20曲を数値にしたら、統計は「分けられません」と答えた ——『ネビュラロマンス』を測る(1)
Perfumeのあるアルバムの20曲を、音の物理的な特徴だけで分析してみました。全3回のシリーズです。
その1は、分析が行き詰まったところから、構造が見えるまで。
その2は、その結果をどこまで信じてよかったのかの検証。
その3は、曲と曲のつなぎ目という新しい切り口。です
対象はPerfumeの2部作アルバム『ネビュラロマンス』前篇・後篇です。「架空のSF映画のサウンドトラック」というコンセプトで作られた作品で、前篇10曲・後篇10曲の計20曲を扱います。
なお、この記事では曲名を伏せて「前篇3曲目」「後篇8曲目」のように番号で書きます。分析の構造に集中したいのと、著作権への配慮のためです。ご了承ください。
技術的な用語は、なるべく平易な言葉に置き換えて説明します。一方で、分析の進め方については踏み込んで書きます。
そしてもうひとつ。私はこのアルバムを何度も聴いてきたファンでもあります。分析の話とは別に、聴き手として感じていたことを「ファンの一人として」という形で挟みます。そこは主観です。データが言っていることと、私が感じていることを、混ぜないように書き分けます。
音を数値にする、というのはどういうことか
まず、音楽を数値にする方法を説明します。
音声ファイルは、空気の振動を数値の列として記録したものです。1秒あたり数万個の数字が並んでいます。ただしその生の数字は、そのままでは意味を持ちません。「この曲は明るい」「テンポが速い」といった性質は、そこから計算して取り出す必要があります。
今回使った特徴量は、大きく4種類です。
音量は、振動の大きさの平均です。単純に「大きい音か小さい音か」を測ります。
テンポ感は、音の立ち上がりがどれくらいの間隔で繰り返されるかです。ドラムのキックのような、はっきりした音の始まりを検出して、その周期を測ります。
音色は、少し説明が要ります。同じ高さの音でも、ピアノとギターでは違って聞こえます。この違いは、音に含まれる周波数の成分の違いから生まれます。低い成分が多ければ「暗い・太い」音に、高い成分が多ければ「明るい・細い」音に聞こえる。この重心を測ったものを、専門的にはスペクトル重心と呼びます。ここでは「音色の明るさ」と呼ぶことにします。
和声は、その曲がどんな音階でできているかです。これは後で詳しく説明します。
これらをデジタルデータから計算すると、1曲が数十個の数字の並びになります。20曲あれば、20行×数十列の表ができる。ここから先は、普通のデータ分析と同じです。Perfumeファンであれば、ライゾマさんの方でとっくに行われている解析かも知れませんが、一ファンとして生成AIでどこまで深掘りできるかを、この連休で試してみました。
統計は「分けられません」と答えた
最初にやったのは、広く用いられているクラスタリングでした。
クラスタリングというのは、似たもの同士をグループにまとめる手法です。デジタルデータから計算された数値が近い曲を同じグループに入れる。20曲がいくつのグループに分かれるかを調べれば、アルバムの構造が見えるはずだと考えました。
結果は、うまくいきませんでした。(データサイエンスではよくあることです)
グループ分けがどれくらいきれいにできているかを測る指標に、シルエット係数というものがあります。この値が1に近いほど「グループの中はまとまっていて、グループ同士は離れている」状態を意味します。0に近いと「グループの境界が曖昧」ということです。
この値が、何度やっても0.2前後にしかなりませんでした。全然纏まりません。
特徴量(音声ファイルから得られるテンポなどの値)を絞ってみました。最初は36個の数値を使っていたのですが複数の数値で強い相関性があり過学習の可能性があるため、それらの組み合わせを統合しつつつ意味のはっきりしたものだけに10個まで減らし、さらに互いに強く相関するものをまとめて7個にしました。それでも改善しません。
統計の答えは一貫していました。このデータは、そもそもくっきり分かれる性質のものではない。
ここで手が止まりました。一般的なデータサイエンスのアプローチだけでなく、推し活をしているファンとしての敗北をこの時に感じました。ただ、信頼を置いているClaudeちゃんであればなんとかなるのでは?という淡い期待を持っていて、ここはちょっと無茶振りをしてみよう、連休で時間もあるし、とマインドを切り替えました。
分け方を探すのをやめる
しばらく考えて、問いのほうを変えることにしました。
それまで私が聞いていたのは「どの曲とどの曲が似ているか」です。グループ分けの問いでした。これを「曲順に沿って、音はどう動いていくか」に変えてみたのです。
このアルバムが「架空の映画のサウンドトラック」というコンセプトの作品だったことも後押しになりました。映画音楽なら、物語の起伏に沿って音も動いているはずだ、という素朴な発想です。
ここで面白い壁にぶつかりました。曲順の情報は、音声ファイルからは取り出せません。
機械は音を数千個の数値に分解できます。でも「この曲は3曲目です」という一行を、自分では知り得ない。ファイル名の数字も、複数のアルバムが混ざっていて当てになりませんでした。結局、人間が手で並びを教えるしかありませんでした。私がClaudeさんに曲名と順番を入れさせていただきました。頼む、解析を進めて欲しい、中田ヤスタカ神の作品をファンが理解する形で視覚化したい、という「あたおか」のファンの強い要望として。
