夏休みの構造力学|シロクマ文芸部《夏休み》
夏休みは、明確な三層の力学構造で説明できる。
はじまりは、ぎらつく太陽のように、あからさまな期待に満ちている。
熱せられた道路舗装の揺らぎ。蝉の声の重奏。塩素の匂い。
間近な花火の光と喧騒。日陰で伸びている黒猫。伸びるといえば、朝顔の蔓。
夏がはじまる前の「何かが起きそうで」幸福な時間。朝の光が、いつもより眩しく感じられる。
希望と欲望が、水蒸気を含んだ入道雲のようにどんどん膨張する。TUBE曰く「阿呆みたい、夢とちゃうのかい?」(違)
立秋を過ぎたあたりで、夏の空は転調する。
夕立前に止まる風。慌てて取り込んだ洗濯物の少し湿った匂い。扇風機が首を振る音。たゆたうように停滞する時間。秒針が時を刻む音さえ、心なしか速度を落とす。
よいことも悪いこともなく三日貰える夏休みという、みゆき節の気配。
どこか遠いところから微かに響く花火の音。
残りの宿題。原稿用紙の行間で太宰がにやりとするのも此の頃である。
特別な季節の感覚の中に、少しの諦念と日常の残滓が紛れ込んでくる。
朝露が降りて、夏の虫が淋しげに鳴く頃になると、今度は陽水の世界観。
夕立が通り過ぎたあとの、ひんやりした空気。ひぐらしの声が減衰する。線香花火の微かな色。
あざみの花殻がからから風に鳴り、乾き、そして崩れる頃、夏は過ぎる。
夕方の影が長く伸びる。川蜻蛉の翅が、夕暮れの光を薄く透かしている。その向こうで、夏の気配がひとつずつ剥がれ落ちていく。
夢は思い出のあとさき。
面白うて やがて悲しき 夏休み ──無茶(拝)
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