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私の結論は半分が間違っていた ——『ネビュラロマンス』を測る(2)

前回(その1)、20曲の音響分析から3つの発見を書きました。前篇と後篇で長調短調の比率が反転していること。3つの軸が互いに独立していること。特徴量を増やすと分類が組み替わること。
今回は、その結果をどこまで信じてよかったのかを検証します。

その1
https://note.com/caret_smiles/n/nfe43829005ec

その3
https://note.com/caret_smiles/n/n0fd76853ff35


これから生成AIでデータ解析を検討される方へ、私のトライアンドエラーで参考になる教訓をできるだけ入れていきたいと思います。
(データサイエンスではあるあるですが)

この想定について結論を先に言うと、発見のうち半分は残り、半分は崩れました。 そして崩れ方のほうが、学びとしては大きかったと思います。
ぜひこの屍をみなさんの学びにして欲しいです。
この回は、分析の作法についての話が中心になります。
技術用語は前回同様なるべく噛み砕きますが、扱っているのは「出た数字をどう扱うか」という、やや地味なテーマです。
ただ、実際に手を動かして数字を出したことがある人ほど、思い当たる節がある内容かもしれません。


私が決めた数字たち

前回の分析には、えいやで根拠なく決めたパラメータ(変数)がいくつもありました。初期値としてこれくらいが妥当かな、という値です。
一つの曲を24の区間に分割したこと。分割する前に曲の前後5%を捨てたこと。曲の端5秒からキーを推定したこと。どれも「だいたいこのくらいだろう」で選んだ初期の値です。
これがなければ、先に進みません。叩き台としてPerfumeファンとしてそんなにおかしくない数字を生成AIと相談して決めて解析を行いました。

4〜5分の曲を24分割すれば1区間が10秒前後になり、イントロやサビといった構成の単位を捉えられるだろう。そう考えました。もっともらしい理屈ですが、検証したわけではありません。
ここで疑問が湧きます。この数字を変えたら、結論は変わるのか。
変わらないなら、その結論は構造として実在します。変わるなら、それは私がパラメータを選んだ結果に過ぎません。
確かめる方法は単純です。値を振ってみればいい。この考えはぜひ皆さんにも取り入れて欲しいです。変数は自分の裁量で変えられるし、それを確認する自由があるということを。

社会人だと理不尽な制約条件で(例:パワハラな無能上司の「これをやれ」と他の可能性を潰す管理など)この自由が剥奪されることが多いですが、学生さんやお仕事で裁量のある方はぜひ「この条件って本当に最適化なの?」という疑問を積極的に持ち、それを検証することを進めて欲しいです。

頑健だったもの

まず、崩れなかったほうから書きます。
前回「後篇のほうが調性が安定している」という結果を出しました。曲の中でキーがころころ変わらず、一つの調に腰を据えている、という意味です。
これを区間数4から48まで、12倍の幅で振ってみました。すなわち、一つの曲を4分割から48分割にして、確認しました。1区間あたり50秒の粗い分割から、4秒の細かい分割までです。


曲の分割数と曲の揺らぎ(左)と、曲の分割数と起伏の度合い(右)


8通りすべてで、後篇のほうが安定していました。 差は+0.09から+0.22の範囲で、符号が反転することは一度もありません。
区間を細かくすると全体的に安定度は下がります。細かく切れば局所的な揺らぎを拾いやすくなるので、これは当然です。しかし前篇と後篇の差は保たれる。
同じことを曲の端のウィンドウ幅でも試しました。端3秒から20秒まで6通り。こちらも6通りすべてで同じ傾向が出ました。
パラメータを変えても消えない差が確認されたことで、このパラメータは堅牢であり、実在すると考えてよいと思います。少なくとも、私の設定の意図的な産物ではないと考えています。

崩れたもの

問題はこちらです。
前回の記事(URL:[第1回のURLを貼る])では「後篇のほうが曲内の起伏が大きい」と書きました。1曲の中で、静かな部分と大きい部分の落差が激しい、という意味です。24区間で測ったとき、後篇の平均が5.25dB、前篇が3.67dBでした。差は+1.58dB。
同じように区間数を振ってみました。今度は6から150まで、25倍の幅です。


図2(再掲):曲の分割数と起伏の度合い(右)


32区間では差が+0.85に縮み、48区間で+0.38、そして64区間で符号が反転しました(-0.40)。96区間では前篇のほうが大きくなります(-1.26)。
つまり「後篇のほうが起伏が大きい」という結論は、24区間前後でしか成立しないものでした。
さらに悪いことに気づきました。