という感じでClaudeさんと分析していると、高度な処理はできるのに、前提となる素朴な情報が抜けているということがあります。推し活をしているファンにとっては当たり前の情報が生成AIにはなくて、1から説明しないといけないやり取りが何度もありました。生の人間の価値はこういうところにあるんだな、と思いながらも、生成AIへのマニアックな学習に貢献してしまったという人間としての複雑な感情もありました。
曲の生データをプライベートモードで共有したとしても、それに何が含まれていて何が含まれていないかは、意識しないと見落とします。
並べ替えて折れ線にすると、平坦だったデータが動き出しました。音量とテンポの起伏に、明らかな波があったのです。
グループ分けでは何も見えなかったデータが、並べ方を変えただけで形を持ちました。
使っていなかった軸を足す
もうひとつ試したことがあります。それまで測っていなかった軸を追加しました。
和声、つまり長調か短調かという情報です。
音楽で「明るい曲」「切ない曲」と感じるものの正体は、多くの場合その曲がどんな音階でできているかです。ドレミファソラシドで作られた曲は明るく響き、ラシドレミファソラで作られた曲は物悲しく響く。前者が長調、後者が短調です。これは人類が長年を得て得た共通の感覚です。
これをデジタルのファイルを元に機械で推定する方法を説明します。
まず、曲全体で12個の音(ド、ド#、レ、レ#……)がそれぞれどれくらい鳴っていたかを数えます。オクターブの違いは無視して、音名だけに注目する。この12個の数字を、クロマと呼びます。曲の「音の使用頻度の指紋」のようなものです。
次に、この分布を長調・短調それぞれの典型パターンと照合します。ハ長調の曲ならド・ミ・ソが多く鳴り、イ短調ならラ・ド・ミが多く鳴る。この「調ごとの典型的な音の比率」は、音楽心理学の実験から標準的なパターンが作られています。24通り(12の調 × 長調・短調)すべてと比べて、最も似ているものを選ぶわけです。
そして長調らしさから短調らしさを引けば、連続量が得られます。プラスなら明るい響き、マイナスなら暗い響き。これを「明暗スコア」と呼ぶことにしました。
なお、この処理には注意点があります。実際の楽器音には倍音が含まれます。ドを鳴らすと、その上にソやミの成分も同時に鳴る。単純な周波数分析では、この漏れを除去できません。倍音の影響に強い変換方法(定Q変換といいます)を使う必要があります。
実際、簡易な実装で試したところ、長調と短調の比率が逆転するほどずれました。ここは既存の実装に任せるのが賢明です。
反転していた
出てきた結果に、手が止まりました。

前篇は長調が7曲、短調が3曲。後篇は長調が3曲、短調が7曲。
きれいな鏡像でした。
前篇は明るい響きが基調で、水面より上を保ちながら進み、9曲目で一度だけ深く沈み、最終曲で浮上して閉じる。後篇は逆に暗い響きが支配的で、序盤は水面下を這うように進み、中盤で最も明るい曲と最も暗い曲が隣り合い、最後にまた明るく着地する。
グループ分けの精度を追いかけていたときには、影も形も見えなかった構造です。
ファンの一人として。
この結果を見たとき、腑に落ちる感覚がありました。
前篇のツアーに行き、後篇のドームライブにも行きました。同じアーティストの同じ2部作なのに、受ける印象がまったく違ったのを覚えています。前篇は広がっていく感じ、後篇は重く進んでいく感じ。うまく言葉にできないまま、そういうものだと思っていました。
それが長調7:短調3と3:7という具体的な数字で可視化されました。感覚として掴んでいたものに、後から輪郭が与えられたような気がしました。
もちろん、私が先に「前篇は明るい」と思っていたから、そう見えているだけかもしれません。数字が先か、印象が先か。そこは自分でも切り分けられません。ただ、比率がここまできれいに反転していたのは、予想していませんでした。Team Perfumeが計算していることはファンとしては納得しますが、データで裏付けられて腑に落ちました。
3つの軸は互いに独立している
さらに調べると、興味深いことがわかりました。
曲内の起伏という軸も追加しました。それまでは1曲を1つの点(曲全体の平均)として扱っていたので、静かなイントロから盛り上がるサビへ、といった曲の中の展開が消えていたのです。曲を24の区間に分割して、区間ごとの音量を測り、最も静かな区間と最も大きい区間の差を「ダイナミクスレンジ」として算出しました。
これで3つの軸が揃いました。音の強さ(音量とテンポ)、和声の明暗、曲内の起伏です。
この3つの関係を調べたところ、互いにほとんど相関がありませんでした。

音の強さと和声の明暗が相関係数0.18。音の強さと曲内の起伏、和声と曲内の起伏も、いずれも弱い相関です。
相関が低いということは、それぞれが別のことを測っているという意味です。激しい曲が明るいとは限らないし、起伏の大きい曲が暗いとも限らない。これは中田ヤスタカ神の結果だと思います。だからこそ、ファンは魅了され続けるのかな、と納得しました。
この独立性は言い換えると、ひとつの物差しでは曲を語れないということです。音量だけ見ていたら「盛り上がる曲」で終わっていた。和声を足して初めて、その盛り上がりが明るいものではないと分かる。
実際、「音量もテンポも高いのに、和声は暗い」という性格の曲が、後篇の前半に4曲固まっていました。激しく鳴っているのに、明るくない。物語で言えば戦いの場面にあたる部分です。ファンならわかりますよね?
