日本一のスタバと、いるはずのない乙姫様の話(スターバックス×霧島酒造)
ある人のインスタを見ていたら、日本一大きなスタバができたという。
しかも場所が、ぼくが若いころに撮影を担当した霧島酒造の敷地内だというではないか。スタバは宮崎県都城市にある。
宮崎は、ぼくのふるさとなのだ。
これは行かねばならぬ、と思った。
こういうときの「行かねばならぬ」というやつは、たいてい理屈ではないのであった。ふるさとと、若いころのカメラの仕事と、日本一、という三つがそろってしまったら、もう足が勝手に都城のほうを向くのである。

だけど、最初にあやまっておく。
お店も、水槽も、そんなに大きくはなかったです。
すまん。すまん。



霧島さんにもスタバさんにも、ぼくはさんざんお世話になっている身である。だからほんとうは、めいっぱい持ち上げて、よいしょのひとつもして書きたいのだ。だがウソは書けない。感じたままを書くしかないのである。これがエッセイというものの、いちばん厄介で、いちばん大事なところなのであった。
水槽は、以前、島根県松江市で活き造りを出してくれる店に入ったとき、そこにあった生簀(いけす)くらいの大きさだった。
立派は立派である。錦鯉がゆうゆうと泳いでいて、まっ白なやつ、紅白のやつ、黒のまだらの大物まで、なかなかいい面構えをしている。

ただ、期待値というやつがいけなかった。
「日本一」という四文字を頭にこびりつかせたまま現地に立つと、目の前の水槽がどうにも小さく見えてしまうのである。これはもう、水槽が悪いのではない。ぼくの頭の中がふくらみすぎたのが悪いのであった。
なにしろぼくは、行く前から勝手に想像をふくらませていた。二十五メートルプールくらいの大水槽に、ウミガメだのタコだのタイだのが、竜宮城のようにゆらゆら舞っている。そのまんなかに、もしや美しい乙姫様が一人くらいいたりして……などと、いい歳をしたおっさんが、まったくバカな絵を頭の中に描いていたのである。
いるわけがない。

スタバに乙姫はいない。いるのは錦鯉と、隈研吾さんのこしらえた竹の天井と、コーヒーの香りだけなのであった。
それでも、サンドイッチはうまかった。

ハムと野菜のはさまったやつを、こんがり焼いた皮のところからかじると、これがちゃんとうまい。中はもちもちして、はじっこはこうばしい。コーヒーもうまい。うまいものはうまいと、ちゃんと書いておく。

その日は大雨だった。
傘の先から雨のしずくがぽたぽた落ちて、ガラス張りの植物園が、灰色の空の下でしっとり濡れていた。これはこれで悪くない景色だったが、やはり晴れた日のあの場所も見てみたい。だからまた行こうと思っている。
ひとつだけ言わせてもらう。
スタッフの私語が、ちょっと多いなあ、と感じた。だがこれも、考えようによっては、宮崎の人間のあの人なつっこさ、垣根の低さの裏返しなのかもしれない。よそよそしいよりは、ずっといい。まあ、そういうものなのであった。
ふるさとの土の上に、竹の屋根と、錦鯉と、コーヒーがある。
乙姫はいなかったが、それはそれで、悪くない一日だったのである。
宮崎に旅をしたらぜひ寄ってもらいたいなあ、と思いつつ話はおわるのだ。

