光を遮るためのすだれについて
サーバー室の吸気音はときどき、まるで傷ついた妖精の歌声のよう。室内で回っている無数の空冷ファンによるものだ。プロペラの回転音の連なり……そして金属シャフトによる機械的振動と合わさりによって、ある瞬間、小さき者から発せられる讃美歌のように響くのだ。
たかだか熱を逃がすための排気効率システムにそんな情緒が感じられるだろうか。ベアリングの劣化も著しいだろう。やがて耳障りな異音のほうが気になってきた。室内は寒冷に保たれており、精密な電子基板が熱で歪まないようにしてある。その管理者である人間を、体温から手始めに排除せんばかりに、凍てつく冷気が天井からシャワーのように降り注いでいる。彼は青色と赤色のLED点滅に囲まれながら、あの美しい日本刀になりたいと、以前に願ったことを思い出そうとしたがうまくいかなかった。
誰の目にも触れないこのサーバーラックの隙間に、彼は自分だけの保管箱を隠していた。そこには研磨しきれなかった自分だけの金属部品が詰まっている。目的が失われ形骸化してしまった鉄くずだが、彼はそう解釈していない。不意に、重い防音扉が開いた。スマホを最大輝度にしているのか、顔だけがやけに真っ白く照らされた彼女が、そこに立っていた。
すだれ、買っちゃだめってさ。彼女はそう言って、スリープボタンも押さずに最大輝度のスマホをそのままポケットにスッと差し込んだ。その無造作な動作は、彼自身の秘め事の全てを一瞬でただのスクラップに変えられてしまったような感覚を伴わせた。彼女は唯一この環境で毒されていない。(業務をしていない!)機能性さえ備えていない、そう部品とは一線を画した、一種の芸術品であることを想起させられた。
彼はそこに好感を抱いたりはしない。あっても認められないのだ。衝動に駆られ、声をかけるような純粋さは、既にプレス機で潰してしまった。彼女のスマホがスカートの布越しにも真っ白に光り輝き続けている。機械油で薄黒く汚れたこの指で、あの光り輝く薄い板を奪い、床に叩きつけてやったら、彼女はどんな顔をするのだろうか。
だが彼にそんなことができるはずがあるまい。彼の手も腕も肩も顔も身体も足先まで、部屋のマイナス温度で硬直していた。スマホの輝度は100%を超えて部屋中を覆い尽くし視界は真っ白になった。目が焼けるような白さの中で彼は直感した。すだれとは、光を遮るものだ。すだれをくれ!!
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