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[18]【宮本さんのやさしさが、入ってきた朝】人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。-新聞配達編-


■この物語は筆者の実体験をもとに執筆しています。
・正直、極限まで恥をさらしています。
・僕が生きてきた記録(ノンフィクション)です。
・ほぼ毎日更新を目指しています。


【宮本さんのやさしさが、入ってきた朝】


午前1時。

コーヒーをいれる。

湯を注ぐ。
立ちのぼる湯気を見ていると、
少し気持ちが落ち着いた。

まだ不安はある。

昨日うまくいったからといって、
今日もうまくいく保証なんてない。

新聞配達は、
一日うまくいっただけで
安心できる仕事じゃなかった。

地図を開く。

契約の切れた家。
新しい家。
曲がる角。
暗い路地。
表札の位置。

ひとつずつ確認する。

前みたいな混乱はない。
でも、心の奥では
まだ何かが身構えていた。

またミスしたらどうしよう。
また転んだらどうしよう。

考え出すと止まらない。

コーヒーを一口飲む。

相変わらず、
うまいのかどうかは
よく分からない。

それでも、
前みたいに
ただ熱いだけじゃなかった。

少し苦かった。
カフェインが
入ってくるのを感じた。

その苦さに、
現実が戻ってきた気がした。

販売所へ向かう。

まだ暗い。
空気は冷たい。
眠気も残っている。

皆、いつものようにいた。
いつものように準備している。

その「いつも」の中に、
自分も混ざっている。

それが少し不思議だった。

以前の僕は、
ここにいても
どこか浮いている気がしていた。

でも今朝は、
ほんの少し違った。

宮本さんが、
僕の顔を見て言った。

「どうや、少しは慣れたか?」

「いや、まだ怖いです。」

正直にそう言うと、
宮本さんは笑った。

「そりゃそうやろ。
そんなすぐ平気になるか。」

笑いながら言うその言い方が、
妙にありがたかった。

無理に励ますでもなく、

根性論でもなく、

ただ、


そのまま受け止める感じだった。


配達は、
その朝も無事に終わった。

戻ってきてからも、
胸の奥は少しざわついていたけど、
前みたいなパニックではなかった。

終わった___。

ちゃんと終われた。

それだけで十分だった。

バイクを止めて、
荷物を片付けていると、
宮本さんが
ビニール袋を差し出してきた。

「これ、持って帰れ。」

見ると、
おかずが入っていた。

「え?」

「家で多めに作ったやつ。
一人やと、ちゃんと食わんやろ。」

一瞬、
どう返していいか分からなかった。

ありがとうございます、
でいいはずなのに、
その一言がすぐに出てこない。

こういう親切に、
しばらく慣れていなかった。

逃げて。
失って。
人に迷惑をかけて。

そんな自分が、
何かをもらっていいのか、
よく分からなかった。

宮本さんが言う。

「遠慮すんな。
食える時にちゃんと食っとけ」

「___ありがとうございます。」

ようやくそれだけ言えた。

宮本さんは、
たいしたことでもないみたいに
手をひらひらさせた。

でも、
僕にはたいしたことだった。

部屋に戻る。

もらったおかずを机に置く。

人はもっと大きなもので
立ち直るんだと思っていた。

金とか。
成功とか。
名誉とか。
そういうもので
人は持ち直すんだと思っていた。

でも実際は違った。

転ばなかった朝。
誤配しなかった朝。
「慣れたか」と聞いてくれる人。
「ちゃんと食っとけ」と
おかずを渡してくれる人。

そういう小さなことでしか、
人は立ち直れない時がある。

派手なものじゃない。
でも、それで十分だった。

ふたを開ける。

ベタだけど「肉じゃが」だった

湯気はもう立っていないのに、
なぜかあたたかく見えた。

いつ以来の手料理だろう。

コーヒーをいれる。

湯を注ぐ。
カップを持つ。

一口飲む。

まだ、
はっきりとうまいとは思えない。

でも、
ちゃんと苦かった。
カフェインも感じる。

ああ、
今日は少しだけ
生きてる感じがする___。

そう思いながら、
僕は肉じゃがを
ゆっくり口に運んだ。

うまく飲み込めなかった。

気づいたら、
涙が出ていた___。



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4/23更新



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「人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。」

【第一章・失踪編】
目次から読む
1話から読む

【第二章・新聞配達編】
目次から読む
1話から読む


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