前篇と後篇はつながっていた。切れていたのは、その後だった
『ネビュラロマンス』の全20曲を音響データで分解したとき、私がいちばん面白がっていたのは前篇と後篇の対比でした。
長調と短調の比率が7対3と3対7で、きれいな鏡像になっていること。前篇は曲と曲を切り替えるようにつなぎ、後篇は地続きにつないでいること。二枚のアルバムは対になるように作られている、と思っていました。
ところが先日、そのあとに配信された二曲を足して22曲で測り直したら、境界の場所が私の思っていたところになかったのです。
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曲と曲のつなぎ目を扱った第3回はこちら
曲と曲のあいだを測るということ
私が見ているのは、曲の終わりの五秒と、次の曲の始まりの五秒の数値です。
そこに含まれる音を「高い音が多いか、低い音が多いか」で数値化します。シャリシャリした金属的な音が多ければ数字は大きくなり、低くもったりした音が中心なら小さくなる。音の重心がどのあたりにあるか、という指標だと思ってください。この数値の単位はヘルツですが、周波数そのものではなく「重心の位置」を表す目安として見ています。
前の曲の終わりと次の曲の始まりで、この数字がどれくらい違うか。段差が小さければ滑らかにつながっていて、大きければ落差がある、という単純な考え方です。
22曲を順番に並べると、接続は21か所あります。その21か所の段差の真ん中の値は、903でした。これが「ふつうのつなぎ目」の基準になります。
まず前篇の最後の曲から、後篇の一曲目へ。ここはアルバムをまたぐ場所なので、いちばん大きな段差があると私は予想していました。
出た数字は737。21か所のうち14番目です。
真ん中より小さい。つまりアルバムをまたいでいるのに、ふつうの曲と曲のつなぎ目より滑らかだったということです。前篇と後篇のあいだに、音響的な切れ目はありませんでした。
後篇は一本の線でできていた
後篇の内部を見て、その理由がわかった気がしました。
後篇の三曲目から七曲目まで、隣り合う曲の調の関係が四回続けて同じ型になっています。同主調、つまり同じ音を中心に置いたまま、長調と短調だけを入れ替える関係です。

調の中心を動かさずに、明るさだけを反転させていく。以前の分析で「後篇のほうが一つの調に腰を据える」という数字が出ていましたが、それは隣り合う曲の関係として、こういう形で現れていたのだとわかりました。
そもそもこの二枚は、架空のSF映画のサウンドトラックとして構想された二部作です。中田ヤスタカ神がレコーディングのときにストーリーを話し、そこから映像や演出が広がっていったといいます。
面白いのは、中田さんが前篇を1970年代から80年代、後篇を90年代に公開された映画としてイメージしていた、とあ〜ちゃんが音楽ナタリーのインタビューで話していることです。
二枚は、違う時代の映画のつもりで作られていた。それでも、つなぎ目に段差はありませんでした。
では、どこで切れていたのか
21か所の接続を、三つの指標で順位づけしてみました。音色の段差、音量の変化、明暗の変化です。
一か所だけ、三つの指標が二位に入る接続がありました。
後篇の最後の曲から「ふめつのあなた」へ。
音色の段差は2165。真ん中の値の2.4倍です。音量は1.9デシベル下がり、明暗のスコアは0.28暗くなります。どれも21か所のなかで二番目に大きい数字でした。三つの指標が同時に上位に来る接続は、ほかにありません。

これらの数値の一位はそれぞれ別の場所です。音色の段差だけなら前篇の二曲目から三曲目へのつなぎ目が2387で一位ですが、そこは音量も明暗もほとんど動きません。音量の落差が一位の場所も、明暗の落差が一位の場所も、他の二つでは上位に来ない。一位は毎回ばらばらで、三つの数値が同じ程度で揃うのはあの一か所だけでした。
そして「ふめつのあなた」から「コールドスリープ」への接続は、812。真ん中の数値の903より小さい。この二曲だけが、互いにつながって別のひとまとまりになっているという形です。
私がそう読みたくなった、ということ
ここから先は、私の主観です。
データが示した断絶は、2025年9月に出た後篇と、その年の暮れに配信された曲とのあいだにあります。私にとってこの二つのあいだには、9月21日があります。
2005年9月21日、「リニアモーターガール」でメジャーデビューした日。その20年後の同じ日に、2026年からのコールドスリープが発表されました。
その日、私はとても混乱してしまいました。あまりに完璧に走っているPerfumeが、なぜ止まるのかわからなくて、説明のつかないことに説明を探そうとして、ずいぶん見当違いのところまで手を伸ばしました。翌日と翌々日の東京ドームで、理解して受け入れたつもりになりました。つもりでした。年末にあの曲が配信されて、また揺れました。
数字が「ここから別のもの」と示した場所と、私のなかで何かが切り替わった場所が、重なっていました。
ただ、これは因果ではありません。それどころか、事実関係はむしろ逆を向いています。
「ふめつのあなた」がアニメ『不滅のあなたへ Season3』の主題歌になると発表されたのは、2025年の8月。宣言より前です。「コールドスリープ」も、映画のために書き下ろされて眠りに入る前に録音されたと報じられています。ドキュメンタリー映画の佐渡岳利監督は、25周年記念のリミックスを中田さんが作っていた段階では、まだコールドスリープをするとは決まっていなかった、と話していました。
つまり、このネビュラロマンスの後にリリースされた二曲を「別れのために作られた曲」として聴くのは、たぶん違います。作り手が断絶を意図して音を並べたわけではない。
今回解析の対象としている22曲というのは統計的にはとても小さくて、たまたまそう出ただけという可能性も十分にあります。
以前この曲について、閉じる演出には入れずに、手元に残るものとして渡されたのではないか、と書きました。眠るのは三人で、起きているのは「あなた」だ、と。だから起きている「あなた」に託す、そういう気持ちを込めたのだと、あのときは曲名からそう感じただけでした。
いま、音の並びを測ってみたら、この曲は確かにそれ以前の20曲とは別の場所に置かれていました。
それでも私は、そう読みたくなりました。意図されていなくても、置かれた場所は動かない。順番に並べて聴けば、そこに段差がある。それだけは確かなことです。
耳が先に気づいていて、数字があとから追いついてくる。この分析をしていると、そういうことが何度も起きます。
いま解析を行っているのは22曲ですが、25年ぶんの曲がまだ手つかずで残っています。現在2019年にリリースされたベストアルバムP3の52曲でも同じ指標を測ってみているのですが、そちらはそちらで別の興味深い結果が出てきつつあるところです。Perfumeの三人が眠っているあいだに、まだしばらく色々と分析ができそうです。
あなたには、どこが切れ目に聞こえますか。
「推しをデータで読む」 好きな音楽を数字にしたら何が見えるのか、見えないのかを書いています。
