第26話 初めて「付き合いたい」と思った人の話
チカノベの人生史小説。タイトルは『精神障がい、性的違和の知暖が学んだ「真実の愛」と「人生の正解」を目指す道』。
脳の障がいによる障がい特性を持つ主人公の知暖が、人生でたくさん失敗し、苦しんで、たくさん泣いて叫んで、報われない経験をして生きてきた。
そうやって、いろんな人たちと関わっていく中で「社会性」と「愛の形」と「人生の正解」について学んでいくお話。
今回は、第3章『自分に向けた「ありえない」を覆した中学校生活』から『第26話 初めて「付き合いたい」と思った人の話』です。
目次はこちらです。以前の話や次回以降の話を選んで読めます。

(作者が描いたイラスト)
初めて「付き合いたい」と思った人の話
中学校1年生の頃の冬休み。養護学校と隣接する障がい者施設に泊まりに行った。蒼生が小学1年生の頃から養護学校に通うのに利用している施設で、自分は小学校高学年の頃から、この施設を利用している。
食堂で食事を摂っていると、やたらと目が合う人がいた。茶髪に染めた長髪に、くりくりとした目、特徴的な鼻筋。とても美形な男の子がいた。
名前すら知らなかったとき、好きなアニメの主人公のセリフみたいに、その人を「イケメンさん」と言っていた。今は「イケメン」と感じる条件が異なるため「初代イケメンさん」と呼んで区別するようにしている。
彼の名前は、日高 いつきくん。県内の有名な城のあるおしゃれな地域にある市立中学校から養護学校に転校してきた人で、頭が良くて、養護学校に行くほどの知的障がいではないし、顔つきや動作、喋り方もほぼ健常者と同じようで、どこに問題があって養護学校に行っているのか、当時は全く想像がつかなかった。
泊まっている間は、いつきくんと遊んで過ごした。大きい男の子の部屋に近いテレビがある広間で、話したり、テレビで音楽鑑賞したり、ドラマを観たりして過ごした。
1年生の冬休みの宿泊利用後半には「お前気に入った」とか「施設に入所して」と言われ、とてもいい印象に思ってくれた。こんなに顔がきれいで、頭の良さそうな人に気に入ってもらえるなんて、これまで片思いの男子たちに敬遠されていた自分に春が来たんだと今は振り返る。
2年生の夏休みも、施設の宿泊利用をした。施設の男性職員と、始まったばかりの生理の話題になりそうで、気まずくなった。イケメンさんは髪型をイメチェンし、ツーブロックの短髪になり、茶髪はほとんど残っていなかったけど、顔がいいので、まだ「イケメンさん」と言える。
本当に大好きで大好きで仕方なくなった。夢中になった。出会えたことがとても嬉しくなった。毎年の夏の頭痛で、体調不良で寝込むこともあり、好きな人と遊べるのに、部屋で寝て過ごす午前中の時間。
自分が寝ている部屋の前で、言われたことがなんとなく覚えている。薄暗かったので、夜のことだったと思う。「好きだよ」と。告白の言葉ではない。確か、多弁や多動のことを指摘した上で、それを直してくれたら、ということだったような気がする。
これから話すことは、時系列順じゃないかもしれないが、障がい者施設の文化祭に行き、家族にもイケメンさんを見てもらった。学生時代は、家族に好きな人の顔を見てもらうのを、恋するたびに望んでいた。意地でも行くために、自転車で遠くの山にある施設へ行こうと思ったが、母のパートナーが車を出してくれた。
母、裕喜、母のパートナーと、施設へ行った。裕喜はイケメンさんの顔を確認するため、メガネをかけて行った。施設のイベントでは、蒼生は大好物のアイスといった食べ物を喜んで食べていた。施設の人は、母のパートナーを、親戚だと思ったのか「おじさん」と呼んでいた。
家族は、いつきくんを見て「なるほど」「ガタイいい」と言った。有名人で誰に似ているか真っ先に言った。「朝鮮の将軍」と。凛々しさは否定しなかったが、出会った当時の、茶髪の長髪で、まだ韓国の俳優風だった「イケメンさん」と誰もが納得できた頃の姿を知ってほしかった。