図2;各分割数による


差の推移を並べてみると、私が採用した24区間が、ちょうど前篇と後篇のキー差が最大になる地点でした。
意図したわけではありません。むしろ意図していなかったから問題です。「1区間10秒くらいが妥当だろう」と選んだ値が、たまたま最も差が出る設定だった。もし別の値を選んでいたら、私は違う結論を書いていたはずです。
これは、分析していると起こりうる落とし穴だと思います。恣意的に選んだつもりがなくても、結果的に都合のよい設定を選んでしまうことがある。 検証しなければ、それに気づけません。

対照群を見なかった誤り

もうひとつ、はっきりした誤りがありました。
前回、後篇の終盤3曲でダイナミクスが単調に増大していることを見つけて、こう解釈しました。「物語の終わりに向けて、曲内の起伏が加速している」と。
区間数を振って検証したところ、この増大自体は堅牢で、6区間から150区間まで10通りすべてで、終盤のキーの増加の傾きはプラスです。
ところが、前篇でも同じことを測ってみたら――前篇でも10通りすべてでプラスでした。 平均の傾きは前篇+2.50、後篇+2.98。大差ありません。

つまり「終盤に向けて起伏が増える」のは後篇固有の性質ではなく、両方のパートに共通する構成でした。物語の展開とは関係なく、アルバムの終盤に起伏の大きい曲を置く、という一般的な配置だった可能性が高い。
私は後篇だけを見て、物語と結びつけて解釈していました。 比較対象を見ていなかったのです。
これは初歩的な誤りです。ある集団に特徴があると言うなら、他の集団と比べなければならない。頭では分かっていても、面白い解釈が思いついた瞬間に、確認が抜けます。
ただし、詳しく見ると違いもありました。後篇の終盤は3曲が階段状に積み上がりますが、前篇は9曲目に山があって10曲目で落ちる。上がり方の形が違う。 「終盤で起伏が増える」という点は共通で、「どう増えるか」が違っていた、というのが正確な記述です。

指標が高い=良い分析ではない

前回の記事の最後に伏線を張った話です。
クラスタリングの品質を測るシルエット係数という指標があります。この値が高いほどグループ分けがきれいにできている、という指標です。
私のデータでは、7つの特徴量でグループ数を2にしたときが最高値でした(0.485)。数字だけ見れば、これが最良の分割です。
中身を見ました。「ある1曲」と「残りの19曲」に分かれているだけでした。
1曲だけ極端に外れた曲があるので、それを切り離せば数値上のスコアは跳ね上がります。しかし何も説明していません。「外れ値が1つあります」と言っているに等しい。
一方、9つの特徴量でグループ数を3にすると、係数は0.197まで下がります。半分以下です。しかし中身は「物語の底を担う3曲」「主流の10曲」「力強い7曲」という、20年以上のPerfumeファンでも納得できる音楽的に読める構造でした。ファンとしてはストーリーに沿った解釈ができそうです。
私は後者を採用しました。
統計的には劣っていると判断される数値の低いほうです。
この判断は、分野によっては認められないかもしれません。指標を最大化するのが正しい、という立場もあります。ただ少なくとも、指標だけを見て自動的に選ぶと、意味のない分割を採用することになります。 これは全てのデータサイエンティストが肝に銘じる例だと、今回の私の推し活の事例を通じて学びました。
指標は「分かれ方のきれいさ」を測っているのであって、「分かれ方の意味」は測っていない。当たり前のことですが、数字が並ぶと忘れがちです。

データそのものが壊れていた

パラメータの話とは別に、もっと基本的な問題も見つかりました。
曲の入口と出口を分析していたとき、末尾3秒の音量が-200dBという値が出ました。デジタル上の完全な無音です。実際の音楽ではありえません。
調べると、音声ファイルの末尾に3.7秒から9.5秒の無音が入っていました。エンコードの過程で付加されたものです。
これを含めたまま測ると、どうなるか。曲の最小音量が「無音」になるので、ダイナミクスレンジが跳ね上がります。「終わり方が静かな曲」が「起伏の激しい曲」として上位に来る。
実際、最初の測定では、フェードアウトする曲がランキング1位になっていました。
データサイエンスでは良くある話ですが、データ前処理の必要性を痛感しました。
無音を除去して測り直したところ、順位が入れ替わりました。

