団地綺譚 葬送と再生の境界 第11話 天上のドライバーショット
◇小説の紹介
昭和40年代、子供の頃に過ごした団地とその周辺を舞台に、猫や車、時代のガジェットたちの記憶を織り交ぜながら、ファンタジー小説として紡いでいきます。どうぞお付き合いください。
ゴルフコンペ当日、課長に連れられて1号棟へ向かう。事務所から1号棟へは池鯉団地の外周道路沿いを歩く。
いつしか白足袋の黒猫トムがついてきていた。トムは課長の脚にすりすりしてゴロゴロ言っている。
トムのやつ、社宅に潜り込んできたり神出鬼没だが、一体どこをねぐらにしてるのか?
西日を浴びてオレンジ色に染まりかけた団地小学校の校舎を横目に校庭の角を曲がる。そこの角に建つのが1号棟。3つあるうちの真ん中の階段をのぼりながら課長に問う。
「いったいどこへ行くんですか?」
「ゴルフ場に決まっとるじゃん」
「え、どこに?」
階段室を二人で上がる。そして最上階である5階にたどりつく。
課長が顎で示すのは、屋上へ上がるタラップ。
トムが先導して器用にタラップを登ってゆく。それをみて、頭の中で?いっぱいになりながら、クラブを抱えてタラップを上る。鉄の扉を開けてやると、トムはすっと飛び上がる。それをみておもむろに顔を出す。
え、え!!
団地の屋上は、一面、緑の芝生だった。
夕日に照らされて、芝が生える。
「団地の屋上が?」
「団地ゴルフ場、天上のゴルフコースじゃん!
ちゃんと18ホール整備してあるじゃん。」
照明も用意されている。
これならナイトゲームもできる。
「よし、はじめるじゃん。」
課長が白いボールを転がし、トムが追っかけて行った。
「今日は二人ですか?」
ティショットに集中したいのか。課長は、それに答えず、ティにボールをセットする。
「じゃ、今夜はよろしくぅ!」
クラブを構える課長。課長の構えは豪快だ。
いったいどこへ打つんだ!
ぐわんという風を巻き起こすようなスイング。クラブのヘッドが一瞬、巨大な塊に見える。
ガツン!
巨大なヘッドが、白いボールに叩き込まれる。思いのほか、しなやかなフォロースルー。ボールが宙を飛ぶ。
「こ、これは!」
1号棟は、団地の中にある小学校の校庭に面して建っている。宙を飛んだボールは、隣に建つ2号棟の屋根に見事に着弾した。
強烈なスイングのわりに、正確無比のショット。話しかけられても集中力が全く途切れていない。
これは手ごわい!
「さて、今度はお前さんだら。」
どうも、団地の屋根から屋根へ打つようだ。
そんなこと俺にできるのか・・・
冷や汗が背中を流れる。
はたして狙えるのか。
かなりの緊張感をいだきつつ、ティにボールを乗せて、パーシモンで打つ。
あ、しまった!
焦って振り遅れた!
しかし、それが幸いしたか、大きくスライスして、2号棟の右隣に建つ4号棟の屋根になんとか届かせる。
「なかなかやるじゃん。」
さて行こうじゃん。」
え、まさか
課長はクラブを抱えて、タラップを降り始める。
そう、そのまさかだ
打つたびに、階段を下りて、着弾した棟へ向かい、また階段とタラップで屋根に登るのだ。
「あの・・・、屋根にボールが乗らなかったら・・・」
2号棟に向かう課長に、呼びかける。
「そら、OBじゃん。」
OB アウトオブバウンズ 1打罰
まじか!それはきつい。
池ポチャはなさそうだが、屋根から屋根へ打てるものか・・・
ボールもいくつなくなることやら
課長が振り返り、足元の黒猫を指す。
「ボールはだいじょうぶ。
ほれ、こいつが探してくる。」
え、トムが?
トムは、心配ご無用という顔で見上げてくる。
課長と別れて、4号棟のタラップを登る。トムは地上で待機らしい。ちょこんと地面に座っている。屋根に上がって、2号棟を見ると、課長が振りかぶっている。
課長の第2打。14号棟の屋根に何とか乗る。見事に3オン。ここにグリーンがある。
4号棟からならなんとかなるか、4号棟の屋根で刻んでからの3打。残念、トップした!打球は上がらず、14号棟の壁にはねてボールが消える。トップとはボールの上側を叩いてしまうミスショット。地上に居たトムが追っかけていくのが見える。
なんなんだこれは・・・
これからのプレーを考えて、暗澹たる気持ちになる。
「プレ4もあるよ」
課長が14号棟の屋根から叫ぶ。プレ4とは、最初のドライバーがOBの場合、特設のティから4打目で打てるというものだ。
しかし、それ意味あるのか!?
この屋根のゴルフ場は、実は団地再生事務所の特製らしい。
俺はいったい何をやっているんだろう。