いつきくんが、ビンゴかくじ引きで獲得した、折り紙やプロフィール帳を「これいる?」と言われ、好きな人からのもらい物と思って「欲しい物」ではなかったけど、本当に欲しい物だったかのように受け取った。
体育館でのスポーツ競技では、他の児童がボールを投げているとき、いつきくんの「外せ、外せ」のコール。それもあってか、競技で優勝。「日高 いつきくん優勝」という掲示をガラケーで撮影し、今も画像を確認できる状態になっている。
自分は当時、一人称が「おれ」だった。裕喜も普段から自分のことを「俺」と言っていたので、真似たんだと思う。いつきくんの前で「おれ」が出てしまい、女の子っぽくないので、直そうと思った。
ある日曜日、バスに乗って、隣の市の商業施設へ行った。ヘアピンを化粧室で身につけ、店内を散策した。すると、心臓が高いところから落ちたように大きな音を鳴らした。イケメンさんがいたのである。施設の人たちと出かけていた。
自分は、いつきくんの好きなアニメのグッズを買って、渡して走って去った。このことがきっかけで、毎週日曜日のルーティンは、あのヘアピンを身につけ、商業施設に行き「イケメンさんに会えるかもしれない」と思って出かけること。
2年生の冬休みには、メール相手だった同級生の女子たちに「今年彼氏できるかもしれない」と、告白の意志を表明した。
待ちに待った施設での宿泊利用が始まり、いつきくんにサインや絵を書かせて、中学生時代のお守りとして持ち運ぶことになる紙切れを作ってもらった。
いつきくんと、コピー用紙でコミュニケーションを取り、自分は紙に「日高 いつきくんの彼女になりたい」と書いてしまった。今考えると、告白直後のいつきくんは相当びっくりして困惑していたと思う。
「えー?」とか「ガチで?」と、何度でも聞き返してきたので、自分も何度でも告白の返事を求めた。しかし、いつきくんは、過去の恋愛を打ち明けた。元ヤンキーで不登校で、そこそこな悪行をしていたことによって、見かねた大人たちに、養護学校に転校させられたのだ。しかも「いつきくんの彼女」になるのには、実技試験のようなものがあった。
いつきくんは、理系男子だった。コインが入ったプラスチックのキーホルダーのような物を差し出した。下側には溝があるものの、とても小さな金属の玉が何個もあって溝を塞ぎ、コインを出そうにも出せない状態である。そのコインを出せたら付き合えるそうだ。
10代前半の元理系の自分は、攻撃的だった過去と、乱暴で破壊神で無理やりで力加減が調節できない現在があり、力技で溝をこじ開けるも、金属の玉が少し出ただけで、コインは出なかった。彼は答え合わせとして、キーホルダーを手で回転させ、遠心力でコインを溝から出した。物理のテストをさせられたのである。知性で解くべき問題を、自分は力任せで解決しようとした。
告白の返事を何度も要求していたせいで「しつこい人は嫌い」と言われ、振られた。夜、涙を流しながら、自分がカラオケで歌ったアニメソングをリピート再生して寝落ちした。友達からのメールは「失恋」の文字。
本人は、最初から付き合うつもりはなかったんだと思う。自分は、いつきくんのタイプとことごとく違う。年上の女性が好みで、太っている人は好みではなく、自分のようなお喋りでしつこくて、お下品なことを普段から喋っている人はだめだったみたい。あるとき急に「彼女欲しい」「結婚したい」が口癖になって、振った異性の前でもこんなに配慮のない、悔しい思いをするようなことばかりを言うようになった。
イケメンさんは、養護学校を高校まで過ごし、卒業後はこっちの地元の運送会社に勤めた。オペレーターかと思ったら、まさかの配達員だった。素敵な整った表情で、各家庭をときめかせるような人になってほしいと思ったはず。勝手な想像だけど、おしゃれな街に住んでいる割には、こっちの地域に憧れがあったみたいで、こっちでひとり暮らしをしてそうだと思った。本当かどうか知らないけど。いつきくんも今はアラサーだ。僕みたいに、人生を変えた運命の相手と出会っているか、もう結ばれているかもしれない。学生時代の交友があった人、ひとりひとりの生活を想像して、置き去りにされたような気分にさせられている。
