団地綺譚 葬送と再生の境界 第5話 社宅はポイントハウス
◇小説の紹介
昭和40年代、子供の頃に過ごした団地とその周辺を舞台に、猫や車、時代のガジェットたちの記憶を織り交ぜながら、ファンタジー小説として紡いでいきます。どうぞお付き合いください。
「寝れなかったって?なんでじゃ?」
大太課長のびっくりした顔と
酒臭い息で、少し目が覚めた。
結局一晩中、銀狼で団地を周回していたのだ。
「団地の中に社宅の空きがある。ほれ、鍵。」
「ほなら社宅に行きながら
ゆっくり団地の現状を見て来な
もう今日は上がっていいぞい」
富江は夜更かしでもしたのか
机に座って、眠そうにコックリしてる。
私は項垂れて銀狼に戻った。
眠気防止に屋根は空けたままだ。
今日は社宅で寝よう。
キーを捻ると、草むらがガサガサっとして
銀狼に、あの黒猫が飛び乗ってきた。
こいつはトムだ。
もう自分の中でトムということにしてしまってる。
トムは助手席で、あくびをして丸くなった。
みると白足袋が黒く汚れてる。エンジンオイル舐めたのか?
お前も昨夜は、夜更かしだったものな。
なーお
社宅は塔状のポイントハウスというやつだ。
ポイントハウスは階段が一つで、1フロア2住戸の5階建てだ。
35号棟の最上階が空いているらしい。
35号棟はグラウンドに面した角地に建っている。
空室に住まわせるとは、やってることは
地上げ屋じゃないか、全く。
昨夜は異邦人たちのストリートバーベキューの迫力で、外周道路から
入れなかった銀狼だが、今日はスムーズに行けるだろう。
坂を登って、右折する。
団地内は一方通行のため、ぐるっと回って右折する。
正面に高いフェンスのあるグラウンドがある。
ここで昔、盆踊りをやっていた。
赤い照明に夜空が染まり、ずいぶんな賑わいだった。
あの光景は、もう戻らない。
グラウンドとの三叉路の右側に建つポイントハウスが35号棟だ。
そこを両側に分かれた道路沿いに12棟のポイントハウスが立ち並んでいる。ここだけ視線の抜けがいい。
銀狼を35号棟の前の駐車場に停める。
かつては芝生だったが、今はがっつり駐車場が整備されている。
こういうのが嫌なんだよ
車社会の到来というか、当時は読めてなかった。
昔は芝生だった。
海みたいに広がって、子供を受け止めていた。
今は駐車場だ。
芝生はアスファルトに塗り潰され、子供の居場所は無い・・・
言いようのない、青白い怒りが込み上げてくる。
社宅にまっすぐ向かわずに踵を変えて、団地内の惨状を暴いてみたくなった。
足元を見ると、不安そうにトムがついてきている。
そこで、そっと抱き上げて懐に入れて、道を進む。
枝分かれした小道は、放置車両で埋められていた。
近隣の盗難車両なのか、車検切れの廃車なのか、
中にはタイヤが剥ぎ取られ、ガラスが割られた車両もある。
子供なんて1人も歩いちゃいない。
いるのは幽鬼のような異邦人だけだ。
ぐるっと回って、35号棟に戻り最上階へ上がる。
エレベーターなんて無い5階建てだ。
これじゃ高齢者は住んでいられない。
私は、社宅の鍵を開けた。
そこは不自然な光に満ち溢れていた。
!!!!
そこには屋根がなく、太陽光が燦々と降り注ぐリビングがあった。