特徴量を増やすと分類が変わる
新しい軸を足したことで、それまでの分類も変わりました。
7つの特徴量でクラスタリングしていたときは、ある1曲だけが「他とまったく似ていない外れ値」として孤立していました。統計的には除外の候補になる曲です。
ところが和声と曲内の起伏を加えて9つの特徴量にすると、この曲は孤立しなくなりました。同じ性格を持つ2曲と、ひとつのグループを形成したのです。
3曲の共通点は「和声が暗く、曲内の起伏が大きい」ことでした。そして曲順を見ると、それぞれ前篇の最も深い谷、後篇の最暗部、そして物語上の重要な転換点にあたる位置に置かれていました。
統計的な特異点ではなく、同じ役割を持つ3曲だったということになります。
ファンの一人としてこの3曲が同じグループに入ったのは、正直なところ意外でした。
孤立していた1曲は、ファンの間でも「特別な曲」として語られることが多い曲です。静かで、荘厳で、他とは明らかに毛色が違う。だから統計が「外れ値」と判定したときも、そういうものだろうと納得していました。
でも軸を足したら、仲間が2曲見つかった。しかもその2曲は、聴いた印象としてはまったく似ていません。片方は静謐で、もう片方は激しい。
数値が言っているのは「暗くて、曲の中で大きく揺れる」という共通点だけです。聴いた感じの似ている・似ていないとは、別のことを測っている。前の記事でも書いたことですが、機械の「似てる」と耳の「似てる」は本当に別物だと、あらためて思いました。
ただ、曲順に並べてみると腑に落ちます。この3曲は、それぞれ物語が沈む場所に置かれている。役割が同じなのだとしたら、音の作りが似ていても不思議ではありません。
ちなみに、この9変数の分類を採用するかどうかにも判断が要りました。シルエット係数だけを見ると、実は7変数のときのほうが高い値が出ます。指標(説明変数)が高いほうが良い分析とは限らないという話は、次回で詳しく扱います。
ここまでのまとめ
分析としては、次のことが分かりました。
グループ分けでは何も見えなかったデータが、曲順という並びと和声という軸を加えることで、明確な構造を見せました。前篇と後篇で長調短調の比率が7:3と3:7に反転していること。3つの軸が互いに独立していて、ひとつの物差しでは曲を語れないこと。特徴量を増やすと分類そのものが組み替わること。
方法論としては、次のことを学びました。
データが語らないとき、それは「語ることがない」のではなく「聞き方が合っていない」場合がある。
ファンの一人として。
分析を始めたときは、正直なところ「好きな曲を数値にしたら何が見えるだろう」という単なる好奇心だけでした。作品の構造を解明したいという野心はありませんでした。
でも解析を進めて色々な統計数字が出てくるにつれて、少しずつ聴き方が変わりました。前篇と後篇を続けて聴いたとき、境目で何かが切り替わる感覚が、以前より鮮明になった気がします。プラシーボかもしれません。それでも、知ってから聴くのは楽しい。
一方で、数字が教えてくれないこともはっきりしました。この20曲がどういう経緯で作られたのか、なぜこの順番なのか、作り手が何を考えていたのか。そういうことは、音の波形をいくら分解しても出てきません。
測れるものと、測れないもの。その両方があると知ったうえで聴くのが、いまのところ一番面白い聴き方だと思っています。
ただし、ここまでの結果には確かめていないことがあります。区間数を24にしたのはなぜか。窓の長さは適切だったのか。 これらのパラメータを変えたら、結論は変わらないのか。
次回は、そこを検証します。そして、いくつかの結論が崩れます。
(第2回に続く)私の結論は半分が間違っていた ——『ネビュラロマンス』を測る(2)
【追記 2026年7月20日】
この記事で出した「前篇7:3、後篇3:7」という比率について、その後の検証で調の推定手法に精度の限界があることが分かりました。前篇の2曲は判定が僅差で、保留すべき曲でした。除くと前篇は5:3になります。また、後篇の比率は計算し直した結果では2対8になっています。無音の除去のしかたを直したり、測る区間を見直したりしてきたので、その過程で一曲の判定が動いたようです。長短の境目にいる曲がひとつあって、そこが振れました。