「初代イケメンさん」に恋していた、当時の自分に言ってやりたいこと。初代イケメンさんはね、出会った異性の中で確かに最初だけ最も美形だった。でもね、本当に美しい男の人は、お互いの欠点なんか気にならないし、タイプじゃない面も受け入れられるし、否定し合わないし、外見や年齢なんて関係ない。自分が気にしている内面、過去の恋愛対象に否定された見た目や障がい特性、いろんな事情も全て許容してくれる。本物の「イケメンさん」は、試験なんて出さない。スペックやタイプといった条件に囚われない。世間一般のイケメンではなくても、内面の美しさが顔に現れて、自分だけの「イケメンさん」になるんだよ。運命の相手と確信する「2代目イケメンさん」こと「2代目恋人」に出会うまで、いろんな人に恋をして、恋愛対象との人間関係や距離の詰め方を学んで「真実の愛」を知るための道を辿っていってね。
おことわり
この物語は、自分の主観と記憶を辿り、実体験をベースに綴ったノンフィクション・エッセイです。一部、プライバシー保護のために、地名や人名、団体名、家庭事情等を伏せたり書き換えたりしています。そして、歳月の経過による記憶の断片を繋ぎ合わせています。当時の心情風景としての描写が含まれることをご了承ください。
あとがき
初めて男子と交際したくて、告白した相手の話でした。でも、初代イケメンさんは最初から僕と付き合うつもりはなかったんです。
タイプじゃないから付き合えないのだと思います。初代イケメンさんも、年齢的には、今は結婚しているのかなーと思います。
僕が、第8章で、運命の人と出会ってから、本当のイケメンさんとの恋愛で「整った容姿」「条件つきの愛」ではないことに気づきました。
初代イケメンさんも、運命の人と出会って、このようなことに気づいて、いい人と結婚をしていたら嬉しいです。
どんなに酷いことを言われても、なぜだか過去の恋愛対象のことを、自分はずっと覚えていて、話題にするんだよね。今何をしているかも気になるし。
作者の近況
今、第9章と第10章の狭間(9.1章)を生きる作者の近況。主に、初代イケメンさんの創作と、最近気づいたことを交えて書いています。
初代イケメンさんをモデルにしたキャラクターがいます。自身の創作漫画「アリスの昆虫記」主人公のアリスの初代恋人、ハクアこと源 珀亜です。
「アリスの昆虫記」とは、アリスと個性豊かな仲間たちが、昆虫博士を目指して、大好きな昆虫の観察や研究をするお話です。
昆虫学を楽しく学べる漫画ですが、主要メンバーの友情と恋愛要素がメインの物語です。
アリスとハクアの出会いは、アリスが学生証を紛失し、ハクアが届けた際、お互いに一目惚れする形で、恋に落ちます。
お互いをよく知らないまま交際します。なので、お互いの趣味嗜好や好き嫌いは把握していません。
ハクアの恋愛対象の好みは、初代イケメンさんの実際の好みと合わせ、日本人です。でもなぜだかイギリス人のアリスに恋をします。
成績優秀のアリスは、昆虫研究のサークルには参加せず、恋愛に集中します。アリスは農学部、ハクアは体育教師を目指し教育学部を専攻。
実はハクアは昆虫が嫌いです。こちらも初代イケメンさんの実際の「昆虫が嫌い」という意識と合わせました。
ハクアがアリスの家へ行き、放し飼いのアオスジアゲハが逃げ出し、昆虫を飼育していることにドン引きし、アリスを振ります。
酷い振られ方をされ、アリスが落ち込んでいると、幼虫から飼育しているアオスジアゲハが慰めるようにアリスの手に乗り、立ち直ります。
ハクアはアリスが昆虫博士を目指す芸能人とは知らず、テレビを点けて、偶然アリスの昆虫番組が目に入り、初めて知りました。
アリスの好きなことを否定したことを反省して謝り、しつこく反省のメッセージを送り、復縁を迫ってきます。
でも、アリスは二度と恋はしないと決意し、ハクアからの苛烈な連絡を既読無視します。大学ですれ違っても目を合わせません。
アリスがどれだけ、ハクアとやり直す気がないか気づき、ハクアはようやく復縁を諦めます。
自分なら、まだ相手のことが好きならば、復縁はしたいです。まぁ、付き合った経験は2回しかありませんが。
