曲と曲のあいだに、いちばん濃い設計があった ——『ネビュラロマンス』を測る(3)
前回、自分の結論の半分が崩れた話を書きました。パラメータを振ってみたら、頑健な結論と脆い結論が分かれた。そして脆いほうを、私は無条件に信じていました。ファンとしての思い込みとして。
その1
その2
今回は、その検証を、生成AIを使って新しい切り口に進みます。
曲と曲のつなぎ目を測る、という話です。
結果を先に言うと、これまでで最も明確な構造が見つかりました。そして、ひとつだけ他と違う場所も。
なぜ「つなぎ目」なのか
きっかけは、私の違和感でした。ある曲の終わりのギターの余韻から、次の曲のイントロに入る瞬間が好きだ、と。(後編の2曲目からの3曲目です)
言われてみれば、アルバムを通して聴く体験は、曲そのものだけで決まるわけではありません。前の曲がどう終わり、次がどう始まるか。その接続部にも何かがあるはずです。
しかし私はそこを一度も測っていませんでした。1曲を1つの単位として扱い、曲どうしを比べていた。曲と曲のあいだは、分析の枠から抜け落ちていたのです。
これは分析の設計としてよくある盲点だと思います。データを行と列の表にした時点で、行と行のあいだにあるものは見えなくなる。
測り方
各曲の「入口」と「出口」を測ります。
冒頭の数秒と末尾の数秒を切り出して、そこが曲の本編と比べてどうなっているかを見てみました。具体的には以下の4つの指標を使いました。
音量。端が本編よりどれだけ静かか。静かに始まる曲か、いきなり本編の音量から始まる曲か。あわせて「立ち上がりの速さ」(本編の音量に達するまでの秒数)と「余韻の長さ」(最後に本編の音量を下回ってから終わるまでの秒数)も測ります。
音色。前回説明したスペクトル重心です。端が明るい音で始まるか、暗い音か。
和声。端の数秒からキーを推定します。前の曲の出口のキーと、次の曲の入口のキーが、音楽的に近い関係にあるかを見ます。
リズム。音の立ち上がりの周期性がどれくらい似ているか。
ここでひとつ断っておきます。私たちが持っているのは個別の音声ファイルです。CDで実際に曲間が何秒空くかは、ファイルからは分かりません。 なので以下は「ギャップなしで連続再生した場合」の分析です。
曲は暗くなって終わる
最初に見えたのは、単純ですがはっきりしたパターンでした。

20曲中18曲で、出口の音色が本編より暗い。 曲は低い周波数に落ちて終わります。フェードアウトしたり、余韻が残ったり、静かに収めたり。方法は違っても、暗くなって終わる点は共通です。
そして次の曲は、多くの場合それより明るい音で始まります。
結果として、つなぎ目に段差ができます。
つなぎ目の落差は、曲どうしの違いの2倍
この段差の大きさを測ってみました。
比較対象は「曲どうしの本編の違い」です。曲Aの本編と曲Bの本編を比べたときの音色の差。これを基準にして、つなぎ目の落差がどれくらいかを見ます。

つなぎ目の落差は、曲どうしの違いの約2倍でした。
明るさで1.9倍。音の広がり(帯域幅)で3.0倍。ざらつき(スペクトル平坦度、ノイズ的か楽音的かの指標)で2.2〜2.7倍。前篇でも後篇でも、ほぼ同じ倍率です。
これは前回学んだ検証でも確認できたことです。端の窓長を3秒、5秒、10秒と変えても、倍率は1.57〜1.93倍の範囲で安定しています。設定の産物ではありません。
言い換えると、曲そのものは音色的にそれほど違わないのに、接続部だけ落差が大きい。曲の本編を並べれば似た音色なのに、つなぎ目で一度落ちて、また上がる。
アルバムを通して聴くと、曲が変わったことがはっきり分かる。その感覚には、こういう物理的な裏づけがあるのかもしれません。そしてそれはファンを沼に入れていくのだな、と痛感しました。
前篇は「切替」、後篇は「地続き」
次に、和声のつながりを見ました。
前の曲の出口のキーと、次の曲の入口のキー。この2つが音楽的に近い関係にあるかを判定します。「近い関係」というのは、平行調(使う音が同じ長調と短調の組み合わせ)、同主調(主音が同じ長調と短調)、そして4度・5度の関係などです。これらは音楽理論上、自然につながる関係とされています。
