【英国文豪、令和を歩く】第35回:Artemis II 🚀 sky’s not true—space is the view
京都、寺町通の片隅にある、琥珀色のランプが灯る古風な喫茶店。使い込まれたベルベットの椅子に、二人の人物が向かい合っている。一人は華やかなスカーフを巻き、知的な瞳を輝かせた女性、ウィル。もう一人は、ツイードのジャケットを羽織り、指先に微かに薬品の匂いを漂わせた痩身の男、ドイル。テーブルには深煎りの珈琲と、手付かずのスコーンが置かれている

(窓の外、薄雲に隠れた昼の月を見上げながら)
ねえドイル、見て。あの静かな銀の円盤に、また人間が挑もうとしているんですって。「アルテミス計画」……狩猟の女神の名を冠するなんて、なんて心にくい演出かしら。今度は四人の騎士たちが、あの虚空へと馬を走らせるのね。

(手帳に何かを書き留めていた手を止め、眼鏡を拭きながら)
アルテミスIIか。ああ、実に興味深い。かつての「アポロ」が太陽の如き輝かしい先駆者だったとすれば、今回の再訪は、より慎重で、かつ決定的な「帰還」を意味している。ウィル、君の劇中なら、一度去った主人公が再び舞台に戻る時、そこには必ず以前とは違う重厚な動機があるはずだろう?

(楽しげに肩をすくめて)
ええ、その通り。復讐か、あるいは失われた愛を取り戻すためか。でも、現代の探検家たちが求めているのは、もっと実際的な「定住」の足がかりのようよ。ドイル、あなたの友人のように、冷徹な観察眼で月の裏側まで暴こうとしている。あの暗闇の中に、どんな「事件」が隠されているのかしら?

(パイプをくゆらす真似をして、鋭い目付きになり)
ベーカー街の友人が聞けば、きっとこう言うだろう。「データ、データだ! 粘土なしに煉瓦は作れない」とね。月面に基地を築き、火星への跳躍台にする……。これはもはや、単なる冒険ではない。人類という種が、地球という「密室」から脱出するための、壮大な推理の第一歩なのだ。今回の四人の中には女性の飛行士も含まれている。君のように聡明で、恐れを知らない先駆者がね。

(満足そうに微笑んで)
あら、それは素敵。私が男装して舞台に立った時代より、ずっと自由で高潔な旅だわ。でもね、ドイル。どれほど科学が精密な模型を組み立てても、あの銀色の光に照らされる時、人は皆、詩人にならざるを得ないと思わない? 三十八万キロの彼方から、自分たちが住む青い星を振り返る……。それは、どんな悲劇よりも美しく、どんな喜劇よりも滑稽な、究極の「客観」だわ。

(深く頷き、窓越しに空を仰ぐ)
確かに。私の友人も、仕事の合間に虚空を見つめ、己の存在の小ささを哲学的に嘆くことがあった。だがウィル、その「客観」こそが、迷信を打ち破る武器になる。アルテミスIIが月の周囲を回って帰還する時、彼らが持ち帰るのは月の石だけではない。私たちがこれからどこへ向かうべきかという、最も困難な問いへの「回答」の一部だ。

(立ち上がり、軽やかにマントを整えて)
ふふ、論理の騎士様らしい意見ね。でも私は、彼らが月の裏側で、古の神々や、あるいは私たちの物語の残像に出会うことを密かに期待しているわ。さあ、ドイル。月面旅行の計画に思いを馳せるのもいいけれど、まずはこの京都の路地裏という「迷宮」を、私たちの足で探検しに行きましょう?

(苦笑しながら立ち上がり)
やれやれ、君の好奇心には、どんな探偵も追いつけそうにない。行こう、ウィル。現代の月の女神たちが空を駆ける前に、我々は我々の冒険を始めるとしよう。
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