もうひとつ、似た問題がありました。
私は「曲の前後5%を捨てる」という処理を入れていました。フェードイン・アウトを除外するためです。しかしこれは比率での指定なので、曲の長さに比例します。3分の曲なら9秒、4分半の曲なら13秒。
ところが、イントロの長さは曲の長さとは無関係です。
ある曲は、冒頭6秒ほど静かな効果音が鳴ってから、本編が始まります。前後5%カットでは、この6秒が残ってしまいました。そして測ってみると、その曲のダイナミクスレンジの大半を、冒頭6秒が作っていたのです。冒頭8秒を除外すると、値が3分の1に落ちました。
同じ問題が他に2曲ありました。いずれも静かなイントロを持つ曲です。
冒頭と末尾を10秒カットして測り直すと、ダイナミクスの上位曲が入れ替わりました。 一方で、どのカット量でも上位を維持する曲が3つありました。この3曲の起伏は、曲の構造として本物です。
この問題に気づいたきっかけは、この曲を聴き込んでいる私が「例のあの曲は水滴みたいな音で始まって、その後で一気に上がる」と生成AIにインプットして、確認したら見つかったのです。

何を信じ、何を保留するか

  • 検証を経て、結論を三層に分けられるようになりました。

  • 信じてよいもの。 パラメータを振っても消えない差です。前篇と後篇の調性の安定度の違い、和声の比率の反転、曲間の音色の落差。これらは設定を変えても向きが変わりませんでした。

  • 条件付きのもの。 特定の設定でのみ成立する結論です。「後篇のほうが曲内の起伏が大きい」は、24区間前後という条件付きでのみ言えます。書くなら条件を明記すべきで、無条件に主張してはいけない。

  • 保留すべきもの。 個別の曲の順位です。ある曲は8通りの設定すべてで最下位、別の曲は1〜2位を維持しました。これらは信頼できます。一方で、設定によって9位から18位まで動く曲もありました。こういう曲について個別に語ってはいけない。

三層に分けられたこと自体が、検証の成果だと思います。検証する前は、すべてが同じ確からしさに見えていました。

ファンの一人として

検証している間、新しい数値でそれぞれの曲の別の見方が出てくることでとても楽しかったです。Perfumeファンとして、データサイエンスを勉強しているものとして最高の教材をTeam Perfumeと生成AIが可視化してくれたことで、Claude Max x5の課金を回収できたと思っています。
前回の分析で出た結果は、聴いてきた実感と噛み合うものでした。前篇と後篇の性格の違いが数字で出て、腑に落ちる感じがありました。それが「実は設定次第でした」と分かっていくのは、面白い作業ではありません。
特に、終盤の上がり調子を「物語の加速だ」と解釈したのが誤りだったと分かったときは、えぇ、そうなの?って違和感を持ちました。なぜならその解釈が気に入っていたからです。作り手が終わりに向けて何かを込めている、という読み方をしたかった。(これこそ、生成AIが生み出す都合の良い解釈なのかも知れませんね)
ただ、崩れなかったものもありました。前篇と後篇の対比は、どう測っても残った。だから今はむしろ、その部分を信頼しています。
検証を経ずに全部を信じているより、半分が崩れた上で残った半分を信じているほうが、たぶん健全です。少なくとも、人に話すときに後ろめたくない。
好きな作品を分析するときは、自分に都合のいい結果が出てほしいという気持ちが働きます。それを完全に消すことはできません。できるのは、都合のいい結果が出たときに一度立ち止まって、設定を変えてみることくらいだと思います。

まとめ

今回の検証で分かったことを整理します。
パラメータを振ると、頑健な結論と脆い結論が分かれます。振ってみるまで、その区別はつきません。
意図せず「都合のよい設定」を選んでいることがあります。私の場合、採用した区間数が偶然「差が最大になる地点」でした。
比較対象を見ないと、誤った解釈をします。後篇だけを見て「物語の加速」と読んだのは、前篇を見ていなかったからです。
そして、指標の最大化は意味の最大化ではありません。
次回は、検証を通った手法を使って、新しい切り口に進みます。曲と曲のつなぎ目を測る、という話です。そこで、推し活をしているファンが歓喜すると思われるこれまでで最も明確な構造が見つかります。


次回:第3回「曲と曲のあいだに、いちばん濃い設計があった ——『ネビュラロマンス』を測る(3)」

【追記 2026年7月】
この記事で「信じてよいもの」に分類した和声の比率の反転について、その後さらに検証したところ、前篇の2曲は判定が僅差で保留すべきものでした。パラメータを振る検証では見つけられず、同じ曲の別マスタリング音源と突き合わせて初めて分かった限界です。この記事で作った三層分類そのものを、もう一段疑う必要がありました。
もうひとつ、「後篇のほうが曲内の起伏が大きい」という結論についても補足があります。この記事では「24区間前後でのみ成立する条件付きの結論」と書きましたが、そもそも統計的に有意な差ではありませんでした(t検定でp=0.145)。私は平均値を比べただけで、検定をしていなかったのです。さらに別のアルバムを対照群に加えると、後篇が大きいのではなく前篇だけが平坦だった、という見え方になります。 条件付きにしたことで安心してしまい、その条件の中でも差と呼べるのかを確かめていませんでした。


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