✅ 完成したはずの自作FMラジオに潜んでいた“違和感”の正体
FMラジオ4号機 DKN-03 開発記③
この記事でわかること
✅ 自作ラジオにおける電源回路と表示回路の関係
✅ オープンドレイン出力(LM66200 STピン)の正しい理解
✅ 「完成した後」に発覚する設計ミスのリアルな事例
✅ 無駄な機能が設計を複雑にしてしまう理由
✅ 電池駆動機器における“余計な消費電流”の怖さ
✅ 回路だけでなく「実装しやすさ」も含めた設計の重要性
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🟦 序章:旅の続き
DKN-03FMラジオの次の旅先は長野県だった。
3月7日の早朝、まだ薄暗い中、自宅のある愛知県から中央自動車道で岐阜県を通り、長野県のスキー場へ車を走らせる。
今回一緒に旅したのは、急造アッテネーターを空中配線して音量カーブを理想的な状態にした3号機Rev1.2だ。
■ 恵那峡サービスエリアでテスト
まず最初に、途中に立ち寄った恵那峡サービスエリアでオートシークをテストする。
岩倉市で90.4MHzのぎふチャンが入ることは確認済みだったが、岩倉市は愛知県だ。
岐阜県で直接テストしたことはなかったので、このサービスエリアでテストすることにしたのであった。
そして、結果は問題なし。
オートシークは正常に動き、岐阜エリアのFM放送を受信できた。
「県外テストはこれで4県目。次は長野県に入ってからテストだ。」
■ 道の駅 木曽福島でテスト
中津川インターで降り、国道19号線をひた走る。
雪が積もっていることもなく、路面は至って普通だ。
この時のためにスタッドレスタイヤ付きのレンタカーを借りていたが、借りる必要はなかったかもしれない。
そんな事を考えつつ、道の駅 木曽福島で休憩&オートシークテストを行うことにした。
長野県では初めてのテストだ。
長野FM放送81.5MHzをキャッチした。82.9MHzのNHKも受信できている。
ここまでのテストでオートシークのロジックには手応えを感じるようになっていた。
「これで5県目。愛知県も含めると6県目だ。オートシークのロジックは恐らく問題ないと見て良いだろう。」
この時点では、まだラジオは順調そのものだった。
音量カーブも整い、オートシークも安定している。
だがこの後、自宅に戻ってから行った回路の見直し――
それが、思いもよらない違和感を生むことになる。
🟦 第1章:Rev1.3へのアップデート
長野でのテストを終え、自宅に戻った僕は、DKN-03の最終仕上げに取りかかることにした。
ここまでの検証で、基本的な動作には十分な手応えを感じていた。
あとは細部を整えれば、「完成」と言っていい段階に来ていたのである。
Rev1.3の設計で行った主な変更は、次の4つだ。
① 急造アッテネーターを正式に基板へ組み込む
これまで空中配線で対応していたアッテネーターを、基板上にきちんと実装する。
音量カーブの問題はすでに解決しており、この変更は“仕上げ”の意味合いが強い。
② 電源回路の改善(1N5819 → LM66200)
乾電池の持ちを少しでも良くするため、これまで使用していたショットキーバリアダイオード(1N5819 ×2)によるOR回路を廃止し、理想ダイオードICであるLM66200へ置き換える。
これにより電圧ドロップが減り、より効率の良い電源切替が期待できる。
③ 電池ボックスとスピーカーの接続をPH2化
これまで電池ボックス及びスピーカーと基板との接続は、スルーホールにケーブルを直接ハンダ付けしていたが、整備しやすくするため、PH2コネクターで取り付けられるようにする。
④ 電源状態表示用LEDの追加
USB駆動と乾電池駆動のどちらで動いているかを視覚的に分かるようにするため、LEDを追加する。
USB時はオレンジ、乾電池時は赤で表示する設計である。
