【英国文豪、令和を歩く】第31回:Honeybee, buzzing free, sweet as can be, just you and me!
喫茶店の片隅に置かれた小さな花瓶。そこには季節の花が活けられ、どこからか迷い込んだのか、あるいは春の幻か、一匹の羽音が遠くで聞こえるような気がする。ドイルは満足げにパイプの吸い口を弄び、ウィルは「銀の調(しらべ)」を奏でるような音を立ててスプーンを置いた

ミツバチか。……ウィル、実は私はね、いつかこの騒がしい都会の喧騒を離れたら、サセックスの静かな丘でミツバチを飼って暮らしたいと本気で思っているんだ。彼らの社会は実に理にかなっている。一糸乱れぬ秩序、献身的な労働、そしてあの黄金の蜜を作り出す精緻な工程。ホームズにさえ、あの完璧な組織運営を学ばせたいくらいだよ。

(楽しげに目を輝かせて)
あら、ドイル。あなたはどこまでも「秩序」を愛するのね。でも、私にとってのミツバチは、もっと情熱的で、少し残酷な象徴だわ。あんなに小さな体に、甘い蜜と鋭い針を同時に隠し持っている。まるで、甘美な愛の言葉の裏に、嫉妬という毒を忍ばせる恋人たちのようじゃない?

ははは、君らしい詩的な解釈だ。だが、彼らの針は一度使えば自らの命を奪う、いわば「決死の武器」だ。それは悪意というよりは、守るべきものへの究極の忠誠心だよ。私がかつて書いた事件でも、南アフリカから来た悪漢たちが分け前を巡って争っていたが、彼らにはミツバチのような高潔な規律など微塵もなかった。ただの強欲な「狩人」に過ぎなかったよ。

規律、ね……。確かに、女王を中心としたあの王国は、一つの完成された戯曲のよう。でも、ドイル、あなたは気づいている? 彼らが花から花へと飛び回るのは、ただ蜜を集めるためだけじゃない。生命の種を運び、世界を色彩豊かに繋ぎ止めるためでもあるのよ。音楽の「銀の調」が憂いを解くように、彼らの羽音は春の目覚めを告げる旋律なの。

ふむ、生命の媒介者か。確かに、彼らがいなければ、この京都の美しい庭園も、私の愛するイギリスの田園風景も、色褪せたものになるだろう。科学的に見ても、彼らの「ダンス」による情報伝達は、どんな暗号解読よりも複雑で美しい。ホームズなら、そのダンスの角度から蜜源の距離を正確に割り出すだろうが、私はただ、その神秘に敬意を払いたい。

(いたずらっぽく微笑んで)
あら、探偵さんでも解けない謎があるのかしら? 例えば、あんなに小さな羽で、どうしてあんなに重い夢(蜜)を運べるのか……とか。ねえ、ドイル。あなたが隠居して養蜂家になったら、私にその「黄金の成果」を分けてくださる? このカッフェーのトーストに、あなたの育てた蜜をたっぷり塗って食べられたら、どんな名台詞よりも甘い心地がするでしょうね。

ああ、約束しよう、ウィル。その時は、最高に純粋な蜜を届けよう。ただし、私のミツバチたちは少々気難しいからね。君のあまりに美しい言葉に酔って、仕事の手を止めてしまわないか、それだけが心配だよ。

ふふ、それは私のせいではなくて、春の光のせいにしておきましょう。……さあ、ドイル。ミツバチたちが花を探すように、私たちも次の「面白いこと」を探しに行きましょうか。現代の風に乗って、どこまでも。

そうだね。ワトソン君なら「また奇妙な冒険が始まる」と嘆くかもしれないが……行くよ、ウィル。君の行く先には、常に新しい物語が咲いているのだから。
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