おひとりさまの老後|介護するとき 介護されるとき|お代はツケで。
あの日から2年
当時93歳の伯母は、ひとり暮らしをしていた。
子どもがいなかったので、わたしをとてもかわいがってくれていた。
わたしに彼女がしてくれたように、わたしが彼女にできることをしてあげたい。
老いていく不安を少しでも小さくしてあげたい。
ずっとそう思っていた。
そして、その日は突然やってきた。
梅雨の頃。大好きな伯母が救急車で運ばれた。
転倒して、大腿骨を骨折したらしい。
「歩きたい」という本人の強い希望もあって、歩行器を使えば歩けるようにはなった。
転倒から2か月後。
手術、リハビリを終え、退院することになったが、自宅でのひとり暮らしは難しいとの判断で、施設での生活がはじまることとなった。
わたしは、直接、介助や介護はできない。
それでも、関係機関との連携や彼女のサポートを引き受けている。
そして、今、わたしは「老いていくこと」を身近で教えてもらっているんだと思う。
あの日から2年、確実に彼女は衰えている。
お代はツケで。
彼女は珈琲が大好きだ。珈琲の香りに癒されるらしい。
だから、施設入所前に珈琲を提供してもらえるかどうか確認しておいた。
「持ち込んでもらえれば、提供します」
とのことだったので、ドリップ珈琲を預けている。
本当は、スティックコーヒーがスタッフさん的にはいいのだろうけれど、そこは気がきかないふりをして、あえてドリップコーヒーを持ち込んでいる。
スタッフさん、お手数をおかけして、ごめんなさい。
通常は、面会室での面会のみで、居室へは入れないのだけれど、衣替えのために、特別に居室にいれてもらったときのこと。
作業が済んだあと、彼女は
「いっしょに珈琲を飲もう」
と食堂に誘ってきた。
「この子の分もいれてやって。お代はツケで」
とスタッフさんに、にこやかに注文をする。
苦笑いされながら、わたしの分まで珈琲をいれてもらった。
「特別サービス」だ。
まあ、この珈琲はわたしが持ち込んでるんだけどね、と思いつつ珈琲をいただく。
こんな風にゆっくり珈琲を飲みながら、面会もできるといいのに。
きっと彼女もこんな風に遊びに来てもらいたいと思っているだろうに。
ゆっくりと珈琲を味わいながら、そう思った。
健康マニア
差し入れの珈琲を持って行ったときのこと
「『おいし~い』っていつも喜んでいらっしゃいますよ。」
とスタッフの方。
いつも手間をかけて、いれてもらって、ありがとうございます!
そんな毎日だったのに、
「朝は、ココアにしようかと思っている」
といいだした。
別に買ってくるのはいいのだけれど、その理由が
「ココアが健康にいいから」
って。
健康マニア健在!
「いとこが98歳で亡くなったから、あと3年は…」
というので、
「98まで生きたら、100まであとちょっとだよ」
と声をかけたが、返事はなし。
耳が遠くて、聞こえていないんだろうけど、会話はいつも一方的。
推し活
デイサービスで定期購入している週刊誌を本好きの彼女の前に、
「どさっと置いてくれる」
と本人は嬉しそうに話をしてくれていた。
だけど、スタッフさんから、
「みんなで読む雑誌なので、『順番ね』といってもなかなか待てないみたいで・・」
と困った様子で報告を受ける2年目の夏。
「どんな雑誌ですか?」
と聞き込み開始。
すると、どうやら雅子さまの記事に執着している模様。
そこで、皇室関係の雑誌や週刊誌を買って、面会時に持っていった。
「うわぁ」
と声をあげ、目を輝かせて、表紙の雅子さまに釘付けになっている。
そんなに好きだったのか!
初耳だったわ。
その様子をみていたスタッフさんが、
「推し活だね」
って。
ほんとそうだね。
スタッフさんと顔を見合わせて、思わず微笑んでしまった。
それから、半年ほどして
「新聞に興味がなくなったみたいで、読まれないんですよ。ずっと破っているんです。解約されますか?」
とスタッフさんにいわれた。
「解約するのはいいけれど、自分の新聞がなくなったら、癇癪を起しませんか?」
と聞くと、
「古新聞を渡すので大丈夫ですよ。日付も気にしていらっしゃいません」
といわれたので、新聞は解約することにした。
古新聞をあてがってくださる配慮には感謝しかない。
「新刊の皇室雑誌を予約したので、まもなく届くと思います。そのときの様子をみていてもらえませんか」
とお願いしておいた。
結果として
「届いたときは、喜んでめくっていらしゃったけれど、1回見たら、棚に片づけていらっしゃいましたよ」
とのこと。
やはりかなり興味がなくなっている様子。
少し寂しい。
「やりたいことはいっぱいあるのに、できない」
と嘆く彼女の言葉が切なく胸に突き刺さる。
わたしにできることは何だろう。
彼女が穏やかに過ごせるにはどうしたらいいだろう。
そんなことを思う春の日。
算数テスト
100点のテスト答案がバッグにはいっていた。
算数のキレは衰えていないらしい。
「あたまは、まだ大丈夫」と95歳になった彼女はいう。
わたしの方がやばいかも・・。
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