サクサク海老フライをどうぞ|連作小説④
1199字
「言ったっしょー?ここはおいしいって」
「はっ。完全降伏であります」
同僚のなかでも妙に気の合う関ありさ。興味をとことん突き詰める行動派。フィギュアスケーターの推し活をしていて、シーズン中のため鼻息が荒い。
「は~、快くん、神ってたあ。余韻に打ち震えてる~」
ウフフと変なタイミングで笑う、遠征帰りの彼女。人生楽しそうだ。
「スケート会場って寒そうだよね? 選手も演技の前後に鼻かんでる」
「カイロとレッグウォーマー、ストールで楽勝」
氷をもとかす推しへの愛を、節をつけて唄う。
三神快選手(22)トークを、いつものように花歩は聞き流す。トウループ、フリップにルッツジャンプ。専門用語が多すぎて、ついていけない。熱心なファンだと見分けがつくものなのだろうか。
職場では、2年前に制服が廃止になった。多様性の時代に添った対応とのこと。
制服着用のまま出歩くべからず、の掟に慣れきった身としては、社員食堂でさっさと済ませるほうに軍配が上がる。デパートのバックヤードは迷路のように入り組んでおり、そこを通ってまで外に出る心理的ハードルが高すぎる。
そんなわけで、なんとなくランチの誘いを断っていた。過去の自分をベシベシはたきたい気分である。
夜のヒナタボコは一青がひとりでまわしていたが、ランチタイムはさすがに助っ人がいた。
赤いエプロンに負けぬ笑顔の、地元のおばちゃんたちだ。店主の人柄に惚れ込み、ヒナタボコ応援隊・通称「雛隊」(平均年齢非公表)を結成。交代でフロアを担当しているらしい。
「喫茶&洋食ヒナタボコ」名物ワンプレートランチ。
まあるくふくらんだハンバーグと、きつね色が食欲をそそる海老フライ。ポテトサラダ&ブロッコリー。これにコーンスープがついてくる、けっこうなボリュームだ。
熱々のやわらかバーグは、肉汁をのがさず仕上げてある。デミグラスソースをかければ、二度おいしい。衣がサックサクの海老フライをひとくちかんだだけで、にんまり。プリプリ海老の甘いこと。タルタルソースも自家製なんだろうな。
「美絵さーん。友達連れてきたよん」
今日は雛隊・隊長みずからおでまし。我に返り、花歩も挨拶をした。
近くでハーブ農園を営んでいるという美絵は、お肌つややか。足にバネが入っている? と疑うほど、身のこなしが軽い。
店員が生き生きと立ち働いているお店の居心地のよさを、あらためて味わう。週末に朗読会があると、かわいらしいイラストのチラシをもらった。
高校時代、花歩は絵本の読み聞かせボランティアをしていた。
子どもでなくとも、いや、大人になりかかっていたタイミングだからこそ、やさしい世界は心に沁みた。知らないうちに、栄養として体に蓄積されていたようだ。
将来、百貨店ディスプレイに関わるなんて当時は思いもしなかった。
そういえば、古賀七生と一青。兄弟仲はどうなんだろう。あの上司が弟に仕事の話をするとも思えない。なにがどうなって自分の身元が割れたのかも、ナゾのままだ。
(つづく)

海老フライ食べたい(〃艸〃)
▽(つづき)第5話
▽第1話
▽第2話
▽第3話
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