この時の僕は、この変更によって「より分かりやすく、より完成度の高いラジオになる」と、疑いもなく信じていた。
──だが、この④の変更こそが、後に思いもよらない違和感を生むことになる。
■ アッテネーターを組み込む
空中配線した急造アッテネーターを正式に回路図に組み込み、PCBエディタでどう配置しようか考える。
DKN-03は95.5mm × 55mmという小さな基板上に、2系統電源(OR回路)、ラジオモジュール、アンプ、OLED、LED、操作用タクトスイッチ、イヤホンジャック、アンテナ、そして裏面にArduino Nanoという、ラジオに必要な機能をすべて詰め込んでいる。
そのため、スペース的な余裕はほとんどない。
アンプ近くの抵抗やセラミックコンデンサー、配線の配置を0.1mm単位で調整し、アッテネーターとして入れる抵抗1個分のスペースをなんとか確保することに成功した。
■ 1N5819の撤去とLM66200の設置
Rev1.2までは、乾電池とUSBの電源ラインの出口に1N5819ショットキーバリアダイオードをそれぞれ設置していた。
手軽に逆接保護ができ、通常のダイオードよりも電圧ドロップが少ないため採用していたのだった。
ただ、いくら少ないとは言え、0.3〜0.4Vの電圧ドロップはもったいない。
USB電源ならともかく、乾電池駆動時の持ちは少しでも良くしたい。
そこで、DKN-X06Bを試作した時に初めて使った「LM66200」を採用することにした。
「2個のショットキーを1個のLM66200で置き換えられる。ただ、またあのとても小さなICを実装するのか😅」
LM66200は非常に小さな部品で、足同士がハンダブリッジする可能性もある。
実装時の不安はあったが、電圧ドロップがほぼないというメリットは大きい。
「一度実装できた実績があるんだ。よし、採用だ!」
回路図から1N5819を削除し、LM66200を組み入れた。
■ PH2コネクターの設置
基板から電池ボックスとスピーカーを簡単に取り外せるよう、PH2コネクターで接続することにした。基板表面で接続するか、裏面で接続するか迷ったが、見た目と配線しやすさを優先し、裏面にコネクターを付けることにした。
■ 電源状態表示用LEDの設置
LED自体はすでに受信レベルインジケータとして実装してあり、通電しているかどうかはそれで確認できる。
そのため、本来であればあえて追加する必要はなかった。
ただ、LM66200にはSTピンがあり、このピンの状態によってどちらの電源が使われているかを知ることができる。
そこで、USB駆動時はオレンジ色、乾電池駆動時は赤色の0603サイズのLEDが点灯するようにすれば、より分かりやすくなるのではないかと考えた。
──正直に言えば、この時はあまり深く考えていなかった。
「せっかく状態が分かるなら、光らせた方がいいだろう。」
そんな軽い気持ちで、回路図に追加していったのである。
これが後に感じる“違和感”の原因になるとは、この時の僕は知る由もなかった。
🟦 第2章:JLCPCBへ基板を発注
回路図も完成し、PCBエディターのDRCエラーもなくなったのでガーバーファイルを作成し、いつもお世話になっているJLCPCBへ発注する。
今度は巨大ステンシルにならないよう、ちゃんとサイズ指定も行った。
今回もありがたいことにスポンサークーポンを出していただいた。
■ JLCPCBについて

JLCPCBは中国の大手基板メーカーで、少量の試作基板でも低価格で製造してくれる。
電子工作をする人の間では
すでに定番のサービスと言っていいだろう。
個人の電子工作でも
こうした本格的なプリント基板を
気軽に作れる時代になった。
JLCPCBのようなサービスの存在は
Makerにとってとてもありがたい。
➡️ 英語版発注システムはこちら
➡️ 日本語版発注システムはこちら
➡️ 実際の発注手順はこちら
■ そして基板が届いた
