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同じ曲を二度測ったら、六曲だけ答えが変わった —— 静かに間違えるコードの見つけ方


前回、『ネビュラロマンス』の22曲を測って、つなぎ目がどこで切れているかを書きました(前回の記事はこちら)。

その流れで、今度はベストアルバム『Perfume The Best "P Cubed"』(以降P3と表記)の52曲を測ろうとしていました。2005年から2019年まで、15年分がまとめて入っています。これを年ごとに並べれば、Perfumeの音がどう変わってきたかが見えるはずだ、と思っていたのです。

そこで思い出しました。このベスト盤、中田ヤスタカさんが全曲リマスタリングしているのでした。

「音源のリマスタリング」は当時ニュースにもなっていましたし、私も知ってはいました。ただ、それが自分の分析にとって何を意味するかまでは考えていなかった。私が測っていたのは2005年の音ではなく、2019年に中田さんが手を入れた後の音だったのです。

じゃあ元の音と比べてみよう、と思いました。CDは全部あります。ファンなら当たり前ですね。

同じ曲を二度測るということ

オリジナル盤から50曲を取り込んで、リマスター版と一曲ずつ突き合わせました。

同じ曲なので、本来なら差はマスタリングの分だけのはずです。演奏も歌も同じ。音の並びも同じ。違うのは仕上げの処理だけ。

結果はきれいでした。

変わっていたのは音の大きさだけで、平均して0.52デシベル上がっていました。音色も、曲の中の起伏も、和声も、測定できる範囲では動いていません。統計的に意味のある差が出たのは音量だけでした。

面白かったのは、上げ方が一律ではなかったことです。

2005年から2009年の曲は平均で約1デシベル上げられているのに、2015年から2019年の曲は0.24デシベルしか上がっていない。古い曲ほど大きく持ち上げられていました。 逆に音量が下がった曲も12曲あります。

ベスト盤は52曲を通して聴くものです。曲ごとに音量がバラバラだと聴きづらい。だから古い曲を持ち上げて揃えた、ということなのだろうと思います。ただし完全に揃えたわけではなく、時代ごとの差は残っている。そのあたりの匙加減は、私には推測しかできません。

もうひとつ、うまくいったことがありました。「ナナナナナイロ」は2019年の新曲なので、P3のリマスタリングの対象外です。公式の告知にも「新曲を除く全楽曲」と書かれています。

この曲だけ、差分がぴったりゼロでした。音量も、明るさも、起伏も、まったく同じ数字が出た。同じ音源なら差はゼロになる、ということが実際に確認できたわけです。他の50曲で出た差が本物だという裏づけになりました。

ここまでは、順調だったのです。

六曲だけ、調が違っていた

私の分析では、曲ごとに調(キー)を推定しています。C majorとか、A minorとか、そういうものです。長調か短調かで曲の明るさを測る、この分析の土台になっている部分です。

同じ曲なので、当然リマスター前後で同じ調が出るはずでした。

ところが、六曲だけ、違う答えが出ました。

たとえば「ポリリズム」は、オリジナル盤ではC minor、リマスター版ではF minorと判定されました。「ワンルーム・ディスコ」はD majorとB minor。「コンピューターシティ」に至ってはG# minorとE majorで、まったく別の調です。

マスタリングで曲の調は変わりません。そんなことが起きたら大事件です。

じゃあ別の音源を比べてしまったのか。それも確かめました。曲の長さを測ったところ、差は1秒から3秒。これは前後の無音部分の切り方の違いで、別バージョンなら数十秒は違います。同じ音源でした。

音の中身そのものも比べてみました。十二音それぞれがどれくらい鳴っているかという数字を並べて相関を取ると、0.99。ほぼ一致しています。

同じ音源で、中身もほぼ同じ。それでも判定だけが割れる。

つまり、間違っていたのは私の道具のほうでした。

〇・二パーセントの差で決まっていた

原因を探すために、判定がどれくらい僅差だったのかを測ってみました。

十二音のうち、いちばん強い音と二番目に強い音の差を見ており、この差が大きければ「これはもう明らかにこの調」と言えますが、差が小さければ、わずかな条件の違いで一位と二位がひっくり返ります。