結果は明確でした。
後篇は9つの接続のうち6〜7つが近親関係。前篇は2〜4つ。
端の窓長を3秒から20秒まで6通り振っても、6通りすべてで後篇のほうが多い。これも頑健な差です。
音量・和声・音色を組み合わせて、接続を型に分類してみました。

前篇は「切替」型が9つ中7つ。 曲が静かに終わり、次が音量を落とした状態から一気に立ち上がる。曲ごとに世界が切り替わる作りです。
後篇は「地続き」型が9つ中6つ。 和声がつながったまま次へ渡ります。一つの流れとして進む設計です。
音色の落差も、前篇のほうが大きい(平均1090Hz対787Hz)。3つの独立した指標が、同じことを言っています。
前篇は断片的、後篇は連続的。これは第1回で見た和声の反転(前篇は長調優勢、後篇は短調優勢)とはまた別の、構成レベルでの対比です。
ひとつだけ、断絶がある
一連の流れを確認した時、ひとつだけ他と違うものがありました。
後篇の8曲目から9曲目への接続です。
18接続のうち、ここだけ音量の差がプラスでした。 他の17接続はすべてマイナス、つまり「次の曲は前の曲の終わりより静かに始まる」という関係です。ところがここだけ逆で、前の曲が本編に近い音量のまま終わり、次の曲がほぼ無音から始まる。
数字で見ると、こうなります。
前の曲は、20曲で唯一「出口が本編より明るい」曲でした。他の19曲が暗くなって終わるのに、この曲は明るいまま、しかも余韻0.2秒(20曲で最短)でぶつ切りに終わります。
そして次の曲の入口は、本編より50.8dB静か。2位の曲が23.9dBですから、倍以上の差です。ほぼ無音の状態から、8.8秒かけて本編の音量まで立ち上がります。
和声も切れています。窓長を6通り変えても、一度も「近い関係」になりませんでした。
一方で音色は逆に跳ね上がっています。出口も入口も、20曲の中で最も高い周波数帯。前後の曲が暗い中で、この区間だけ音色が突出して明るい。
音量では静寂に落ち、和声では切れ、音色では跳ね上がる。
そしてこの曲の入口は、リズムの強さでも20曲中最高でした。測る指標を変えても、常に極端な値が出る。
ネビュラロマンス後篇が「地続き」の設計である中で、ここだけが断絶している。唯一設計された切れ目、と読めます。ヤスタカ神の巧妙な設計を垣間見ることができ、ファンとして身震いをしました。
見つからなかったもの
ところで、正直に書いておきますが、テンポについては、何も見つかりませんでした。
前の曲の終わりと次の曲の始まりで、リズム構造がどれくらい似ているか。これを測ったところ、つなぎ目の類似度は前篇0.922、後篇0.882でした。曲どうしの本編を比べた類似度(0.925、0.936)と、ほぼ同じです。
音色では2倍の落差があったのに、リズムでは段差がない。
ここには2つの解釈があり得ます。「テンポは接続の設計要素になっていない」のか、「私の使った指標では捉えられない」のか。現時点では区別できません。
なお、BPMの推定そのものが機能しないことが今回の解析でわかりました。20曲の推定値が129.2、136.0、143.6といった特定の値に集中し、4曲が同じ値と判定される。使ったライブラリの推定が持つ偏りです。信頼度の指標も0.23から0.89までばらつきました。この数字で接続を語るのは危険と判断して、別の手法(周期ごとの強さの分布を比較する方法)に切り替えました。
ただ、この作品については、長年Perfumeをフォローしている私としては、ヤスタカ神の楽曲は一定のテンポ感で作られている傾向があるので、接続部でリズムが揃うのはむしろ自然ではないか、と。
だとすれば「差が出なかった」のではなく「元々揃っている」ということになります。私はこの解釈のほうが妥当だと思います。
分析していると数値ばかり見てしまい、その対象の現物を確認せずに判断することがデータサイエンスでは起こりがちです。
