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なぜ人は、店ごとに味の違うおぐらのチキン南蛮をうれしがるのか

チキン南蛮は、いまや全国どこでも食える。それでもぼくは、宮崎のおぐらが一番だと思っている。本店、瀬頭、延岡——店ごとに味が違う。それが面白い。都城のあと青島へ向かう途中、宮崎市の店に寄った。相変わらずうまかった。ただ、テーブル横の人形が、じっとこっちを見ていたのである。


チキン南蛮を食った。

いまや全国どこでも食える料理になった。コンビニにもある。冷凍にもある。それでもぼくは、宮崎のおぐらが一番だと、かたくなに思っているのであった。有名人もずいぶん食いに来ているらしい。店の壁いっぱいに、よくわからないサインの色紙がびっしり貼ってあった。

おもしろいのは、おぐらは店によって味が違うということである。

吉野家の牛丼は、天神で食っても延岡で食ってもだいたい同じ味なのであった。マクドナルドのハンバーガーもそうである。どこで食っても、判で押したように同じ味がする。ロスでも食ったが、日本と同じ味であった。それはそれで安心するのだが、なんというか、旅をしている気がしないのである。

その点おぐらは違う。

ネットを漁っていたら、こんな比較が出てきた。あくまでネットで拾った話なので確かではないのだが、宮崎市中心部の本店は、甘酢が控えめでタルタルがまろやかな「バランス派」なのだそうだ。瀬頭の店は、もっと甘くて脂のパンチがある「こってり派」。そして延岡の出北の店は、ムネ肉とモモ肉が選べて、味付けはしっかりめの「アレンジ派」なのだという。

これはいいではないか。

今日は本店、来週は瀬頭、再来週は延岡、というふうに選べるのである。同じチキン南蛮で、こういう楽しみ方ができる料理というものは、世界中を探してもそうはないのではないかと思った。

ぼくはこの日、都城を観光したあと、青島のほうへ向かう予定だった。山の中から海っぺりまで、いっきに移動する日だったのである。ルート上に宮崎市瀬頭の店があった。山道をさんざん運転したあとで、食事の店選びにまで余計な判断を増やしたくなかった、というのが正直なところであった。

店に入る。

ちょっと前までは、かわいいウエイトレスさんが注文を取りに来たものだった。それが今はタブレットなのである。TECとかいうメーカーの黒い機械が、テーブルにでんと鎮座していて、「いらっしゃいませ!画面タッチで使用できます」と、こちらが頼みもしないのに勝手にしゃべるのであった。

ぼくは、人差し指で、チキン南蛮(ライス付)一四〇〇円、を押した。

念のため言っておくが、料理を運んでくるのは、ちゃんとウエイトレスさんである。注文を取るのだけが機械になったのであった。それでもなんだか、味気ない。これがこの先ロボットが運んでくるようになったら、いよいよ味気ないし、ただでさえ働き口の少ない宮崎にとって、あまりよくない話なのではないか、とぼくは思うのである。

機械にできることは機械に、というのは正論なのだろう。正論なのだろうが、正論というものはたいてい、どこか味気ないのであった。

チキン南蛮が来た。

衣をたっぷりまとったごっつい胸肉が、皿の上で湯気を立てている。その横に、たっぷりすぎるほどのタルタルソースが、白い丘のようにこんもりと盛られていた。ナポリタンが添えてある。なぜチキン南蛮にナポリタンなのかは永遠の謎なのだが、これがまた合うのである。

ひと口かじる。衣はサクッと音を立て、そのあとから甘酢がじゅわっとしみ出してくる。冷たいタルタルが熱い肉とぶつかって、口の中で妙に幸福な温度差が生まれる。うまい。相変わらず、まったくうまいのであった。

ところが、である。

ここで、ひとつ問題があった。テーブルのすぐ横に、人形が立っていたのである。赤い上着にちょうネクタイ、山高帽をかぶった、ずんぐりした西洋人の木彫りの人形であった。これがにやにや笑いながら、こちらをじっと見ているのである。


去年、手術をして以来、ぼくはどうも霊感とやらが強くなったらしい。気のせいかもしれない。気のせいかもしれないが、こういう古い人形に正面からじっと見つめられながら飯を食うというのは、なんとも尻の穴がきゅっと締まる心地がするのであった。

そこでぼくは、人形を視界に入れないよう、皿のほうだけを見て、黙々とチキン南蛮を食ったのである。

うまかった。

人形に見つめられながら、それでもうまいと感じてしまうのだから、おぐらのチキン南蛮というのはたいしたものなのであった。昭和三十四年から守り続けた味、とテーブル横のメニューにあった。ぼくが生まれたころから、この味はあったというわけである。

ウエイトレスさんが、まだ料理を運んでいる店で、よかった。

それだけは、変わらないでいてほしいと思った一日であった。

読んでくれてありがとう。また、こういう、どこかへ出かけた話を書く予定である。




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