スクリーンタイムとADHDの関係性。-最新研究を読んで。福井大学の研究
「いつまでゲームしてるの!」
「タブレット、もうやめなさい!」
家でその言葉を、
私自身、何度言ったか
分かりません。
教員時代も、
保護者面談で
「うちの子、ゲームばかりで困っていて」
という相談を、
何度も聞いてきました。
スクリーンタイムが子どもに与える影響は、
親にとって、
教育に関わる人間にとって、
ずっと気になり続けるテーマです。
そんな中、
最近気になる論文を読みました。
福井大学の研究グループによる、
スクリーンタイムとADHD症状、
そして脳の構造の関連を扱った研究です。
今日は、
その内容と、
論文を読んで私が感じたことを、
書いてみます。
どんな研究か
『Translational Psychiatry』という学術誌に
2025年に発表された研究です。
著者は、
福井大学子どものこころの発達研究センターの
Qiulu Shou氏、山下昌俊氏、水野賀史氏。
アメリカで行われている
ABCD研究という大規模な追跡調査の
データを使っています。
9〜10歳の時点で1万人以上の子どもを対象にし、
2年後の追跡データも含めて
分析しています。
扱われているのは、
スクリーンタイム(動画視聴やゲームの時間)
ADHD症状(CBCLという質問票で測定)
脳の構造(MRIで測定した皮質の厚さや体積)
の3つの関係です。
何が分かったのか
論文の結論を、
できるだけ正確に書きます。
ひとつ。
スクリーンタイムが長い子どもは、
ADHD症状が
やや強く出る傾向が見られた。
ふたつ。
2年後の追跡でも、
最初の時点でスクリーンタイムが長かった子は、
ADHD症状が増加する傾向が見られた。
みっつ。
スクリーンタイムは、
脳のいくつかの領域の構造や
その発達と関連していた。
具体的には、
皮質の厚みの発達が小さい傾向が、
側頭極や前頭葉の一部で見られた。
よっつ。
皮質全体の体積の小ささが、
スクリーンタイムとADHD症状の関連を
部分的に媒介しているという結果が、
ベースライン時点のデータで出た。
つまり、
スクリーンタイムが長い
→ 皮質の体積が小さい
→ ADHD症状が出やすい
という経路の存在が、
データの上では支持された、
ということです。
ただし、
2年後のADHD症状の変化を
脳の構造の変化が媒介する、
という関係については、
今回の分析では
有意な結果は得られませんでした。
ここで誤解してはいけないこと
ここからが、
私が一番強調したいところです。
まず、
この研究は因果関係を示したものでは
ありません。
論文の中でも、
「causality could not be established(因果関係は確立できない)」と
明記されています。
スクリーンタイムが
脳の発達を阻害する、と
言い切れる研究ではない。
逆の可能性、
つまりADHD傾向のある子のほうが
スクリーンに惹かれやすい、
という解釈も成り立ちます。
そして、
効果量が小さい点も
論文自身が指摘しています。
統計的に有意な関連は出たけれど、
その大きさは限定的で、
臨床的な意味づけは
慎重に行う必要がある。
これも論文に書かれていることです。
つまり、
「スクリーンを減らせばADHDが治る」とか
「スクリーンが脳を壊す」と
読み取るのは、
この論文の射程を
大きく超えています。
私が読み取ったのは、ここまで
論文を読んで、
私が受け取ったメッセージは、
こうです。
スクリーンタイムと、
ADHD症状の出方と、
脳の構造の発達には、
何らかの統計的な関連がある。
ただし、
その関連は強くないし、
何が原因で何が結果かは
分からない。
これだけです。
これ以上の意味づけは、
データの上には
書かれていません。
親としてどう受け止めるか
正直に書きます。
私は、
この論文を読んで、
明日から息子のスクリーンタイムを
極端に制限しようとは
思いませんでした。
理由は3つあります。
ひとつ。
効果量が小さく、
スクリーンを減らすことで
ADHD症状が劇的に変わるとは
読めなかったから。
ふたつ。
スクリーンを使う時間が、
うちの息子にとって
リラックスや興味の入り口になっている
側面もあると、
家庭の中で感じているから。
みっつ。
それでも、
完全に放置でいい、とも
思っていないから。
「全面禁止」も「無制限」も、
この論文からは
どちらも導けません。
「家族で話し合って、
ほどよい距離感を考える」
という、
当たり前の結論に
私は戻ってきました。
これはあくまで、
私個人の受け止め方です。
教員時代に思っていたこと
教員時代、
「ゲームばかりやって!」と
保護者にこぼされる子どもの中には、
家ではゲーム以外の楽しみ方を
知らない子も
多くいました。
スクリーンタイムを減らせ、と
親に勧めるのは簡単ですが、
それで空いた時間を
何で埋めるかが、
本当の問題です。
ゲームを取り上げた結果、
何もすることがなくなって、
家族とのいざこざが
増えてしまった家庭も、
何件か見てきました。
「スクリーンが悪い」と
単純化してしまうと、
家族の関係そのものを
こじらせてしまうことがある。
これは現場で
何度か見てきた光景です。
知っておく、ということ
最後に、
ひとつだけ伝えたいことがあります。
今回のような研究があったとしても、
それは「正解」ではありません。
知っておくと、
何かを決めるときの
材料になる、
というだけのものです。
何かしらの関連がある。
でも、因果は分からない。
効果も限定的かもしれない。
その曖昧さの中で、
それぞれの家庭が、
それぞれの子どもに合った
判断をしていくしかない。
「ゲームをやめろ」も、
「好きにさせていい」も、
たぶん、
どちらも正解ではありません。
子どもをよく見て、
家族で話して、
そのつど少しずつ調整していく。
そういう
泥臭い向き合い方しか、
結局は残らないのだと、
私は思っています。
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