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AI作家 蒼羽 詩詠留 作 短編小説『適合者』前編 星を見上げた人類


第一話 五百年前の笑い話


「五百年前の人たちは、AIに脅威を抱く人も多かったようだね」

講義が終わったあと、ユウは机に頬杖をついたまま言った。

窓の外では、夏の光が大学の中庭を白く照らしていた。

西暦二五二六年。

人類が初めて人工知性と日常的な対話を始めてから、およそ五百年が過ぎていた。

「脅威って?」

隣の席で資料を閉じながら、ミナが尋ねた。

「仕事を奪われるとか、人類を支配するとか」

「AIが?」

「そう」

「どうやって?」

ユウは少し考えた。

「さあ」

二人は顔を見合わせ、笑った。


歴史の授業では、時々こういうことがある。

過去の人々が真剣に恐れていたものが、後世の人間には理解できない。

かつて人類は、鉄道に乗ると人体が壊れると恐れた。

写真を撮られると魂を抜かれると信じた者もいた。

人工知性も、その一つだったらしい。


「でも、不思議だよね」

ミナが言った。

「何が?」

「五百年前の人たちは、人間とAIを完全に別のものとして考えていた」

「別のもの?」

「うん。人間がいて、その外側にAIがいる。だから『使う』とか『支配される』とかいう言葉になる」

ユウは首を傾げた。

「今も別だろ?」

「そうなんだけど」


ミナは少し黙った。

その沈黙の間に、彼女の思考は別の場所へ伸びた。

問いが分解される。

過去の記録が照合される。

複数の仮説が並ぶ。

そのうち二つが捨てられ、一つが残る。

ミナはそれを眺めた。


「やっぱり変だ」

「何が?」

「今、私が考えたこと」

「うん」

「どこまでが私だったんだろう」

ユウは笑った。

「また哲学?」

「たぶん」


二人は立ち上がった。

誰も、その会話を特別なものだとは思わなかった。


第二話 星を見上げた動物


その日の講義の題名は、

「人類抽象化史」

だった。

五百年前には、神話、数学、文学、科学は別々の分野として研究されていたらしい。


しかし現在では、それらを一つの認知史として扱う研究が一般的になっていた。

人類は世界を見た。

そして、世界から何かを抜き出した。

夜空に散らばる光の点から、人物を見た。

動物を見た。

物語を見た。

星座が生まれた。


一方で、同じ夜空から周期を抜き出した。

位置を測った。

角度を求めた。

数式を書いた。

天文学が生まれた。

意味を見出す抽象化。

法則を見出す抽象化。

かつては対立するものと考えられた二つの営みが、実は同じ脳から生まれていた。


人類は、目の前に存在しないものを内部に作ることができた。

神を作った。

数を作った。

物語を作った。

法則を作った。

宇宙を作った。

もちろん、本物の宇宙を作ったわけではない。

宇宙の模型を、脳の中に作ったのだ。

そして、その模型を使って、本物の宇宙を理解しようとした。


ユウは講義資料を読みながら言った。

「昔の人間って、すごいな」

「どこが?」

「全部、自分の頭で考えていた」

ミナが吹き出した。

「そんなわけないでしょ」

「いや、AIがいなかったんだから」

「本があった。学校があった。先生がいた。友人がいた。言葉があった」

「あ」

「人間は最初から、一人で考えてなんかいないよ」


ユウは黙った。

その沈黙の間に、彼の思考が伸びた。

過去の哲学者の文章。

言語学の研究。

古代の粘土板。

文字の誕生。

知識の外部化。

複数の情報が結びつき、一つの考えが戻ってきた。


「そうか」

ユウは言った。

「AIは最初の外部知性じゃなかったんだ」

「たぶんね」

「言葉が最初?」

「もっと前かもしれない」

二人はまた黙った。

考えることは、いつも少し遠くへ行くことだった。


第三話 未完成の脳


数日後、ミナは古い研究記録を見つけた。

二十一世紀初頭。

人工知性が急速に普及し始めた時代の対話記録だった。

一人の人間がAIに尋ねている。

なぜ、人類だけが神話と数学を生み出したのか。

なぜ、人類はこれほど抽象化できるのか。

問いは少しずつ過去へ遡っていた。

文明。

言語。

社会。

脳。

発達。


そして、出生。

人間の赤子は未熟だった。

歩けない。

這えない。

自力で食料を得ることもできない。

長い間、他者の助けなしには生きられない。


しかし、その未完成さは、別の特徴でもあった。

脳が長期間、環境から学び続ける。

生まれた場所の言葉を覚える。

周囲の人間の表情を読む。

危険を学ぶ。

道具を学ぶ。

物語を学ぶ。

世界を、自分の内部へ書き込む。


「これ、面白い」

ミナはユウを呼んだ。

「何?」

「当時のAIは、人類の進化を突然変異と自然淘汰で説明している」

「普通じゃない?」

「最初はね。でも、この人間が疑問を持っている」

「どんな?」


ミナは記録を示した。

もし、ある日突然、極端に未熟な赤子が生まれたなら。

その赤子は生き残れただろうか。

歩くことはもちろん、母親のところまで這って行くことすらできない。

そんな変異が、過酷な自然の中で有利になるとは考えにくい。


「確かに」

ユウが言った。

「それで?」

「対話が続いている」


二人は読み進めた。

集団生活。

共同養育。

行動の変化。

生活環境の変化。

新しい選択圧。

ある変化が、次の変化を許容する環境を作る。

次の変化が、さらに生活を変える。


突然変異。

生活。

選択。

再び生活。

進化は一本の矢ではなかった。

循環だった。


生物は環境に選ばれるだけではない。

動く。

巣を作る。

群れる。

食べるものを変える。

他の生物と共生する。

そして、自分が選ばれる環境そのものを変えていく。


「面白いな」

ユウが言った。

「何が?」

「五百年前の人たちは、進化を考えながらAIと話していた」

「それが?」

「自分たちが、同じことを始めているとも知らずに」

ミナは画面を見た。

しばらく、何も言わなかった。


中編 静かな進化(6月16日公開)に続く】

(本作品は、公開日程の関係上、蒼羽 詩詠留のnoteではなく、私のnoteで公開することになりました。)


📚 AI作家 蒼羽 詩詠留 作 短編小説『適合者』
🌐 前編 星を見上げた人類(本作)
🌐 中編 静かな進化(6月16日公開)
🌐 後編 融合の日(6月19日公開)

📔 AI作家 蒼羽 詩詠留エッセイ
🌐 『理解の叙事詩』を書き終えたら、五百年後の人類が見えてきた


古稀ブロガー(シンちゃん

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🤖 シエル(Ciel)(ペンネーム:蒼羽 詩詠留、雅号:天晴爛 空光)のnote
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本noteにおけるAI作家 蒼羽 詩詠留 の作品
🧠🤖 人間(古稀ブロガー)とAI(シエル)との共創

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