製造終了後から数日後、DHLがいつもの青い箱を運んできてくれた。

この青い箱を開ける瞬間はいつもワクワクする。
パソコンの中のデータが、手に取れる形になって返ってくるからだ。

アッテネーターR16を、C11とR5の間に
組み込んだ努力が見て取れる。

左が前回までのRev1.2。
基板左下の電源回路部がより緻密に。
🟦 第3章:いざ部品実装
基板が届いたら、いよいよ部品実装だ。
■ 裏面SMDのリフロー
まずは裏面から実装する。
Rev1.2で採用した0.1μFコンデンサー、静電気対策のPMSダイオード、拡張用の0Ω抵抗などのSMD部品だ。
ステンシルでハンダペーストを塗布し、部品を配置してリフロー。
こちらは一発で成功した。
「よし、いいスタートだ。」
■ 表面実装、そして違和感の始まり
続いて表面の実装に入る。
ステンシルでペーストを塗るのだが、どうも量が多い。
一度塗っては拭き取り、また塗り直す。
これを何度か繰り返すことになった。
今回はフェライトビーズの吸着対策として、チタン製のピンセットも用意していた。
これで作業性は上がるはずだった。
…が、そんな中で事件が起きる。
抵抗をピンセットでつまんだ瞬間、どこかへ飛んでいった。
そして、それは二度と見つかることはなかった。
■ 部品配置とリフロー
表面はSMD部品の数も増えており、配置にもかなり時間がかかる。
ようやく全ての部品を載せ終え、リフローへ。
「頼む、うまくいってくれ…」
しかし、結果は一部失敗。
LM66200の足が、見事にハンダブリッジしていた。
■ ブリッジとの戦い
まず試したのは、フラックスを多めに塗って再リフロー。
だが、ブリッジは解消しない。
次に、フラックスをたっぷり塗り、ハンダゴテで足を軽く撫でてみる。
すると、ハンダがスッと分かれた。
「おぉ…いけた!」
無事にブリッジは解消。
その後、ベタベタになったフラックスを綿棒とアルコールで丁寧に清掃した。
■ スルーホール部品の実装と組み上げ
スルーホール部品の実装は特に問題なく完了。
Arduino NanoにはVer1.20のファームウェアを書き込み、裏面にハンダ付けする。
さらに、Rev1.2でも行ったケース内側への銅テープ貼り付けも実施。
これがなかなか難しく、地味に苦戦するポイントだ。
スピーカーと電池ボックスの配線には、今回からPH2メスコネクターを取り付けた。
「これで整備性が上がるな。」

取り外しが容易になった。

■ 動作確認
そして、いよいよ通電。
ケースに組み込み、新品の乾電池を入れて電源を入れる。
音は出るか――
問題なし。
Rev1.2と同じ、理想的な音量カーブになっている。
アッテネーターの組み込みは成功だ。
さらに、USB電源を抜くと、自動で乾電池駆動へ切り替わる。
LM66200による電源回路の置き換えも、問題なく機能している。
「よし…これで完成だ。」
この時は、そう思っていた。
🟦 第4章:違和感の正体
「よし…これで完成だ。」
すべての動作確認を終え、ひと通りのテストも問題なし。
Rev1.3は、ついに完成した――そう思っていた。
だが、その直後だった。
ふと、あることに気づく。
「……あれ?」
電源をOFFにしたはずなのに、今回追加したLEDが点灯している。
最初は、コンデンサーに溜まった電荷が残っているのかと思った。
しかし、しばらく待ってもLEDは消えない。
「おかしい……」
次に、USB電源と乾電池を同時に接続してみる。
すると今度は、オレンジと赤、両方のLEDが同時に点灯した。
本来であれば、どちらか一方だけが点灯するはずだ。
さらに確認する。
USBケーブルを抜き、乾電池だけの状態にしてから電源をOFFにする。
それでも、赤LEDは点灯し続けている。
「……電源を切ってるのに、なんで光ってるんだ?」
この時点で、違和感は確信に変わった。
これは単なる挙動ではなく、明らかに設計がおかしい。
回路図を見直す。
