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第13章(最終章)|夕日―魅惑の赤、覚醒の赤― 【#創作大賞2026 #ホラー小説部門 】応募作品。全13章・完。


【 創作大賞2026 】【 ホラー小説部門 】小説『夕日』第13章・最終章『覚醒の赤』―久保田の椅子― の章タイトル画像

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ナマハゲの日課、ジョギング。
吉田の情報だ。
頼るものがそれしかない。

その時を狙う。
朝だ。
鉄パイプは目立つ。
別のものを選ぶ。

「たまごサンドとコーヒーを頼む。」

「うん、いいよ。すぐに作るね。」

「食ったらすぐに向かう。
お前はここでじっとしてろ。」

カローラワゴンのエンジンに火を入れ、
ナマハゲの自宅に向かった。

エンジン音が安定している。

日が昇る頃だ。
そろそろ出てくるか。

待つ。
出てきた。
後ろから近づく。

「おはようございます。」

ナマハゲが振り返った。
朝の白い光が、
鋭く顔の横を抜けた。

俺の手元で、朝日が反射した。

朝の光。

輝いている。

何をしたのか。

よく覚えていない。

滑らかに
滑り込むように入ったこと。
数を数えたこと。
それだけは覚えている。

1、
2、
3、
4、
5、

5つ数えるまで、動かなかった。
抱きかかえるようにして、動かなかった。
ナマハゲの身体から力が抜ける。
それを全身で受け止める。

ナマハゲをそっと置いた。

朝日が昇っていく。
周りには誰もいない。

朝日が眩しい。
サングラスを買うのを忘れていた。

そう思った瞬間、電話が鳴った。

「見事だよ。金を入れておく。
君ならいつかやる。そう思っていたよ。」

久保田だった。
一方的に切られた。

「次はお前だ。」
小さくつぶやいた。

カローラワゴンのエンジンに
火を入れる。

エンジン音。安定している。
俺の呼吸も落ち着いている。

ステアリングを握る手。
少し付いた血。
赤い。

乾きはじめて、
黒くなりかけている。

部屋に帰ると
ドアポストに金が入っていた。

金など、もう、どうでもいい。
ドアポストに入れたままにした。

めぐみが話しかけてくる。
「ありがとう。守ってくれて。」

「やられる前にやった。
それだけのことだ。」

「なにか食べる?」

「たまごサンド、あるんだろ?」

「うん。もちろん。」

たまごサンドを食べ、
コーヒーを飲んだ。

うまい。
とてつもなくうまい。

まただ。
たまごサンドを食べたあとの
急激な睡魔。

今日は特に強い。
強烈に眠い。
耐えられない。

二人分の命の重みが、
腕に残っている。

重い。
身体が重い。

これだけは、めぐみに言わないと。

「外出はやめておけ。」

やっとの思いで言えた。

疲労感がすごい。
信じられないほどの睡魔が襲う。

深い眠りの底で、
めぐみの声が聞こえた気がした。

俺に話しかけているのか。

違う。
誰かと話している。

「はい。眠りました。」

眠った?
俺のことか?

「大丈夫です。起きません。」

起きなければ。
考えとは逆に、身体が沈んでいく。

ちぎれる意識の中、聞こえたのは
「掃除屋さん」と「久保田さん」だった。
最後に、つぶやくように

「ごめんね。武井君。」

と聞こえたような気がした。
夢か?分からなくなっていた。


目を覚ましたときには、
どのくらい眠ったのか
分からなかった。

夢だったのかも分からない。

めぐみがいない。

部屋が静かすぎる。
時計を見る。
15時。

気のせいか。
ライターの位置、灰皿の位置が違う。
俺の置き方ではない。
わずかに、ほんのわずかに。

外から誰かの話し声が聞こえる。
めぐみの声か?

