほどの龍馬ファンになってしまいました。

さて、読み物と言えば「 競馬新聞 」しか知らない加川さんは‥‥‥‥

『 え~~~~っ、こんなもの読むのかよ~~~~っ!? 』

‥‥と、分厚い読んだこともない幕末物の長編小説を見て、完全に尻込みしてしまいますが‥‥‥‥
 
「 1年かかっても、2年かかってもい~~から、読んでみろ 」

「 わ‥‥わかりましたぁ‥‥ お借りしま‥‥す‥‥‥‥ 」
 
読む気もない本を借りてしまったのですが‥‥‥‥ 仕方なく1ページ、2ページ‥‥ と読み進むと‥‥‥‥

‥‥‥‥面白くなってきて、一気に読み終えてしまいます。

そして、坂本龍馬に夢中になるのです‥‥‥‥

C・てつや先生( ※参照 )のところでアシスタントをする友人Sさんを誘って、土佐の桂浜にある坂本龍馬像を見に夜行列車に乗ってしまうほど夢中になるのです。

私も、この「 竜馬がゆく 」を読んでいますが、銅像を見に四国くんだりまで出かけて行く心理はわかりません。

ちなみに、この小説の持っている力( 影響力 )が絶大なのは分かっているので、今、私が非常勤講師を務める大学でも、学生さんたちにこの本を奨めています。
 
さて、この桂浜まで一緒に出掛けた友人のSさんですが‥‥‥‥
 
C・てつや先生のアシスタントをするほどですから、相当な漫画ファンであり、かつ熱烈な漫画家志望者でもあるわけです。
 
加川さんは、このSさんをジョージ先生に紹介した事がありました。
 
Sさんは、加川さんと同世代( 1969年当時19歳 )の若者‥‥‥‥ 言ってみれば、漫画家志望の若武者です。

きっと、憧れである有名なジョージ先生に会えることを光栄に思っていたのだと思います。

私には、この二人の出会いが、宮本武蔵の目の前にピョコピョコ飛び出した若侍のように想像されるのです‥‥‥‥‥‥
 
加川さんが先生の前に立って、横にいるSさんを紹介した瞬間です‥‥‥‥
 
「 あ、先生、こんにちは! 」

Sさんが明るく軽く、さわやかにあいさつしたその瞬間‥‥‥‥
 
未熟な若侍は老練なる剣豪の鋭い眼光に身を凍らせます‥‥‥‥
 
「 おめぃ~ ‥‥‥‥よ 」

「 はい! 」

「 大工だな 」

「 ‥‥‥‥はぁ? 」

「 おみぃ~~~~は、大工だよっ! 」
 
C・てつや先生のところで修業をつづけ、漫画の一本道を真っ直ぐに進んでいたSさんは、この瞬間にバッサリと斜めに切り裂かれます。

こうした事は、大文豪と言われる人や芸術家などとの対面時に起こる悲惨な出来事として稀にある事なのです。

Sさんは、この時に‥‥‥‥ 大変ショックを受けて、2,3日落ち込んでしまったそうです。

数日後‥‥‥‥

「 加川ぁ‥‥‥‥  」

「 ん? 」

「 俺ぇ‥‥‥‥‥‥ 大工かぁ? 」

私は直接、目の前で、ある人物がジョージ先生に切られる‥‥‥‥ まさに血が飛び散るように切られる瞬間を見たことがあります。
 
その人は、小説家を志望する20代後半の人でした‥‥‥‥ そして、ジョージ先生が大好きなファンでもありました‥‥‥‥
 
明るく、軽く、さわやかに‥‥‥‥ ジョージ先生にあいさつした瞬間でした‥‥‥‥
 
「 ‥‥‥‥八百屋だな 」
 
「 は‥‥‥‥? 」
 
「 おみぃ~~~~~~は、八百屋だよっ! 」
( 言われた本人にとっては、笑い事ではありません )
 
 
私の友人や知り合いの漫画家などでもジョージ先生に会いたがる人がよくいます。

会いたがる気持ちは、よく分かるのですが‥‥‥‥ いえ、私だって会わせてあげたいものなのですが‥‥‥‥‥‥
 
相手が「 漫画家 」というイメージよりも「 剣豪 」といったイメージに近いわけで‥‥‥‥
 
運が悪ければ、大ケガしかねません‥‥‥‥‥‥( 人身事故です )

だからと言って‥‥‥‥

「 あなたじゃ、バッサリ切られるかも知れませんよ 」
 
‥‥‥‥なんて、思うだけで口には出来ないのです。
 
ホント、口になんて出来ませんのです。
 
  
 
  
 
     「 漫画家アシスタント物語 古い話で章〈15〉」へつづく・・・・
                 「古い話で章〈13〉」へもどる‥‥
                        「もくじ」 へ‥‥
 
 
 
 
 ~~~ 参照 古い話で章〈14〉~~~( 読んでも、読まなくても!)
 
 【その28】
・秋山プロ : 漫画家ジョージ先生の仕事場。東京目白にあり、スタッフは現在2人。連載は1誌。ちょっと淋しい今日この頃です。(バブル期には連載6誌、スタッフ6人)
・C・てつや先生 : あの有名な先生です。「〇したのジョー」「〇たり松太郎」名作の数々。仕事場は、西武池袋線の富士見台。今は、大学の先生をしておられます。

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