結果として何も出なかった結果は書きたくなくなります。でも「測ったが構造は見えなかった」というのも、ひとつの情報です。少なくとも、次に同じことを試す人の時間を節約できます。
ファンの一人として
つなぎ目の分析は、私にとって特別でした。
もともと、解析をClaudeとの対話で進めていく上で、深掘りをしたいというファンの要求がこのネビュラロマンスという2つのアルバムについて理解を深めることができ、ファン冥利につきます。これを粘り強く付き合ってくれたClaudeに感謝です。
このアルバムの前篇と後篇のライブに行ったとき、曲が切り替わる瞬間に何度か驚いた記憶があります。特に後篇の終盤、ある曲がぷつりと終わって、次の曲が静寂から始まったところ。あれは体で感じる驚きでした。
それが「18個ある曲と曲の接続のうち唯一の断絶」という形で出てきたときは、少し呆然としました。自分が感じていた驚きに、こんなにはっきりした物理的な裏づけがあるとは思っていなかった。Team Perfumeのファンを喜ばせるためのこだわりに涙が止まりませんでした。
もうひとつ。冒頭で書いた「ある曲の終わりの余韻から次のイントロへ」という指摘も、検証したら最も頑健な接続でした。想定通りの意図した設計かな、と思っています。曲の前後のサンプリングの範囲を6通り変えても、すべてで「平行調」――使う音が完全に同じ、最も自然につながる関係と判定される。18の曲と曲接続の中で、これほど一貫していたものはヤスタカ神が一つの作品として伝えたかったことであり、ファンはそれを確実に受け取り、生成AIが今ここで可視化することができたのかなと思います。
聴いていて気持ちがいいと感じる場所には、理由があったということかもしれません。
もちろん、逆の可能性もあります。私が先に「ここが好きだ」と思っていたから、数字を見てそう解釈しているだけかもしれない。前回書いたバイアスの話は、ここにも当てはまります。
ただ、今回の発見の多くは、私が予想していなかったものでした。
数値上では「曲は暗くなって終わる」も「つなぎ目の落差が2倍」も、探しに行った結果ではなく、測ったら出てきたものです。一ファンが聞いていただけでは数値化できなかった知見が得られて、Cold Sleep前にTeam Perfumeが残してくれたこのアルバムをこれからも聞き続けていきたいという気持ちが強まりました。
シリーズを終えて
3回にわたって、20曲の音響分析を書いてきました。
第1回では、クラスタリングが機能しなかったところから、曲順と和声という軸を足すことで構造が見えました。
第2回では、その結論の半分が設定次第だったことが分かりました。パラメータを振らなければ、頑健なものと脆いものの区別はつきません。
第3回では、曲と曲のあいだという枠外の領域に、最も濃い設計が見つかりました。
方法論として得たものを、3つにまとめます。
データが語らないとき、聞き方を変える余地がある。 「分けられない」という答えは、分け方を探している間だけの答えでした。
出た数字は、設定を変えて確かめる。 検証しなければ、自分がどこまで信じてよいかを判断できません。
枠の外を疑う。 表を作った時点で、行と行のあいだは見えなくなります。何を測っていないかは、測っているものより見つけにくい。
そして、数字が教えてくれないこともあります。この20曲がどういう経緯で作られ、なぜこの順番なのか。作り手が何を考えていたのか。それは音の波形をいくら分解しても出てきません。
測れるものと、測れないもの。その境界を知ったうえで聴くのが、いまのところ一番面白い聴き方だと思っています。
(了)
【追記 2026年7月】
この記事の接続分析でも、曲の端からキーを推定しています。その後の検証で、この推定は一位と二位が僅差の曲では不安定になることが分かりました。窓長を振った検証では見つけられなかった限界です。「後篇のほうが近親関係が多い」という傾向自体は複数の窓長で確認していますが、個々の接続については判定の確からしさに幅があります。