食い違った六曲を見ると、いちばん僅差だった「コンピューターシティ」は〇・〇五パーセントの差でした。「パーフェクトスター・パーフェクトスタイル」が〇・二パーセント、「ポリリズム」も〇・二パーセント。

〇・二パーセントの差で、その曲の調が決まっていたわけです。音量をほんの少し上げただけで順位が入れ替わるのは、当たり前のことでした。

六曲のうち三曲は、平行調の関係でした。C majorとA minorのように、使っている音が全部同じで、どちらを中心と見るかだけが違う組み合わせです。ピアノの白鍵だけで弾ける調がこの二つ。アルゴリズムがいちばん迷うところで迷っていたことになります。

賢いアルゴリズムに変えても直らなかった

最初に考えたのは、推定の方法を変えることでした。

私が使っていたのは、心理学の実験から作られた標準的な手法です。より新しい改良版もあるので、そちらに差し替えて測り直してみました。

  • もとの手法 50曲中44曲が一致(88%)

  • 別の標準手法 50曲中44曲が一致(88%)

  • さらに別の改良版 50曲中43曲が一致(86%)

変わりませんでした。 改良版にいたっては、一曲増えて悪くなっています。そして食い違う六曲は、どの手法でも共通していました。

ここでようやく腑に落ちました。これはアルゴリズムの優劣の問題ではない。 一位と二位が僅差の曲は、どんな方法で測っても僅差なのです。判定が難しいのは道具のせいではなく、曲そのものの性質でした。

分からないものを、分からないと認める

そこで発想を変えました。全部の曲を判定しようとするから間違えるのであって、判定できる曲だけを判定すればいい。

一位と二位の差が一定以上ある曲に絞って、一致率を測り直しました。


二パーセントで足切りすると、完全に一致します。

対象は五十曲から三十五曲に減ります。七割です。でも残った三十五曲については、別のマスタリングで測り直しても同じ答えが出る。そのことが保証されます。

賢い判定をするのではなく、判定できないものを手放す。それが答えでした。

なお、この足切りは調の判定にだけ関わるものです。音量や音色の測定にはキーの推定が入らないので、さきほどのリマスターリングで「変わったのは音量だけ」という結果のほうは、五十曲すべてで見たものになります。

過去の記事は、どうなったか

ここでかなり焦りました。この分析で書いてきた記事は、すべてこの調の推定を土台にしています。

『ネビュラロマンス』の二十曲を、新しい基準で見直しました。

判定を保留すべき曲は、二曲でした。どちらも前篇です。

結論への影響はこうなります。

前篇 ・全10曲で数えると 長調7 : 短調3 ・確定した8曲だけで数えると 長調5 : 短調3

後篇 ・全10曲で数えると 長調2 : 短調8 ・確定した10曲だけで数えると 長調2 : 短調8(変わらず)

後篇は無傷でした。 十曲すべてが基準を満たしています。前篇は二曲が保留になりますが、長調が多いという傾向は残ります。

「前篇と後篇が鏡像になっている」と書いてきた主張は、弱まりました。でも崩れてはいない。正直なところ、ほっとしました。

数えなおして結論が変わらなかったことより、数えなおせたことのほうが大きいと思っています。前は「7対3」としか言えなかったものが、いまは「7対3、ただしうち2曲は僅差なので保留すると5対3」まで言えるようになりました。

耳が先に気づいていた

この一連の話には、実は前段があります。

最初にリマスターの件を思い出したのは私で、「ベスト盤って全曲リマスタリングされてましたよね」と生成AIに問いかけたところから、この検証が始まりました。データを見ていたAIは、そのことを知りませんでした。

同じことが何度も起きています。「エレクトロ・ワールドはベスト盤収録の再録版だ」と気づいたのも、「この曲はアルバム版とシングル版で違う」と指摘したのも、数字ではなくファンである私の記憶のほうでした。

数字は、何の数字なのかを教えてくれません。それを知っているのは聴いてきた側です。


ここから先は、この検証を通して見えた「AIに書かせたコードをどう疑うか」という話を書きます。実はこの分析、途中でエラーも警告も出さずに間違った答えを返していた箇所がありました。しかも一度ではありません。

音楽の話としてはここで完結しています。技術的な部分に興味のある方だけ、続きをどうぞ。

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