早く久保田のところに行かなければ。

煙草を吸う。
階段を上ってくる足音。

ドアが開く。

めぐみだ。

「よく眠っていたし、
ご飯の材料買いに行ってたの。」

「まだあぶねぇぞ。久保田が残ってる。」

「え?久保田さん?」

「あぁ、命令されてたんだろ?
借金の件もある。
久保田のせいでこうなった。」

「今から?」

「やられる前に、やる。」

転がっていた鉄パイプを拾う。

ナマハゲの連れの男の血を
吸っている。
乾いて黒くなっている。

「俺が帰るまで、ここで待ってろ。
お前は俺が守る。」

カローラワゴンのエンジンに
火を入れる。

回転数が今までになく高い。

途中で眼鏡屋に寄って
サングラスを買った。
違いが分からない。
一番高いものにした。

最初に来たきりだ。
小さいが、きれいなビル。

カローラワゴン。
エンジンが安定してきた。
呼吸を合わせるように
俺の鼓動も安定してきた。

ドアに鍵がかかっていても、ぶち壊す。
決めていた。

初めて来た時と同じで
鍵は開いていた。

窓越しに夕日が見える。
燃えている。

真っ赤だ。

夕日と俺の間に久保田。
夕日が見えない。邪魔だ。

久保田が先に口を開いた。

「ここに来るなんて珍しいな。」

「邪魔なんだよ。
見えねぇ。見えねぇよ。」

「物騒なものを持ってるな。渡せ。
掃除屋にキレイに処分させる。
あの二人も掃除させた。
表に出ることは、ない。」

逆光で久保田の表情が読めない。

「いつもどおりの段取りだな。」

「仕事は段取りだよ。武井君。
私の段取りで全ては成立している。
鹿島のトラックも私の手配だ。
勘違いするな。君の力では、ない。」

「流石の余裕だな。
俺はまだ、勢いしか知らねぇ。」

「その勢いが
君の魅力だと上にも伝えてある。
よく考えろ。」

「そこにいられるとよ。
きれいな夕日が見えねぇぜ。
だから、どいてもらう。」

「冷静になれ。
私を殺せば、君も女も終わりだ。」
「提案がある。君がここに座る。
私はもうひとつ上にいく。
悪い話じゃないだろう?」

早口になっている。

久保田の右手が
机の引き出しに伸びる。

逆光。だからこそ、しっかりと見える。

飛びかかる。

赤。夕日の赤。
久保田だけじゃない。
俺まで赤に染めている。

表情が分かる距離。
怯えている。

いつもの余裕はない。
何か言おうとしているのか、
唇が震えている。

夕日で真っ赤に染まる久保田。
目を見開いている。

めぐみが言った「きれい。」の意味。
俺とは意味が違う。

本当に、きれいだ。

鉄パイプを振り下ろし、
ゆっくりと、確実に数えた。

1。
久保田の額から、赤が落ちた。

3。
鈍い音がした。

5。
久保田の視線が弱くなる。

7。
段取りだけでは勝てないぜ。

11。
まだ、止まらない。

15。
ようやく腕が止まった。

計算高い、
口先だけの男が倒れている。

数えている間、犬の記憶が蘇る。
カウントと犬の鳴き声が重なった。

最後は勢いなんだよ。

数え終わったとき、
するりと手から鉄パイプが落ちた。
指をこじ開ける必要もなかった。

真っ赤だ。

夕日に照らされて真っ赤だ。

俺も、この部屋も、久保田も
真っ赤に焼かれている。

これを美しいというのだろう。

美しく、眩しい。

サングラスをかける。

俺は動かない久保田を跨ぐ。
ファイルが並んだ机と椅子がある。

頑丈そうな椅子だ。
座り心地も良さそうだ。

机の開いた引き出しから
黒い拳銃が覗いている。

久保田。命の重みはよ。
自分の手でしっかり感じないとな。

久保田の椅子に全身を預ける。
全身をしっかり支えてくれる。

ドアをノックされた。

「失礼します。掃除屋です。」

掃除屋は久保田を見た。
それから俺を見た。

掃除屋は、驚きもしていない。
何もなかったかのように、
俺に軽く頭を下げた。

「聞いています。よろしくお願いします。」

聞いてる?誰に?何を?
まだ上がいる。そういうことか。

机の上に写真立てが置いてある。
家族。久保田、家族がいたのか。

お前は守るもののために負けて
俺は守るもののために勝った。

机の上の久保田の携帯電話が
ブルブルと震えている。

出る。思わず言っていた。

「運べば、金になるぜ。」

これからは、俺の携帯だ。

「えっ、武井君?」

めぐみだ。

「終わったぜ。」

「そっか。」

「久保田さんは?」

めぐみの声が震えている。

「もう動かねぇ。」

「じゃあ」
「たまごサンド作って待ってる。」

「あぁ。コーヒーも頼む。
それから、眠くなるたまごサンドは、
もう作らなくていいからな。」

「うん。分かった。
守ってくれてありがとう。」


「これからも、私を守ってね。」


-完-




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