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団地綺譚 葬送と再生の境界 第2話 蘇る銀狼

#創作大賞2026  
#ファンタジー小説部門

◇小説の紹介
 昭和40年代、子供の頃に過ごした団地とその周辺を舞台に、猫や車、時代のガジェットたちの記憶を織り交ぜながら、ファンタジー小説として紡いでいきます。どうぞお付き合いください。

あらすじ、目次、登場人物紹介はこちら

池鯉駅の駐車場で、愛車を受け取る。
駐車場の一番奥にシートがかかった一台がある。

シートに埃は溜まっていない。
ゆっくりとシートを外す。現れる旧車のオープンカー。

シルバーのユーノスロードスター、NA8。

実家に眠っていた二十年ものだ。
無理を言って預かってもらっていた。

この葬儀の間に、しっかりと整備した。車検も取り直したし、部品も交換、すっかり大丈夫だ。

チノパンのポケットから、古びたキーを取り出す。
ユーノスのマークが鈍く光っている。

助手席に回りドアをゆっくり開けて、大きなかばんを放り込む。
そうこいつには大きなカバンを飲み込むトランクはない。

運転席に回って、ドアを開けて体を滑り込ませる。
ちょっと車内を見渡して、マツダスピードのシフトノブを握って、目をつぶる。

ようやく乗れるな。銀狼。

こいつの名前だ。狼ってのは子供っぽいが、しなやかな走りっぷりは、自分としては立派な狼だと思ってる。

キーを差し込み、イグニッションをひねる。

ブロロロロ……

銀狼が、ゆっくりと目を覚ます。

鈍い振動と共にシルバーの筐体がゆっくり滑り出す。

「いい音だ」

腕時計を見ると16時過ぎだ。

「まだ時間があるな、事務所によって行こう」

私は、ギアを2速に入れて、ゆっくり交差点を曲がる。

ちょっとライトを点けていくか。

銀狼は目を開けると、ちょっとユーモラスな顔になる。

「これでいいんだよ」

最近の車は、妙に鋭い顔をしている。
それをみるたびに、こいつの丸い目が恋しくなる。

駅前から、ちょっと考えて左折して幹線1号へ出る。

お土産買い忘れちゃった。
あれを買っていこう。

池鯉市といえば、太あんまきである。
幹線1号、通称幹1を走り、太あんまきの富士田屋本店によるか。

太あんまきとは、薄焼きの生地であんを巻いた和菓子だ。池鯉名物で、名前の通り太い。それだけだが、これが旨い。

考えてみれば、地元のものでお土産とはこれいかにだが、本人が食いたいんだから仕方がない。N鉄に乗る前に買えばよかったな。

富士田屋では好物の揚げあんまきが売り切れだった。
前日の売れ残りを揚げているという都市伝説があるが、子供の頃よく食べた。

団地へと向かう、東海通りを東へ向かう。池鯉市は、もう勢いを失った地方の街だった。

農協の角を曲がり、まっすぐな直線となる。

少し、いたずら心でアクセルを踏み込む。
銀狼は夕闇の中、翔けるように疾走する。

バックミラーに、光が映った。
妙に低い車高。爆音のマフラー。ヘッドライトが青白い。 プリウスだ。なぜかプリウスだ。

来るか。

ギアを落として、アクセルを踏み込む。銀狼が唸る。 並んだ瞬間、プリウスは赤信号を無視して交差点へ飛び込んだ。
銀狼は止まる。

青白いライトは、交差点の直前で、角の駐車場をショートカットして暗闇へ消えた。 運転席と助手席、異邦の顔立ちが二つ、こちらを一瞥して笑った気がした。

追えるわけがない。というより、追う気にもなれない。 あれは銀狼の走る道じゃない。

——まあいい。

ふいに、黒い影が車の前を横切った。

「——っ!」

ブレーキを強く踏み込む。

タイヤが悲鳴を上げる。

ヘッドライトの光の中で、1匹の猫がこちらを見ていた。

黄色い目。

じっと、逃げない。

その足元だけが、白い。

……白足袋だ。

次の瞬間、音もなく茂みに消えた。

「黒猫だ、不吉な・・・」

「でもまてよ、今の猫、白足袋でしっぽが短い」

ジャパニーズボブテイル・・・
日本猫特有の曲がったしっぽを持つ野良猫だった。

トムに似ている気がした。

昔、飼っていた猫だ。

気がつくと、もう実家の近くだった。

消えたか、トム・・・

——両親と同じように。

戌渡川に掛かる団地橋を渡り進む。
事務所は、団地の角にある。

もと派出所だった場所だ。

——誰かを、見張るためのように。

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