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団地綺譚 葬送と再生の境界 第10話 パーシモンと赤いバッテン

#創作大賞2026  
#ファンタジー小説部門

◇小説の紹介
 昭和40年代、子供の頃に過ごした団地とその周辺を舞台に、猫や車、時代のガジェットたちの記憶を織り交ぜながら、ファンタジー小説として紡いでいきます。どうぞお付き合いください。

あらすじ、目次、登場人物紹介はこちら

さあ、いよいよ大太課長とゴルフコンペである。
しかしあいにくクラブがない。

単身赴任ということもあって、まだいいかなと思って持ってこなかったのだ。さて、家族に送ってもらうには時間がない。

仕方なく、というか実は確信を持って、昼休みを早めにもらい団地のゴミ捨て場を回ってみた。ゴミ捨て場での回収について、課長は手回し良く許可をとっていた。

「どうせゴミじゃん?
 いくらでもいいじゃん!」

課長のJDL弁を思い出しながら、ゴミ捨て場を回ること十数棟。いろんなものが捨ててあるが、さすがにそんなに都合よくあるわけない。っと

あ、あれは!

見覚えのある形に駆け寄ってみる。

あったあった

予想通り、ゴルフバッグとクラブがワンセット捨ててあるじゃないか!
やったやったと思わず小躍りする。

しかし、よーくみてみると
これが、かなりの年季ものだ。

パーシモン・・・

こりゃ、親父が使ってた年代物じゃないか。
一世を風靡したパーシモンだが、今使っているゴルファーは皆無だろう。

パーシモン、いわゆる柿の木のウッド。
手入れも打つのも難しい。

親父も実家の庭でよく仕事から帰って練習していた。一円玉ぐらいのスイートスポットを狙うためだろう。ゴルフネットが庭の一角にあった。

今時のドライバーでゆるゆるのショットの自分じゃ、出たとこ勝負だ。

クラブも見つかったことだし、ちょっと昼休み過ぎちゃうけど、団地のはずれにあるゴルフ練習場へ行ってみるか。

屋根を開けて銀狼の助手席にゴルフバッグを載せる。
銀狼のトランクに長尺のドライバーは入らない。

記憶をたどって、団地の外周道路を抜けて、ゴルフ練習場に向かう。あそこの路地の先だと、銀狼を路地に進める、と、あの練習場は跡形もなかった。

課長はどこで練習してるのかな。

昔、親父に連れられてきたゴルフ練習場、すぐ横に小川があって、きれいな清流でよく遊んだものだ。さらさらと流れる砂の粒、本当にきれいな小川だった。

あの小川はどうなったのかな・・・

その時、突然、大きな音がして我に返った。騒音の方を見ると、植え込みの向こうだ。ちょっと回ってのぞいてみる。

あちこちの戸建てが解体されていた。
黄色い重機が動き回っている。

年季の入った戸建てが、今まさに砂埃を上げて解体されていた。

そろそろ代替わりかもな。
うちと同じように。

同じような年ごろの子供が多かったし、親の年代も似たようなものかもしれない。そうなるといっせいに・・・建て替えも増えるよなあ。

解体現場は、黄色い重機に皆、黄色いツナギ。中肉中背の女性っぽいその姿は皆ガラ子のように見えて、思わず頭を振った。

そんなはずはない。

長い昼休みが終わり事務所へ戻る。
課長は素振りをしていて、富江はぐっすり眠りこけている。

事務所で団地再生計画の書類を確認してみる。
配置図の束に一枚、赤いバッテンが打たれた配置図があった。

みると団地周辺の住宅地にバッテンが打たれている。
え、と思いながら今日行ってきたゴルフ練習場あたりを見ると、あの解体現場がバッテンで刻印されていた。

それも団地全体で見渡すと、かなり多くの住宅がバッテンされている。

・・・みなミニ戸建てになるのかな。

ミニ戸建てか。本当によくできている。
いやデザインの話じゃない、人の生活をミニマムに飲み込んで過不足が全くない。想像するにハウスメーカーは一つのプランを、土地の形や方位に合わせて左右反転したり大量生産しているのだろう。

建築士は、個々の建築主の要望に個別に親身に応えるべき。建築とは一品生産のオーダーメイドであるべきだなんだけどな。

釈然とせず、あらためて見返そうと思って、姿勢を正すと、富江と目が合った。

いつから見ていたのか、こちらをじっと舐めるように見ている。
それは猫のようなしなやかに獲物を狙う視線だ。

ドキッとして、目をそらした。今度は課長と目が合ってしまった。

「明日からまた忙しいぞ!」

「え」

「この間の事故のせいで、滞っていたが、明日からバリバリ始まるぞ」

大型ダンプの事故処理は思ったより手間取った。
黄色い重機が崩れてしまったグラウンドの土手を丁寧に補修していた。

「ん、何が」

「周辺の戸建ての解体に決まっとるだろ。」

「おまえさんのおかげで捗っとるだら」

なんだそれ?

団地の再生なのに、戸建ての解体が、捗る・・・
事情が理解ができず、思わず素っ頓狂なことを聞いてしまう。

「え、えと明日のコンペですけど、朝何時ですか?」

課長が顔を上げる。
何を言っとるかという顔をして、富江と顔を見合わせる。

富江は言う。

「プレー開、始、は夕方に決まっ、てる。」

「ほだほだ」

課長と、富江は顔を見合わせて大笑いする。

え、ナイトゲーム。どこで。

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