医療データサイエンス 「追跡不能」が多い臨床試験結果は信頼できるのか?
ここ数年で、データサイエンスが学べる大学が急増しました。データサイエンスはITテクノロジー(AIの開発など)、金融(株価予測など)、医療(医薬品の開発など)、マーケティング(購買データ分析など)、製造業(品質管理など)といった様々な分野で活用されています。どのような分野に活かしたいかによって、受験する学部も違ってくるでしょう。医療分野に関心がある高校生に、ぜひ考えてほしい臨床試験結果を掘り起こしました。
HPVワクチン(ガーダシル)の臨床試験
臨床試験の結果などが書かれた審査報告書や申請資料は、審査を行っているPMDAのサイトで公開されています
下記のページに医薬品名を入れれば、検索することができます。
HPVワクチン(ガーダシル)の審査報告書などは、下記のページから見られます。
今回は、申請資料概要 から掘り起こしました。
9.臨床概要 より

被験者の内訳を見ると、中止例が合計211人、その中で「追跡不能」が65人。「転居」や「妊娠」、「同意撤回」のカテゴリーは別にあるので、それ以外の中止理由とは何なのでしょうか。
臨床試験への参加を希望した人は、試験の内容について説明を受け、それに納得したから参加しているはずです。それでも、途中で不安になったりすることもあるでしょう。その場合は、「同意撤回」できます。けれども、「同意撤回」したのは96人で、「追跡不能」とは別に算出されています。
製薬協のサイトに、「臨床試験の安全性帳票に関する基本的考え方」というページがあります。


「中止の理由について、有効性不十分が原因なのか、又は安全性が原因なのかを知ることは重要である」と書かれています。また、「死亡を追跡不能に分類するのではなく、有害事象に分類されるべきか否かを検討するために治験薬に起因する本当の理由を収集することが重要である」とあります。
つまり、この「追跡不能」に分類された被験者の中止理由は、非常に重要だと考えられます。
PMDAのサイトで公開されている「治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドライン」には、下記のように書かれています。

治験から脱落した患者を無視し,治験を完了した患者のみから結果を導くことは誤った評価を与える可能性がある。しかしながら大量の脱落は,たとえそれらを解析に含めたとしても偏りが生じる可能性があり,一方の治療群に多くの早期脱落があった場合,又は脱落の理由が治療若しくは結果に関連している場合は,特にその可能性が高い。
脱落者を無視した結果を出すことも、脱落者を解析に含めることも、結果に偏りや誤った評価を出す可能性を高めてしまいます。
つまり、できるだけ脱落者を出さないようにしているはずなのに、これだけ中止例が多いということは、何らかの問題があった可能性があるのではないでしょうか。
他の臨床試験との比較
「追跡不能」について、鼻にスプレーするインフルエンザワクチン「フルミスト」と比べてみました。
申請資料概要
9.臨床概要より


一番上の表では、被験者911人の試験で、連絡が取れなくなって中止した被験者が1人出ています。
一番下の表では、治験中止が4人いますが、「同意撤回」が1人、「GCP逸脱」が3人となっています。GCPとは、治験(臨床試験)を実施するためのルールです。
こちらは中止理由が「同意撤回」と「GCP逸脱」だとわかりますし、人数も少ないです。
一方、前述のガーダシルは、3882人中211人(5%)が中止で、そのうち理由がわからない「追跡不能」が65人もいます。
比較するには1例だけでは足りないと思うので、他のワクチンなどもぜひ調べて比べてみてください。
ガーダシルは他の試験でも、「追跡不能」が多いです。

2.7.4 臨床的安全性 767ページ
第3相の「被験者の内訳」に、「追跡不能」について少し書かれていますが、「追跡不能」の理由はわかりません。

「合計274例(5%)の被験者がワクチン接種期間中に試験を中止した。そのうち大半は、追跡不能又は同意撤回のいずれかであった」「中止の理由として最も多かったのは、追跡不能であった」と書かれています。
中止の理由として最も多かったのが「追跡不能」と書かれていますが、「追跡不能」の理由は書かれていません。ほかの試験についても、コピペしたように同じ書き方をしています。これで説明になっているのでしょうか。
「追跡不能」や「同意撤回」が多数あるということは、結果の信頼性にも関わってくるので、信頼性の高いデータ分析をするためにはそうならないための対策が必要だと思います。この臨床試験では、被験者とのコミュニケーションなどは、どのように行われていたのでしょうか。
さらに、「不明」というのも、信頼性に関わると思います。

ワクチンの効果と関係する「子宮頸部上皮異形成」が発現しているのに、ワクチンとの因果関係も転帰も「不明」です。なぜ確認できなかったのでしょうか。
※黒塗りの状態で公開されています。

妊婦のデータも、中止後に胎児がどうなったか「不明」と書かれた被験者がいます。非常に重要なことなのに、「不明」で申請しても承認審査に通っているのです。
「5.4.1.1.1 V501第3相臨床試験の統合データベースにおける妊娠の転帰」には、「いずれのワクチン接種群においても、転帰不明のほとんどは妊娠終了前に追跡不能となった被験者であった」と書かれていました。
「追跡不能」とは、どんな状況なのかこの資料からはわかりませんが、もし電話をしても応答がない状態がずっと続くということであるなら、なぜそのような状況になってしまったのでしょうか。それが、1人や2人ではないのです。

重篤な有害事象を発現した被験者の%は「追跡を行った被験者数に基づいて算出した」と書かれています。追跡を行わなかった被験者については、有害事象が発現していたとしても含まれていないことになります。もし、それも含めて算出されていたら、違う%になっていたでしょう。
「追跡不能」ではなく「追跡を行わなかった」という表現は、意図的に追跡しなかったようにも読み取れますが、違いがあるのでしょうか。「追跡できなかった」ではなく、「追跡を行わなかった」と書かれているのが気になります。
「除外」することで、都合のよい結果が出せることは以前の記事でも取り上げました(下記参照)。
大学でデータサイエンスを学びたいと思っている高校生には、ぜひこのような臨床試験の結果にも関心を持ってほしいです。そして、疑問を持ったなら、ぜひ自分で調べてみてください。臨床試験の結果として、もっと多くの情報が公開されています。疑問を持たなければ調べることにつながりませんし、調べなければその分野に興味を持てるかどうかもわかりません。調べたいと思う分野を知ることは、受験する学部を決めるときにも役立つと思います。
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