とろ~りフォンダンショコラをどうぞ|連作小説②
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毎日、花歩が疲労困憊なのには理由があった。
新年度に着任した上司のせいである。勤め先のデパートが買収され、売り上げの落ち込んでいた店舗に刺客が送り込まれた。その名も古賀七生。
にこりともしない仕事ぶりに「殺しても死なな(七)い男」と、うまいあだ名が早速ついた。
就職して最初に配属されたのは、ほとんど接客のない裏方の部署だった。贈答品のラッピングやら配送の手配やら、地味な仕事が性に合っていた。が、幸か不幸か配置転換に。
催事担当にとっての一大イベントは、毎月のショーウィンドウ設営だ。
大通りに面した一等地。百貨店の顔ともいうべき幅12m×高さ10mのウィンドウが計5面。夢と理想、あこがれ、キラキラをすべて詰め込んだ空間をつくる。新デコレーションお披露目の際には、写真や動画におさめようとファンが並んで待ってくれる。
これはもう、向き不向き関係なく責任重大だ。
今までは、本部の準備してくれたテーマ、素材、設計のとおりに粛々と仕上げるだけだった。徹夜作業にはなるものの、ワンセット届くのだから、なにも考える必要ナシ。
それも過去の話。古賀氏によるテコ入れで、イチから知恵を絞らなくてはならなくなった。
「榎本さん。個性や斬新さを出してください」
「はい、もうしわけございません」
「焼き増しはナシで」
「はい、やり直します」
こんなクリエイティブなこと、やったことね~。
もちろん、素人のできることには限界がある。アーティストコラボを依頼するにしても、下調べや企画書などやることだらけ。物産展準備とかぶった日には……である。
肩に力が入って血流も悪くなり、気疲れもあってへとへとだ。
「おかえりなさい」
あれから通っている「喫茶&洋食ヒナタボコ」
店員だと思っていた若い彼は、れっきとした主人だった。
「ただいまです。やわパスひとつ」
「ヘイ、ただいま~」
「それ、ギャグですか?」
「あ……」と口を押さえる素直さになごむ。
裏メニュー「やわやわパスタ」を毎回注文しているのは、花歩だけのようだ。
今日は何味かなあ。プレゼントを開けるときのようなわくわく感に胸が躍る。スマホを構えるお客さんの表情を思い出した。きっと同じ感覚なんだ。
濃厚カルボナーラで英気を養った花歩の前に、デザートプレートがこんにちは。
「え? 注文してませんけど」
「新作の試食、お願いできませんか? おわびも兼ねて」
ブラックチョコレートのしっとり生地に、甘酸っぱいカシスとミルクチョコのダブルソース。フォークを入れると、とろりと流れ出すあったかフォンダンショコラ。
おいしい食事に甘いドルチェ。ここは天国ですか……?
「ん? おわびって?」
「兄がお世話になっております」
(つづく)

1話完結型連作ストーリーにしようかな?
行き当たりばったりでお送りします
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第1話はこちら▽
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