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あの遠き日の花火|風まかせ文芸部《線香花火》の残照

「線香花火」がテーマのお題企画が発表された。線香花火のモチーフは、わたしの心の奥深くで、いつも小さく光っている。最近も『夏祭りに寄せる小夜曲』や『夏休みの構造力学』で、立て続けに使ってしまった。

 夏になると、ふと線香花火の硝煙の残り香を思い出す。火玉が落ちるまでの短い時間に、心が揺れていた十代の自分。いっとき、わたしたちは理由もなく物語を書きはじめた。そして、その熱は線香花火のようにすぐに消えた。しかし、その頃に書いた小説が、電子の海の底から偶然見つかった。湿気った花火の袋が、当時の空気を閉じ込めたまま、押し入れの奥で見つかってしまったような心持ちだった。

 線香花火を火種に、瞬間の感情が最大火力で書かれていた。わたしの中の線香花火の原点が、その中にあるのは間違いない。大変稚拙なものだが、その一節を原文のまま置いておこうと思う(なお、当該小説はこの調子で約五万字ある)。

 いまの自分ではもう書けない、あの頃だけの熱と不器用さが詰まった記録である。リライトなどもってのほかだ。それが、恥ずかしくもあり、そして少し羨ましくもある。

高校一年の文化祭の打ち上げの日、行事の後の興奮でひとしきり場が盛り上がって、その後の静かな時間が来た。あるグループはもう家に戻り、またある者は共通の友人宅に上がり込んで語り合っていた。
満天の星空が、きれいな夜だった。

「孝貴くん、きれいだね」
中学の終わりから恋人という関係になってから半年。孝貴とさゆりはみんなから離れ、少し奥まったところで線香花火を手にしていた。いかにも恋人同士のしぐさだ。この暑い夏に、そうでもしなければ凍え死んでしまうかのように、ぴったり寄り添って座っている。
「う、ん……」
孝貴は、いささか緊張していた。自分の顔のすぐ近くのさゆりのぷっくりした小さな唇が気になる。耳元で、時々起こる空気の乱れは、さゆりの口から発せられた吐息だろう。
もし月があったら、孝貴の思い詰めたような顔がさゆりにも見えたかも知れない。そして、また違った意味で思い詰めているさゆりの表情も、孝貴に伝わったことだろう。
「孝貴くん。花火の競争しよう、か?」
さゆりが、明るい声で言う。
「そうしよう」
二人は、お互いの線香花火に火をつけて、それをじっと見つめている。沈黙の時間(とき)が流れる。そして、やがてその瞬間(じかん)にも終わりが来た。丸い火種が、ぽとんと地面に落ちた。

はじめにさゆりが口を開いた。一言一言、ゆっくりと、そして慎重に。
「楽しいときは、一瞬だね、線香花火も……。それから」
さゆりは大きく息を吸い込んだ。
「あ、私たちの時間もここで終わりにしよう」
孝貴にはそれが、まるで死刑宣告のように聞こえた。
「さ、さゆり……ど、どういう……?」
流れ星が一つ、空を切り裂いた。もし流れ星に願ったら、彼女は行かないですむのだろうか、孝貴はまだ事情がよく呑み込めない頭で、そんなことをぼんやり考えていた。

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