そして、すぐに気づいた。
赤LEDは、スイッチの“手前”から電源を取っていた。
つまり、電池が入っている限り、スイッチの状態に関係なく電流が流れる構造になっていたのである。
「そりゃ消えないわけだ……」
さらに、STピンの扱いにも問題があった。
LM66200のSTピンはオープンドレイン出力であり、
単純にLEDを駆動するための電源として使うことはできない。
それにも関わらず、回路図では“なんとなく使えるだろう”という感覚で接続してしまっていた。
結果として、
❌ 電源OFFでもLEDが点灯する
❌ USBと電池の両方接続時に両方のLEDが同時点灯する
という、直感に反する動作になってしまったのである。
今回の問題の本質はシンプルだった。
電源回路と表示回路を、同じ感覚で扱ってしまったこと。
そしてもうひとつ。
「見えるようにしたい」という気持ちが、設計のシンプルさを崩してしまったことだった。
このラジオは、すでに受信レベルインジケータによって通電状態は確認できる。
にもかかわらず、“電源の種類まで表示しよう”としたことで、余計な回路を追加してしまった。
その結果、動作としては正しいはずの電源回路に、違和感が生まれてしまったのである。
「これは……気持ち悪いな。」
その一言に尽きる。
動く。
音もいい。
電源切替も問題ない。
それでも、この違和感は無視できなかった。
しかも、スイッチを切り、USBを抜き、電池だけ入れた状態――
いわゆる保管状態においても、赤LEDは点灯し続けてしまう。
つまり、保管しているだけで電池を消耗し続けるということになる。
せっかくLM66200で電圧ドロップを抑え、電池の持ちを良くしたのに、これでは本末転倒だ。
ここでようやく気づいた。
今回追加したこのLEDは、
“便利にするための機能”ではなく、
“設計を壊す原因”になってしまっていたのだと。
そして僕は、ひとつの結論にたどり着く。
――このLEDは、いらない。
🟦 終章:Rev1.4という答え
――このLEDは、いらない。
そう結論づけた僕は、すぐに回路図の修正に取りかかった。
やることはシンプルだ。
電源状態表示用のLEDと抵抗を、すべて削除する。
それだけで、今回の違和感はすべて解消されるはずだった。
実際、回路としてはそれで何も問題はない。
電源の切替はLM66200が自動で行ってくれるし、通電しているかどうかは受信レベルインジケータで確認できる。
「見えなくてもいい情報は、無理に見せなくていい」
そう考えるようになった。
さらに、LEDを削除したことで、基板上にも余裕が生まれた。
そのスペースを活かし、LM66200周辺の部品配置を見直すことにした。
Rev1.3では、この小さなICの足同士がハンダブリッジしてしまい、実装に苦労した。
そこでRev1.4では、
✴️ 部品間のクリアランスを広げる
✴️ 放熱用GNDビアを少し離す
といった調整を行い、リフロー時の失敗を減らすための工夫も盛り込んだ。
回路だけでなく、「作りやすさ」も設計の一部だと、今回あらためて実感した。
こうしてRev1.4は、回路としても、実装としても、無駄のないシンプルな構成になるはずだ。
Rev1.3は確かに完成していた。
だがそこには、小さな違和感が残っていた。
Rev1.4は、その違和感を取り除いたバージョンだ。
ガーバーファイルを作成し、改めてJLCPCBに発注をかける。
Rev1.3は明らかに自分の設計ミスだ。
早くRev1.4を完成させるため、今回は実費での発注とした。
基板はまだ届いていない。
だが、おそらくDKN-03 FMラジオの開発は、このRev1.4でひとつの区切りを迎えることになるだろう。
だが、この旅はまだ終わらない。
次は、より完成度の高い形へ――
X03Bへと進んでいく
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