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団地綺譚 葬送と再生の境界 第1話 ニキシー管と巨大な影

#創作大賞2026  
#ファンタジー小説部門

ニキシー管の速度計が、静かに脈打っている。

その数字だけが、生き物みたいだった。

ここは逢智県を走る、赤いN鉄特急ビューカーの中。役所での手続きを終え、私は故郷へ向かっている。

赤いビューカーは、田んぼの真ん中を進む。
稲が植えられたばかりで、ところどころを光の煌めきが列車を追走する。

「N鉄の誇るビューカーか
 いつものマイクロスカイと違い趣ある車両だよなあ。」

ずいぶん懐かしい。
学生のころ通学でよく乗ってた。

乗客はまばらだが、この地域特有の異邦の顔立ちの乗客がちらほら。

「乗客の顔ぶれは、だいぶバラエティに富んでるな。」

私は、葬儀から続く後始末の疲れからか、うとうとと荷物を抱えて、座席に沈み込む。

ふうっと、大きなため息をつく。

「どうして、こういうことになっちまったのかな・・・」

家族を置いて、故郷に単身赴任するのである。

「全く、こんなタイミングで・・・」

大太課長の言葉が反芻する。

「3年だ、3年・・・辛抱だよ、わかってるよね、キミ」

今どき、公共工事欲しさに、出向させられることになるとは・・・

建築の仕事も十五年になる。

新たな配属は、団地の再生事業だ。

一度は夢見たプロジェクトだ。
それなのに、不安の方が先に立つ。

走行音に、重いヒューンという音が交じり
思わず目が覚める。

ニキシー管の数字は安定している。

「おっと、こんなところまで来てたか・・・」

団地のそばに、列車は近づいていた。
夕日を背にして、白く四角い群造形がうかびあがる。

五階建ての白い団地は逆光で、浮かび上がったスカイラインと
空の境界がぼんやりとゆがむ。

「なんだろう、人影みたいにみえる・・・」

団地の奥の空に、何かがいる。

最初は、雲だと思った。

だが、それはゆっくりと形を変えた。
人のような、影。

——いや、人にしては、大きすぎる。

「大太課長・・・?」

人影の顔立ちが見慣れた顔に見えた。
あのさえない課長かと思ったが、そんなはずがない。
第一、サイズが違う。

巨人は、ゆっくりと両手をまわす。
何度もまわす。
ちょうど、団地の高さを払うように。

それはいやというほどみせつけられた大太課長の
ゴルフスイングの様だった・・・。

「え、まさかな・・・」

ヒューンという音と共に、風に振り払われたのか、巨人の影はぼんやりとし、そして見えなくなった。

ニキシー管の数字は、ゆっくりと減っていく。

現実に引き戻される。

池鯉駅に近づく車両の中で、私は目を閉じる。

さっきの影のことは、考えないようにした。


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