(25)【動いたのは、ほんの少し】人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。-失踪編-
■この物語は筆者の実体験をもとに執筆しています。
・正直、極限まで恥をさらしてます。
・僕が生きてきた記録(ノンフィクション)です。
・ほぼ毎日更新を目指しています。
【動いたのは、ほんの少し】
現場に入る。
「水撒き、やってみ。」
松下さんの声。
「ユンボがな。コンクリート解体する時
ホコリが舞うやろ?」
「だからユンボの先の動きに合わせて
水撒くんやで。

ホースを持つ。
重い——。
水を出す。
勢いよく広がる水。
地面に当たって、跳ねる。
水でホコリを抑えている。
それを見ていた。
何も考えずに。
言われた通りに動く。
ユンボが動く。
動きに合わせて水を撒く。
それだけ。
単純な作業。
同じ動きの繰り返し。
考えなくていい。
——楽だった。
何も感じないままでも
出来る仕事。
今の自分に、ちょうどいい。
時間が過ぎていく。
どれくらい経ったか分からない。
ふと——
手に当たる水が
少しだけ冷たく感じた。
「……冷たいな。」
口に出ていた。
自分で驚いた。
感じた?
今——
一瞬だけ
"何か"があった。
でも、すぐに消えた。
また、同じ動きに戻る。
水を撒く。
ユンボが動く。
動きに合わせて水を撒く。
繰り返す。
ただ繰り返す。
昼休憩。
腰を下ろす。
缶コーヒーを開ける。
プシュッ——
音がした。
昨日と同じ。
さっきと同じ。
でも——
一口飲む。
。。。苦い。
そして、ほんの少しだけ
「。。。あぁ。」
息が漏れた。
言葉にならない何か。
ほんの少しだけ
引っかかった。
胸の奥に。
何かが、残った。
気のせいかもしれない。
でも——
さっきより
少しだけ違う。
それで、十分だった。
午後の作業が始まる。
また、水を撒く。
同じように。
同じ動きで。
ユンボが動いたら。
動きに合わせて水を撒く。
だけど——
ほんの少しだけ
現実に
戻ってきている気がした。
前よりは、マシだ。
それだけで、十分だった。
そう思えた。
初めてだった。
(第26話【また始まる】につづく)
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「人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。」
【第一章・失踪編】
→目次から読む
→第1話から読む
【第二章・新聞配達編】
→目次から読む
→第1話から読む