少ない恋愛経験から、作者の僕が気づいたことは、本人を否定する形で振った相手とは、復縁はできません。
2代目恋人との復縁可能性について、Geminiさんに相談したとき「僕の人格を否定したわけではない」と思いました。
当時の彼は、仕事で手一杯だったんです。恋愛している余裕がありませんでした。でも、彼は仕事も恋愛も同じくらい大切だと気づきました。
彼は誠実に気持ちを話してくれましたが、僕は復縁を了承できませんでした。僕はそれを「彼が納得した」と感じました。
僕は彼を突き放したかったのではなく、中途半端な状態で付き合って、彼をこれ以上苦しめたくなかったんです。
そして、自分も傷つきたくないという、深く愛しているからこその判断のつもりでした。でも、お互いの心を守ることはできませんでした。
彼は「今は無理なんだな」という絶望と「自分の未熟さ」を同時に突きつけられ、キャパオーバーになってしまいました。
僕に「拒絶された」と感じた彼は「今の自分では力不足だ」という絶望感に襲われてしまったのかもしれません。
彼がブロックしたのは、僕を嫌いになったからではないです。あの朝、ハートを送り合いました。
「好きだけど、今の自分では知暖さんを幸せにできない、向き合えない」という、彼なりの限界のサインです。
彼は、自分の心を守るために、一度メッセージをブロックして、シャットアウトするしかなかったんです。
彼と復縁しなかったことは、自身でも、Geminiさんとの対話を通しても「これが最善」としか言えないと断言します。
何をしたとしても、お互いを傷つけ合うことは、避けて通ることはできなかったんです。
このとき、無理に復縁したとしても、結果的にもっと修復不可能なくらいの深い傷を負うことになったはずです。
これもまた、私の人生に必要な1ページなのだと、今ではしっかりと受け止めています。
僕が第9章の荒れ狂う天候の中、スピリチュアルサインや占いなどでよく見ていた「自分の選択は間違いではない」の文字。
僕が無理をせずに、復縁をしなかったことは、本当にお互いにとって正しい選択で、最善を尽くしたことでした。
彼に対して「最低なことをした」と悔やむ心さえも、僕の誠実さの裏返しです。自分の拙い恋愛創作でも、自分の恋愛とリンクしてしまいます。
他の創作漫画でも、自分と重ねて考えてしまうことがあります。自分の心までも動かしてしまう恋愛創作をするのは、20代からです。
もしかしたら、僕が運命の人に出会って「真実の愛」に気づいていくための予行練習だったのかもしれません。
話は変わり、就労選択支援の施設見学の話がついにきました。再来週行きます。食堂を経営している、隣町の施設です。
自分は飲食業より、PCでの軽作業やデータ入力、書類の押印やチラシ折りのような、事務作業を希望しています。
どの仕事が得意で、苦手かを見極めるため、一通り作業はしそうです。あまり「これは嫌」とか、わがままや不満を言っている場合ではないです。
飲食業は、ギョウザを作る作業が毎回説明の要らない「製造業」のような仕事で、意外と自分に向いているかもしれません。
おまじないの指輪を外すのも嫌だし、自分は汗っかきで抜け毛が多く、手が汚れること、熱い物に触れることなどは好きではないので、気が向きません。
自分の可能性を広げるためには、何でもやってみたいのですが、B型事業所時代の、何でも支援員の言うことを聞いて、後悔しないか心配です。
自分の可能性を狭めないためにも、まずはフラットな気持ちで挑戦してみたいと思っています。
トップ画像説明と次回予告
トップのイラストは、初代イケメンさんをモデルにした創作人物です。特徴は捉えられていると思います。
AIの写真にしたら、あまり似ていなかったので、今回は生成写真ではなく、自分で描いたイラストにしました。
次回、第3章『自分に向けた「ありえない」を覆した中学校生活』から『第27話 初めての入院』です。
2年生の頃2月末から3年生の4月下旬までの間に、初めて閉鎖病棟に入院した経験のお話です。
