空飛ぶファン付きジャケット





「空飛ぶファン付きジャケット」
夏の渋谷、スクランブル交差点。慎一は自信満々にジャケットのスイッチを入れた。
「よし、そろそろスイッチオンじゃな!」
ブオオオォン。背中の二つのファンが唸りを上げ、生ぬるい風が服の中を駆け巡る。
「おお、涼しい涼しい!これ着てったら今どきっぽくてカッコいいじゃろ?」
得意げに両手を広げる父。だが隣を歩く陽菜は、その背中を見て眉をひそめた。
「……え?パパ、なんか背中膨らんでない?」
「ははは、そんなわけ……」
カバーーン。
言い終わる前に、ジャケットは風船のように膨れ上がった。次の瞬間、慎一のスニーカーがアスファルトから静かに離れる。
「あれ、地面が……遠いような」
「た、助けて」
しかし交差点の人々がまず取り出したのは、手ではなくスマホだった。「浮いてる……!」「これ配信じゃないの?」——助けることより、撮影の方が大事らしい。
「うわわわっ!?」
風にさらわれた父は、鳩たちに混じってぐんぐん青空へ上昇していく。
「陽菜ぇぇぇ!!」
交差点の真ん中で、娘は数十人の視線を一身に浴びていた。シーン、と静まり返る空気。額に汗が伝う。
(他人のフリ、他人のフリ……)
ズリ、ズリ、とローファーが後ずさる。人混みがサァァァと引いていく。
「ま、帰ろう」
夕暮れの空。オレンジに染まった雲の間を、慎一は今も飛んでいた。周りをカラスが「アホー、アホー」と鳴きながら旋回している。
その手には、小さなリボンのついた包み。
「……今日、誕生日プレゼント渡せなかったな」
小さな声が、夕焼けに溶けていった。


昨日イオンで買ったヨシタケシンスケさんの本。
クスッと笑えて,そうそうと頷ける、エッセイとイラストがたくさんつまっています。
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